そこに至る道程
鏡に映る美女はニコリと女神の様な微笑みを浮かべている。
『しばらくここで反省しろばーか』
「え?」
その笑顔の主から出たとは思えない言葉に聞き違いかと困惑して振り返るが、そこには誰もいない。
「え?」
もう一度振り返って鏡を見るとそこには確かに女神の様な笑顔を浮かべた美女がいる。どう言うこと?
『しばらく【if】で反省しろって言ったの!私にあんなことして良いのは旦那さんになるひとだけなんだからね!』
美女が頬を赤らめながら胸の前で腕を組み、先程までの笑顔とはうって代わりプンスカと言った表情で告げる。
「あんなこと?って……え、ええええ!?あれ夢じゃなかったのかよ……」
徐々に記憶が甦る。
俺が現実と思っていたこの世界は魔界の遊戯世界だと言う美女サラ(悪魔?)に火の聖霊が濃縮された火球をしこたま打ち込まれて気絶したんだ。
なんで気絶したかというと……うへへへ。自然と手がわきわきと動く。
『ストーップ!ちょっと!あんた今イヤラシイ事考えてたでしょ!?』
サラが慌てて自分の胸を腕でサッと覆い隠す。
「失礼だな君は。この魔法使い目前(年齢イコール童貞歴)の僕が三次元の女性にイヤラシイ事など出来るはずがないではないか!」
眼鏡をくいっとあげる動作をして(眼鏡なんぞしていないが)顔だけはキリッとして鏡の中のサラを見つめる。
『え、あの、その、ごめんなさい。決めつけは良くないわよね……ってその手!その手は何なのかしら!?』
少し頬を赤らめてしおらしく謝るサラにわきわきしている手を見られてしまった。うーん失敗。
『まったくもう!いい!?あなたはカインのはずなの。なんで記憶がないのかわからないけどこのペンダントが光っているのがその証拠よ!このペンダントはアナタが私にくれたものなのよ?覚えてない?』
そう言って首から下げた剣の形をした十字型のペンダントをチャラッと持ち上げて見せる。
確かに見覚えはある。あるんだがそれがいつどこでの事なのかがまったくもって思い出せない。
「悪いけど何も思い出せない。見覚えがあるにはあるんだけど……」
言って鏡の中のサラを見ると、明らかに落胆した様子で「仕方ないわ」と呟いて黙ってしまった。
そんな湿っぽい雰囲気に耐えられなくなり努めて明るく話しかける。
「じゃぁ、俺がサラの探しているカインだとしてさ、俺はどうすればいい?どうすれば記憶を取り戻せるんだ?」
取り戻すも何もこの三十年の記憶はバッチリある。もちろん個別の事象に対して事細かにと言うわけではないが、どの小学校を卒業してやら担任の先生はあの人で、小学生の時好きだったこはあの子でなどちゃんと覚えている。そもそもこの世界が遊戯と言うのがちょっとな……等と考えていると
『そうね。記憶を取り戻す方法を考えた方が建設的よね。よし、じゃぁわたしは魔界でこう言うことに詳しい龍に聞いてみる!』
龍と書いてヒトと読むのはおかしくないですか?おかしいですよね?気にしたらダメですか。そうですか。
『あなたはまずちゃんとクエストこなして魔法使いになっておいてね!』
またねーと言ってサラは消えてしまった。
「え?クエスト?魔法使い?」
なにそれ美味しいの?
魔法使いってただの自虐ネタなんじゃないんですか!?
『あ、そうそう、まずは《天職之神殿》に行って《天職要項》貰うのよ?今は《自宅警備員》だから、あとは《童貞証明書》貰えば大丈夫だと思うけど』
突然ペラペラと専門用語で捲し立てられ、鏡に《天職之神殿》《天職要項》《自宅警備員》《童貞証明書》といった文字が次々と浮かぶ。
ぶっちゃけて言うと働けって事らしい。
というか
「お、俺、べ、別に、ど、どどどどど童貞じゃねーし!なにか証拠はあるんですか!?無いですよね!?無いのにいきなり童貞呼ばわりとは心外だなぁ!いや、童貞が悪いっていってる訳じゃなくて、見た目で判断するって言うのは僕嫌いだな!差別とか偏見とかやっぱり良くないと思うんですよ!って……なに笑ってるんですか?」
鏡の中のサラは俺の猛烈な言い訳を聞いてニヤニヤしている。うわーコレあれだわ。完全に近所のおねぇさんが童貞見る目だわ。
『さっき自分でいってたよ?「魔法使い」目前って。だってその為にあのカインが30年ぽっちとはいえ我慢したんでしょ?』
エライエライと言って鏡越しに頭を撫でられる。
あれ、おかしいな。目から体液がアフレテクル。
冷静に童貞肯定されるとかどんなプレイですか。俺だけ焦って恥ずかしい。穴があったら入りたい。いやむしろ卒業させてくださいお願いします。
羞恥心でサラの顔をまともに見れず両手で目を覆う。そんなことしてもなんの解決にもならないのはわかっている。
でも、今はそっとしておいてくれ。
全然話進んでないですね…orz
中学生の頃の教科書に載っていた『道程』という詞に、過剰にそわそわ反応していた男子いませんでしたかね?私だけですか。そうですか。