表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仙人天  作者: 天内君保
第一章「第二波」
8/19

勝ち目のない戦い

地面に立った仙は瞬時に男を見つけた。



「ほう、本当に一人で来るとは。」


「一緒にいた友は君を見捨てたんですか?」


「違うっ。」



仙の返答に男は少し笑ってみせた。



「では、人気の無い所まで行きましょうか。」



二人は村の外れの荒野まで出た。



「取り合えず、なんで俺が狙われるのか意味が分からない。」



今日は訳の分からない日だ、仙の頭は混乱していた。

男は背を向けている。



「意味などは知らない。

私達はただその任務を遂行するだけですので。」


「そうか…。」


「冷静なんですね。

これから殺されるのに。」


「一つ言わせてくれ、死ぬつもりもないし戦うつもりもないっ。」


「いいかっ!ぜっったい戦わないからなっ。」


「ははっ、面白いことを言う人だ。

私は君の敵ですよ。


「敵ってなんだよ……。」



今まで喧嘩しかしたことない仙にとって

"敵"や"戦い"などという言葉は自分の置かれている立場と共に理解出来なかった。



「俺は静かに暮らしたいのにっ。」


「お前みたいな訳の分からない奴に殺されてたまるかっ!」


「では…、その精一杯の抵抗を私に見せてください。」



男は再度ジャマダハルを持ち、構えた。



「だから戦わねえっつってんだろうがよっ。」



男の本気の構えと視線に仙は一歩二歩と後退りする。

部屋を出る時に見せた動き、あれでは勝ち目がないのは百も承知だ。

戦況はあまりに理不尽過ぎる。



「時間稼ぎ……、君はそれがひどく下手ですよ。」


「君が死んだら泣いてくれる人はいますか?」


「そんなの知るかよ。」



何の武器も無く戦う術も無い。

誠の武器を借りてきたら、など今更後悔し始めていた。



仙の言葉を聞いた途端に男は動いた。

普通の人間には目に追える早さではないだろう。

気づいた時には胸に刃が当たるか当たらないかの距離で止められていた。



「なっ……!」



仙はジャンプして一度距離をとるが

男は明らかに仙の様子を伺っている。



「これで分かりましたか?

自分に何が出来るか。私と君の力の差がどれほどか。」


「……たち悪すぎるだろ、お前。」



仙は苦笑いをしたが

心は明らかに恐怖で支配されている。



「大切な人が、泣いてくれるといいですね。」


「そしてその人が

怨みを持つことを祈ります。」



男は再度仙に向かって動いた。

手加減という言葉はそこにはなかった。

その瞬間に仙の体に激しい衝撃が襲い、



「さようなら……」



無惨にも男の一撃で仙はその場に崩れ落ちた。



「がっ……は……!」


「残念だ。

酷く……残念です。」



男は心無しか悲しげな表情で振り返り、

痛みでもがいている仙に背を向けて空を見上げた。



男が立ち去ろうとした時だったろう、

突如眩しい光が世界を覆った。



その場の光景は苦しんでいる仙には理解出来なかった。

人々は苦しんだ、叫び声が聞こえるわけでもなく自然の音だけが世界を支配する。



そんな、静かな悲劇だった。

視界もまともに感じられない中で肌には温かい何かを感じ、

意識が無くなる瀬戸際で奇妙な温かさの原因を知った。



村が焼けている……。



脳内はそれだけで、

ただそれだけで



悲しみや余計な感情など感じられないまま

意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