SIDE:魔女
vs巨大アメーバ
魔女の惚れ薬が仕込まれたスープを飲み、美形の奴隷達は、あらゆる攻撃を吸収し、一瞬で耐性を作る厄介な巨大アメーバとなった。
そんな体質のアメーバに、Dr.サディストがありとあらゆる攻撃を試したせいで、彼が試した攻撃全てに耐性を持ってしまい、今やアメーバは無敵状態。
そんなアメーバに投げつけられたのは、最近、自分の立場を疑い始めた哀れな主人公・ディアル。
哀れな主人公を投げたのは久っち。
が。
「たーすーけーてー」
アメーバはなおも生贄を求め、久っちを吸収せんと追いかけてきたのだ。
半透明な体の中には、気絶したディアルが一匹。
起きて脱出しないと消化されてしまうかも。
全速力で逃げている久っちの前方に人影が見えた。
「こっちだ久っち!」
「ワイルド系!」
白いレースの前掛けをしたワイルド系が、久っちと合流するなり一緒に走り出した。
こうやって走っているワイルド系はかっこいい。
レースの前掛けさえやってなければ……。
なおかつそのレースの前掛けが、ワイルド系のお手製でなければもっといい。
趣味は料理、しかも美味い。
お菓子作りをさせると、並みの女ではとうてい及ばないだろう。
縫い物等は手先の器用さの表れ、料理をしない時の暇潰しのようなものらしい。
ワイルド系とDr.サディストは、自らの意思で魔女の元へやってきた。
その辺の詳しい話はまた今度♪
「どうするつもりだ?」
尋ねた久っちに、ニッとワイルド系が頼もしい笑みを浮かべた。
前方にねずみ色の四角い建物が見えてきた。
Dr.の研究室だ。
がむしゃらに走っていると思ったら、ちゃんと何かを計算しての逃亡だったらしい。
「約束ですよ」
「モルモット3体と新しい研究室、忘れちゃいないよ」
ぶつくさ言うDr.に隠れているよう指示すると、魔女はすぅっと深呼吸した。
息一つ乱していないワイルド系と、走りすぎて汗だくの久っちが、魔女を通り抜けて建物の中に逃げ込んでいった。
ディアルを体内に取り込んだ巨大アメーバが魔女に迫ってくる!!
巨大アメーバが現れた!
HP&MP:現在成長中
攻撃力&防御力:∞
VS
惚れ薬研究中の魔女
HP&MP:計測不可能
攻撃力:殺られる前に殺る
防御力:攻撃は最大の防御
「“我と契約せし混沌の生き物よ、契約の名のもとに我が袂に集え”」
魔女の口から発せられたのは、いかにもファンタジックな召喚のセリフ。
足元に魔法陣が発動した。
まさかまともに戦うつもりなのか!?
アメーバの中のディアルが目を覚ました。
「*☆%$&#¥」
アメーバの中に居る事に気付き、パニックになるディアル。
だが悲劇はそれだけで終ってはくれなかった。
「“出でよ、マッチョォォォ!!”」
「ボンバァアアアアアアアアア!!!!」
むきむきマッチョ2人が召喚され、アメーバに向かって一直線!
なぜそんなものを召喚する事ができるのか?
もはやそんなのは小さな問題だ。
ここで問題なのは、主人公・ディアルが助かるかどうか。
彼女も作れず、失恋連発したまま終るのか!?
(っていうか主人公死んだら連載終了だろうがぁっ!)
パニックを起こしているディアル。
アメーバの中、歪む視界。
そんな視界に突然飛び込んできたのは、危険も顧みずディアルを助けに飛び込んだ絶世の美女!
ではなく。
「どっせぇええええい!!」
暑苦しい筋肉をむきょむきょさせた2人のマッチョ。
逞しい腕がディアルの身体を捕まえた。
「んぎゃぁぁぁぁっ!!!!」
アメーバの方がマシな、ぴちぴちした肌の感触。
どうせ素肌に触れるなら美女の方が良い。
あらゆる意味で衝撃を受けたディアルは、現実を忘れるため、一番手っ取り早い方法をとった。
「もう、いや……」
ディアルは気絶した。
一方、マッチョに体内を通過されたアメーバも、パニックを起こしていた。
体内に残る気色悪いマッチョの感覚を消すため、後味のいい獲物を食べねばならぬ!
