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仙人天  作者: 天内君保
第一章「第二波」
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不思議な剣

 悪い夢にうなされて布団から飛び起きた男。

 名前は井山仙、18歳の黒髪で本当に何処にでもいそうな少年だ。

 夢の内容があまりにも酷過ぎたのか、動悸が起きたような様子で胸に手を当て落ち着かせようとする。


「後味悪過ぎるだろ……なんだったんだよ」


 顔に手を当てれば少し呼吸を整え、ここは本当に自分の部屋かと辺りを見回す。

 そして近くの時計を見れば嘘のように飛び上がり急いで支度を始める。


「やばいやばい!マジかよっ」


 時間が何やら迫っているのか、仙は急いで部屋のドアを開けた。すると開けた向こう側に人影が。


「母さん!なんだよビックリしたな」


「あら、どうしたの?そんなに慌てて」


呑気な顔して出てきたのは仙の母親である井山保美。親のなのにどこかとぼけている。


「どうしたのって、リアス湖に行かないと!」


「リアス湖?何しに?」


「えっ… 仕事だよ昨日話たじゃねぇかよっ」


 手には何かを持っているが。


「ごめん 急いでるから!」


「あっ、ちょ 仙!」


 仙はドアの前に立って、いく手を塞いでいる母親をヒラリとかわし、だらしない寝癖のついた髪を直しもせずに、急いで玄関から飛び出した。


 家を出た途端に猛スピードで湖に向け走り出す。朝寝坊してしまうのはそこまで珍しいことではないが、悪い夢を見た後のことなので罰ゲーム的な何かを感じていた。

 家からリアス湖までの距離は2、3kmといったところか。

時間は朝の6時、ここアルリシヤ村の男達の大半がリアス湖で仕事をしている。

 小さい村なため国からの関与はほとんど無く、戦争の所為で村から出る者も少ない。

 皆生きるために漁や畑で野菜を育てたりして生計をたてている。

 そんなこんなしているうちに、ようやく仙は湖へ着いたようだ。


「はぁ……はぁ……あっ、おっさん!」


 知り合いの中年男性に対して手を挙げて挨拶をした仙だったが、途端に膝に手をつき息を整える。


「おお、仙じゃないか 遅いから来ないのかと思って心配してたとこだったんだぞー」


 仙は砂利で出来た緩い坂を小走りで下り、男性の所へ行く。近くには漁船が停めてある。


「ごめんごめん、……いや寝坊しちゃってさ」


「ははっ、そんなことだろうと思ってたよ。誠はもう来てるぞ」


「え、お前早いな!」


 目線の先には網のような物をいじってる若い長髪の男がいた。誠は横目で仙を見た。


「これが普通なんだよ 馬鹿なのかお前は」


 名前は御手洗誠。

 仙とは幼い頃からの友人で、子供の少ないアルリシヤ村では貴重な若い人材だ。

 でもちょっと変わりもので、怒らせると喧嘩が物凄く強い。

 そのおかげで仙は一度も勝ったことがなく、今では喧嘩になりそうになると仙が一歩引いている。


「相変わらず冷静なやつだな そういう冷静な一言にたまに傷つくんだよ……」


 苦笑いをし、辺りを見ると先程の男が何やら困っているようだ。


「おい何かこれ…引っかかってるんだが、取れるかい?」


 どうやら船を縛り付けてた縄に何かが引っ掛かっていて船を出せないようだ。

 近づいてみると棒のような物が砂に埋まっていた。見た目的には引っ張れば軽く取れそうな感じではあるが。


「よし、任せろ!」


 仙は意気揚々とした表情で両袖を捲り上げてそれを軽く引っ張った。


「あ……れ?

おらあああっ!!」


 無駄な巻き舌で本気でそれを引っ張るが、まだそれは抜けなかった。


「なんだこれ…… もうこれ、縄切った方が早いんじゃね?」


「やらせてみろ」


 声の主は誠だ。

 中年男性と仙が見守る中、近づいてそれをガッシリと掴んだ。


「無理だってー 誠ー」


 そう言う仙を誠はキッと睨んだあと、腕に力を込めた。


ズサーッ



 簡単に取れてしまった。


「あれっ…?」


 誠は仙をどや顔で見つめる。仙は苦笑いをしながら頭をかく。


「おかしいなー やたら力入れても抜けなかったのに何でだよ」


「ははっ、仙がやったおかげで地盤が緩んで抜けやすくなっていたんだろう」


 中年男性がそう言うと。

 誠は抜けたそれをもう片方の手で不思議そうに触れてよく見ている。


「なんだかその形……剣っぽくないか?」


 誠は腰を下ろし、それを海水で軽く洗った。

 しかし、古い剣なのかそれは錆だらけだ。


「おい、これって軍のやつか何かか?」


 不思議そうな顔をして仙は誠に尋ねるが、誠は終始無言でその剣のような物を見つめている。


「誠、ちょっとそれ貸してみてくれよ」


「いいからもう出るぞ〜、漂着した軍の武器かなんかだろうよ」


 早く漁に出ようとする中年男性。

 漂着したと考えるのが妥当かもしれないが、だとしたら抜けない程深くまで刺さっていたのは少し不思議だ。

 誠は仙に剣を差し出した。仙は少し嬉しそうな顔をして剣を受け取る。が、次の瞬間。


「え!!」


ドガンッ!

ばっしゃああん!!


 剣を受け取った瞬間に何故か仙は大転倒。海水を飲み込んでしまったようで咳こんでいる。


「何で、ひっくり返ったんだ…?」


 大転倒に周りにいた村の人も気づいてしまったらしい。立ち上がり、落ちた剣を持とうとするけど持ち上がらない。


「え?もしかしてこれ…… すげぇ重たい?」


 重量があるなら抜けなかったことに納得は出来るが。大きさ形からしても、もしこれが鉄塊であっても持ち上げることも出来ないほどの重量にはどうやってもならない。

 そして先程刺さっていた剣を抜いた時や剣を渡す時に誠は片手で持っていた。

 よほど、仙が非力ということなのだろうか。


「ごめん誠 これもういらんからどっかやっといてくれ」


 仙はちょっと怖くなったのか、そんな無責任な言葉を言うと落ちてる剣を放って再び船に乗り込んだ。

 そんなことも気にせず誠は再び謎の剣を片手で持ち上げた。


「だから、なんでそんな軽々なんだよ…」


「仙は非力だなー 誠はあんな軽々持ち上げるのに」


「非力じゃねぇって、あれが重過ぎるんだよ。持ってみりゃ分かる!」



 さぁ出発って時、誠が急に頭を抑えた。


「な、何だこの音は…」


「どうした?音? そんなも聞こえねぇけど……耳鳴りじゃなくてか?」


「違う。気分が悪くなってきた…」


「おい、大丈夫か?」

 

 珍しく具合悪そうな誠を見て心配になってきた仙。

 気分を悪くする程の奇怪な音が誠の頭の中で響いているのだろうか。

 誠は片手で額を抑えたままでいる。


「すまん……」


 誠は一言だけ言うと後ろに振り返り遠ざかっていった。


「しっかり休めよー ってそれ捨ててけって!」


 誠は何故か謎の剣を持ったまま歩いていく。

 普通は捨てていきそうな物だけれど。


 誠は家までの道中、村人に不思議そうな顔で眺められていた。

 具合悪そうな表情に気づき心配した村人が誠を家まで送ってあげたようだ。


 それから数時間が経過し、例の剣について自国であるキャレブの軍の物かもという噂もあったが、それにしても古びていて真相は分からなかった。


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