人の夢は儚い
チュンチュン……ピピピピ……
鳥のさえずり声で目を覚ます。
「ん~~~っ!だぁぁぁぁぁ!ふあぁぁぁぁ~~……」
全身で大きく伸びをした後に盛大な欠伸をして脳に酸素を送る。身体がまだ縮こまっているので首、肩、背中、翼、腕、手首、とぐるぐる回し覚醒させていく。最後に指を互い違いに組んで手のひらを空に向けて伸びをして覚醒の儀式完了だ。
ベッドから起きて部屋を出てリビングに向かう。
ガチャ
リビングのドアを開けると朝飯を食べていた親父とお袋と妹が一瞬俺の方を見てから、古いブリキのおもちゃの様にギギギとゆっくり自分の朝食へ首を回し、その後今見たものが信じられないとばかりにガバッと全力でこちらを振り返る。
「オ、オハヨウ……」
なにコレ?なんなのこの反応?俺なんかした?
若干顔をひきつらせながら朝の挨拶をする。
「「「おはよう!?」」」
三人が三人とも驚きを帯びた声で重なる。
なんで朝の挨拶くらいで驚いてんだこの家族はと怪しい眼差しを向けて朝食の席へつく。
高校生になった妹がガタッと後ずさり俺の方をプルプル震える手で指差しながら言う。
「お、おにぃ…」
全く、そろそろ高校も卒業するんだから「おにぃ」なんて変な呼び方は止めて、昔みたいに「お兄ちゃん」と呼んでくれれば可愛いげがあるものを。
しかし今日は家族の様子がどうもおかしい。
まるでテレビで見た指名手配犯でも見るような……
「あ、あなた……快音?」
そんなことを考えていると母親がおかしな事をきいてくる。
当たり前だろうが。自分の息子の顔も忘れたのか?
呆けるにはまだ若いだろう。
『エーテリ・マ・エーダン・ローガ』
あれ。なんかちょっと発音がおかしいな。
寝起きだからか。
「ひっ!」
母親がガタッと驚いて立ち上がる。
目の前のアジの開きが先程まで大海を泳いでいて、ついつい誘惑に負けて怪しい餌を食べてしまったがために釣られた釣りたての鮮魚さながらに瑞々しくなり、皿の上でピチピチ跳ねている。
なんだコレ?
『ナーン・デ・クォーレ』
どうも口の様子がおかしい。急にしゃべりにくくなった気がする。
ポンと音がして先程のピチピチ跳ねていたアジが、焼いた開きに戻っていた。なんだったんだろう?母親はアジの変化に驚いていた様に見えたが……妹の真理は今のを見ていたのか。
『マーリィ・マノ・ミ・タクァ』
妹を振り返って見ると、ガタンとイスから落ちてパンツ丸見えでピクピク気絶していた。おいおい良いのか女子高生。
しかし、どうも俺の顔が突っ張っているような気がする。
「か、カインなのか?」
再び今度は親父からの質問だがどうも様子がおかしい。
首をかしげると
「その格好はどうしたんだ!?お、お前の好きなこ、こ、こ、コスプレか!?今回のはで、できがいい……な?!圧倒的に……」
こっこっこっこって鶏かあんたは。
圧倒的にできのいいコスプレってなんだよそれ。
「か、鏡で見て見た方が良いんじゃないか?」
何を焦ってるんだ?とりあえず洗面所にいって鏡でも見てくるか。圧倒的にできのいいコスプレってやつも見てみたい。
イスから立ち上がるとどうも天井が低くなっているような気がする。
リビングを出て洗面所の鏡を見るとそこには――
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ???」
***
私は真崎 真理十七歳。
この春から高校三年生になった。
気の弱い警察官の父と気の強い看護士の母と無色透明じゃないや、無職の兄の四人家族だ。
今日は休日で私は部活のために、両親はシフト制の仕事なので土日は関係ないので出勤前の朝食をとっている。無色透明の兄はいつも部屋からほとんど出てこない。よくあるオタクの自宅警備員と言うやつだ。
十歳以上年齢が離れているので小さい頃はお兄ちゃん子だったが、中学生にもなると自然と離れていった。
見た目だけは悪くないのでちゃんとしてくれれば自慢の兄と言えそうなものだがその兆しはない。
ところが今朝に限ってどういう風の吹き回しか朝食の席に現れたのだ!お兄ちゃんと言うより鬼が……
外見はあまり変わってないように思うが、耳の後ろ辺りから角のようなものを生やし、身体は一回り以上大きくなっている様に見えた。パジャマははち切れんばかりにピチピチで私の横に座った。
「お、鬼……」
私は震える手で鬼の様な兄を指差して後ずさった。
「あ、あなた……快音?」
母が聞いている。聞かずにはいられないだろうが聞いてしまう。
こちらから名前を出して聞いて「そうだ」と言われたらそれ以上追求のしようがないが。そこまで頭が回らないのはしょうがない。
『エーテリ・マ・エーダン・ロウガ』
鬼の兄が何事か答えた。当たり前だろうが?と聞こえたと思ったら、頭に生えている角がぼんやりと光った。
目を擦って再度見るもやはり光っている。少しきれいと思っていたら、母の目の前で皿に盛られていたアジの開きが、釣られたばかりの魚のようにピチピチと跳ねているではないか!
『ナーン・デ・クォーレ』
鬼の兄がまた呟くとアジは元の開きに戻っていった。
ハハハ。なんだコレ。私夢でも見てるのかな。
『マーリィ・マノ・ミ・タクァ』
急に呼ばれてビックリしてイスごとひっくり返って頭を打って気絶した。
***
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ???」
鏡にはなんと言うか鬼のような悪魔のような角が生えた馬のようなごっついやつがこっちを見返している。
その正体が自分だと気づくまでたっぷり一分程かかった。
そういえば朝からやけに身体が重いような気がしていたが、まさかこんなことになっているとは思いもよらなかった。
「こ、コレが俺なのか?なんだコレ?悪魔かなんかにとり憑かれたのか?それとも病気?……あ!もしかして公園のアレが原因か?」
そういえば今朝の目覚めの儀式も翼とか入ってたのになんの違和感もなかったな……。
「あーなんなんだよこれ!訳わかんねー」
頭を抱えてしゃがみこむと頭を抱えた腕には確かに角の感触がある
。
「そりゃ昨日まで普通だった息子や兄がいきなりこんなになってたらああいう反応になるわ……はぁ……」
ため息を吐いて項垂れる。
『金の宝珠!銀の宝珠!』
聞き覚えのある声が辺りに響き、見覚えのある砂が目の前に集まり金と銀が連なった数珠の様なもになり俺の左手首に時計のように納まった。
すると、一際明るく光ったあとにボフンと水蒸気のようなものが上がり、その霧が晴れたあと鏡を見ると人間の姿の俺と、公園で夢に出てきた美女が笑顔で写っていた。
三話冒頭のコピペと見せかけて一文字追加していると言う小賢しいことをしてみましたが、気付いた方はいらっしゃいましたでしょうか。ちょっと長くなりすぎましたかね。そろそろ本題に……