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ライルキレル

 僕はあなたが嫌いだ。


 いつもふざけたようにへらへらと笑って、現実を現実と受け止めないようなその笑顔。


 僕はあなたが嫌いだ。


 とてつもない夢を大口叩いてのたまって、あまつさえそれが叶うと信じ込んでいる。


 僕はあなたが嫌いだ。


 僕の周りにしつこく付きまとって、離れろと言っているのになおもにこにこしながら構ってくる。


 小さい頃からそうだった。

 一体いつになったら学習するのか。


 僕はあなたが嫌いだ。


 料理なんててんでダメで、包丁の使い方も危なっかしいし、火加減だって間違える。

 それなのに意気揚々と肉じゃがを作ってた。

 案の定、あまり美味しくはなかった。


 僕はあなたが嫌いだ。


 傷だらけになった指を隠しながら、僕にお弁当を差し出す。

 もっと堂々とすればいいのに。


 僕はあなたが嫌いだ。


 楽観主義。自信家。鼻につく笑顔。ナイーブなくせに、笑顔でなんでも隠しきろうとする。


 僕はあなたが嫌いだ。


 どうして異性から告白された時にあっさりと断ったのか、理解ができない。

 あなたを好きになる人なんてよほどの物好きなんだから、さっさと付き合ってしまえばいいのに。


 僕はあなたが嫌いだ。


 何でもないよなんて言葉、僕は嫌いだと分かっているのに言うから嫌いだ。本当は傷ついてるくせに。


 僕はあなたが嫌いだ。


 何でも素直に僕に言わない。僕も素直にあなたに言えない。


 僕はあなたが嫌いだ。


 泣き虫のくせに、すぐに涙を引っ込めたがる。走り去って行った時はなにか言うかと思ったが、やっぱり何も言わなかった。


 僕はあなたが嫌いだ。


 何度呼んでも、もう戻ってこないから。


 僕はあなたが嫌いだ。


 ……どうして先に行ってしまったのですか。

 僕が素直になるまで、もう少し待っててくれてもいいじゃないか。


 僕はあなたが嫌いだ。

 なんて、ずっとそうやって嘘をついていた僕自身が、本当はなによりも嫌いだ。


 時間が足りなかった。

 言葉にするには、もう遅すぎだ。


 僕はあなたが嫌いだ。

 嫌いだ。

 大嫌いだった。


 それがいつの間にか、こんなに好きになったというのに。


 いつになれば戻ってきますか。

 そちらの様子はどうですか。

 寒くはありませんか。

 料理は、少しくらい上手になりましたか。

 向こうで泣いていませんか。

 今素直な気持ちをしたら、あなたはちゃんと聞いてくれますか。

 僕があなたにごめんなさいと言ったら、また笑ってくれますか。


 無理ですよね。

 無理ですよね。


 あなたは、もうそこにいない。



(僕は、あなたが)

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― 新着の感想 ―
[一言] 良かった
[一言] 失ったものは戻らない。人は、脆い。 人間は必ず最期がある。しかしそれが次の瞬間であるかもしれないことに、人間は気づかない。 それはきっと残酷で美しい摂理なのでしょうね。
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