現実はどっち
チュンチュン……ピピピピ……
鳥のさえずり声で目を覚ます。
「ん~~~っ!だぁぁぁぁぁ!ふあぁぁぁぁ~~……」
全身で大きく伸びをした後に盛大な欠伸をして脳に酸素を送る。身体がまだ縮こまっているので首、肩、背中、腕、手首、とぐるぐる回し覚醒させていく。最後に指を互い違いに組んで手のひらを空に向けて伸びをして覚醒の儀式完了だ。
ベッドから起きて部屋を出てリビングに向かう。
「おはようカイン」
美人なお姉さんが俺に向かって言う。
「おはようサラ。今日も綺麗だね」
さらっとキザな台詞を言って席につく俺。
「バターとジャムどっちにする?あ、コーヒー飲むわよね?お湯沸かすわ」
言ってサラは火の聖霊に命じる。
「バターで頼む」
「オーケー……はい、どうぞ……チュッ」
パンにバターを塗ってそれをわざわざテーブルを回って手渡しに来たサラは、去り際にキスをして自分の席につく。
暫くすると湯が沸けたようで、サラが再び立ち上がりカップにコーヒーを注ぐ。
パンを三口で頬張りコーヒーで流し込む。
「さてと」
椅子から立ち上がって切り出す。
「ここは一体どこなの?!なんなの?!なんで俺こんなところで呑気にパンにバター塗ってコーヒー飲んでるの!?そこ!ニヤニヤしないで貰えますかね?!あんたが原因なのは分かってるんだからな!」
分厚い木の一枚板で出来ているテーブルを両手でバンバンッ!と叩いて、鼻息荒く一気に捲し立てる。
「はい、これでも飲んで落ち着いて?ね?」
まあまあとサラが新しいコーヒーを注いだカップを「あついよ」と言って差し出す。ドカッと席についてフンと鼻を鳴らすとコーヒーを一口のんだ。
「あ……ちぃー!!!!何考えてんだアンタ!」
「いや、熱いって言ったんだけど……」
お、おう、確かにあついよ言ってくれていた。今のは俺が悪い。
「落ち着いた?」
ニコッと素敵な微笑みを前に毒気を抜かれた様に冷静になる。
「お、おう……」
「あのね、昨日も説明したと思うけど貴方が言っている『元の世界』は魔界の【if】と言うゲームの世界なのよ」
「お、おう……っていやいやいや!魔界?ゲーム?意味がわからん!どう見てもこっちの方がゲームだろうが!?」
窓の外には森!山!川!アマゾンの奥地にでも連れてこられたかと思ったが、空にはプテラノドンみたいなのやガーゴイルみたいなやつ短絡的に言うと悪魔的な奴等が飛んでいて全体的に空が暗い。雲は紫で太陽の姿は見えない。
しかも目の前のサラは夢で見た時には女神の様な美しさだったが、今は上下黒の下着の上にこれまた透過率五十パーセント程の真っ赤のネグリジェをつけ、心なしか胸も大きくなっているように見える。美しい栗色のロングヘアーは真っ黒なそれに代わり、耳の後ろには羊のような巻き角が左右に一本づつ。
はい。どう見ても悪魔です。本当にありがとうございます。
「ちなみにあなたのその体は《龍族》カインの身体ね。まぁ簡単に言うとカインのゲームキャラであったあなたの人格がそのまま本体に宿っちゃったって所かしら」
あはははーと笑いながら軽く言ってのけるサラ。
もう訳わかんない。
どう見てもファンタジー感満載のコレが現実で、俺が居た世界はゲームの世界だと?ほんとなんのこれ。
「えっとサラ……さん?」
「サラでいいわよ」
笑顔でそう言われれば従うしかない。
「じゃぁサラ。仮に俺が居た世界がゲームだとしてなんでそのゲームキャラである俺が現実世界に来てるの?おかしくない?」
コレが最大の疑問である。一億歩譲って俺がゲームキャラだとしよう。じゃぁ今こう考えている俺はなんなの?と。ゲーム世界に入り込んだとかの方がまだ理解できる……ん?
「あれ?待てよ……そっか!いやーそう言うことか!俺としたことが今の今まで気づかなかったわー」
なんだよ。そう言うことか。
「そういう『設定』なんでしょ?実際はこっちがゲーム世界で、俺あれじゃないの?転生とか召喚された口でしょ?じゃぁあれだ、ゲームの中なら好きなことしていいのか……」
目をぱちくりさせているサラをちらりと見る。
夢で見たときの格好はあれはあれで素晴らしかったが、今のこの油断しきっている格好も扇情的で堪らない。ゲームとは言え驚きのクオリティである。
「主人公の恋人とか……だよな?じゃぁちょっと失礼して……」
サラの胸をネグリジェの上からツンツンしてみる。
ぷにっと指が沈み弾力で押し返される。小振りだが形のいい胸だ。
せっかくだから直に味わって……
「な!な……」
あまりの怒りと羞恥心に顔を真っ赤にさせて声にならない声を発しながら口をパクパクさせるサラの後ろに、大鎌をもった死神が見えた気がする。
「何すんのよっっっっっっ!!!!」
サラの右拳に火の聖霊がしこたま集まったところまで見て俺の意識は途切れた。