そんなアメーバの視界に映ったのは、不敵に笑う一人の女。
見た瞬間、アメーバは女がマッチョを召喚したのを思い出した。
全身に這う恐怖。
自分達がこの姿になったのは、この女のせいだと本能的に悟った。
逃げなければならぬという思いと、排除しなければならぬという思いが同時に起こる。
「魔女様!」
ねずみ色の建物の中から、ワイルド系が顔を出し手を振った。
獲物だ。
魔女が走り出すより前にアメーバは動きだしていた。
ワイルド系が慌てて建物の中に戻る。
不気味な音を立てながら、アメーバが建物の中に消えていった。
その後姿を見送り、にやりと笑った魔女の足元に、なにやらほわほわとした黒い生き物がすり寄ってきた。
かちゃりと紅茶の入ったカップが静かにテーブルに置かれた。
窓の外の色が鮮やかなオレンジ色に染まってゆく。
「う~ん、世界は今日も美しい」
夕日が沈めば夕食の時間だ。
今日の夕食はなんだろうか。
そろそろキノコが採れる時期だし、キノコのお吸い物、キノコご飯、キノコの煮物……キノコだけでも、数え切れないほど食べたいメニューがある。
「……」
夕焼けに染まった風景を眺めながら、白々しいセリフを呟いた女の隣に、シャワーを浴びたばかりらしく、髪から水を滴らせた美形が立った。
なんだか機嫌が悪そうだ。
彼は久っち、白い歯と爽やかさが自慢の美青年だ。
この女は久っちと仲間2人の主人で、彼らは女を『魔女』と呼んでいる。
名前は別にあるのだが、人間をさらうし、怪しい薬は作る、悪魔と取引はする、怪しすぎる笑い声をたてる、ほうきに乗って空を飛ぶ、これだけ条件を兼ね備えた女を魔女と呼ばず、誰を魔女と呼ぶのだろう。
「さっぱりしたかい」
久っちの機嫌の悪さを無視して、魔女は面白そうな笑みを浮かべた。
「せっかく久々に女の子と喋れると思ったのに」
「女の子、ねぇ」
うーんと魔女は首をかしげた。
魔女の膝の上では、黒いラ・フィナがぐるぐると喉を鳴らしながら目を閉じている。
「しかし今回の策は大胆でしたね」
「だろう」
ラ・フィナがぴくりと耳を反応させた。
「ルティナも大活躍だったね」
耳の裏をくすぐってやると、ルティナと呼ばれた真っ黒のラ・フィナが、嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせた。
も、もしやこの黒いラ・フィナ、北の森の!?
何から生まれたのか誰も説明してくれず、聞くと目を泳がせ、不審なほど動揺するあの北のラ・フィナなのか!?
なんか想像よりも普通に可愛いじゃん。
外見もマグマのラ・フィナに比べれば、天使と呼んでも誇大ではないんじゃ?
だけどティナは部屋の隅で硬直していた。
視線の先には黒いラ・フィナ。
ティナの瞳に浮かんでいるのは、紛れもない恐怖である。
魔女の向かい側の椅子に座ると、久っちも一緒に夕日を見つめた。
「しかしまさか建物の中を、ごっそり抜くとはおもいませんでした」
感服したと久っちが肩をすくめる。
「深さはだいたい50mぐらいかな? あれであのアメーバも悪さはできまい」
「飼いならしてどうするつもりです」
「ま、それはそのうちね」
「Dr.は――」
「ん?」
「実験材料なくなったけど、どうするんでしょうね」
「さぁねぇ」
久っちの質問を、魔女は笑い流した。
「魔女様、お使い行ってきたぜ」
「ああご苦労様」
「ちゃんとメッセージも置いてきたぜ」
「ありがとう」
「んで」
ワイルド系は視線をぴたりと机の上に止めた。
久っちもあえてツッコミせず、ティナが近付いてこない原因の一つでもあるそれを、ワイルド系は無視する事ができなかった。
「なにこいつ」
机の上でダンス(?)を踊っているのは、紛れもない、今日の主役の無敵アメーバ。
しかしサイズは掌サイズである。
「ピョコたん」
「え?」
「ルティナの身体に欠片が付いていてね、知能もけっこうあるから飼ってみようかと」
「危なっ!」
「大丈夫、悪さをしたらルティナの餌になるだけだもんね~」
にっこりと笑った魔女に、黒いラ・フィナは上機嫌で鳴き声を上げた。




