仙の変化
次の朝。
目覚まし時計の耳障りな音が響けば仙はそのまま手を伸ばし音を止める。
いつもならその後すぐ起き上がる行動にも、身体が重たくて仕方ないように少し動けば、そのままベッドに再び身体を預け力を抜く。
それから少しの時間がたち、身体がピクリと動くとようやく身体をゆっくりと起こす。
ベッドに腰掛ける形となり眠たい目を擦ればカーテンを開け、眩しい陽射しが部屋に差し込む。
「ん……雨でも、降るのか?」
朝の7時、外は快晴だと言うのに視界が暗いという事なのか、そう言った。
そして、まだ酷く眠い様子で再び腰掛ける。
二度寝でもしてしまいそうな程だが、今日の仙には予定があるのでそれは許されない。
ガチャッ─
仙はようやく部屋のドアを開け階段を降り、下の階へ向かう。
少し壁を挟んだ向こうには母がいるのか、物音が聞こえる。
毎日の日課、水道を出し洗面台で顔を洗おうとすると鏡を見た。その瞬間に仙は固まってしまう。
「!!!」
本当に驚いた時というのは声も出ないのか驚愕した表情で鏡の中の自分を見つめる。
仙の髪はその全てが白くなり、顔や体の一部には黒い無造作な模様が浮き出ている。
仙は別人のように変化してしまった。
だが、これは夢だ、夢に違いないと自らの顔に手を当て何度も擦り上げる。
夢であって欲しい思いとは裏腹に、頬から感じるのははっきりとした感触。それは痛みを感じる程強くしても同じこと。
母からは仙は見えない位置に居る。出しっ放しになっていた水を止めると再び鏡へ向き直る。
奇妙な模様や髪は一切変わらない。
唇に力を込めれば震え出し、初めて感じる絶望感に何が何だか分からず目に涙を溜めて。
「………ぁ」
母に顔は見せられるはずもない。
一体自分の身体に何が起きたのか、これからどう生きて行くのか…何も分からない。あまりにも酷過ぎる。
そして、部屋へ戻ろうとした時。
「仙? 起きたかい 朝ご飯出来てるわよ」
いつもと変わらない母の声。
それなのに今は優しく包み込むような感覚を与え、仙の心の叫びを和らげようとしてくれているよう。
その優しさに俯きながら目に手を当てる。
「ぁ、ああ…」
だが身体は自分の部屋へ向く。
こんなに優しいと思ったことはないのに、大切だと思うからこそ、この姿を見せる訳にいかない。
「今は、いいや…」
「あら珍しいのね いつもあれだけ食べてたのに… 具合悪いとかじゃないでしょうね?」
仙を心配した母は様子を伺いに、足音は仙へと近づいてくる。
「っ!」
足音に警戒したのか、そのまま部屋への階段を駆け上がった。