芸術は爆発だ
「え? ごめん。ちょっと聞こえなかった。おばさん達は家にいるのかな?」
バスのエンジン音ではっきりと聞こえなかったので聞き返す。
詩衣は熱っぽい視線を俺に向けて口を開く。
「お母さんはお友達とバス旅行にいっていて日曜の夜までいません。お父さんは金曜日は飲んで帰ってくるから遅くまで帰ってきません」
あれ? ずいぶんしっかりはっきりしゃべってるな? そんな事を考えながら詩衣を支えてバスに乗る。
「そっか。それで泊まりに来るって話にもなったのか」
「はい……ごめんなさい」
詩衣は謝りながらも言葉は弾んでいる気がする。
何にせよ大事に至らなそうで良かった。
「誰もいない家に一人じゃ何かあった時に困るよな……かといって体調悪いのに家に来るのもなぁ……」
さてどうしようかと考えて呟いた言葉に即座に詩衣が反応する。
「っ! お泊まりに行ったら迷惑……ですか?」
泣きそうな顔でそう問われて返答に困る。
「いや、詩衣ちゃんが辛くないかなって? お父さんに連絡して早めに帰ってきてもらうとかは?」
「……下さい」
「え?」
詩衣がボソッと呟いたが聞こえず耳を寄せて聞き返す。
すると詩衣が俺の耳をお手で覆って内緒話をするように再度呟く。
「お兄さんが……お兄さんが家に泊まってください」
「えぇっ!」
耳に詩衣の息が当たったのと今の発言内容に驚き身体を仰け反らせる。
声が大きかったのか他に乗客のいないバス内に自分の声が響き、運転手がバックミラー越しに此方をちらっと見たのがわかった。
当の詩衣は顔どころか微かに見える耳まで真っ赤にして両手を胸の前でぎゅっと握ってこちらを見つめている。
この子こんなに積極的だったっけ?
そこまで考えてようやく二人に起こった異変に気づいた。
バスの窓に映る自分の頭上に青く輝く八分割された輪の一つが輝きを失い黒ずんでいる。
そして、その輝きは詩衣の胸の前で固く握られた手の奥から、正確には制服のシャツの下から漏れ出ていた。
「詩衣ちゃん……それって……」
その光の涌き出る箇所を指差して問い掛けると、詩衣の視線は俺から自分の豊かな胸元へと移っていった。
「……あれ? な、な、なんですかコレ? 青い……光?」
そう言うと胸元のリボンを外してシャツのボタンを上から二つ開ける。豊かな胸に下着と同じ黄色のブラジャーがちらりと見えてしまい慌てて視線をあげるが、当の詩衣は自分の胸元に現れた不思議な紋を携帯用のミラーで確認していて気付いていない。
胸の谷間というか鎖骨と鎖骨の間には先程まで俺の頭上にに浮かんでいた輪の欠片が一つ収まり、キラリと一際輝くと後は静かにしかし力強く輝きを放っている。
「キレイ……なんだかこの光を見ていると幸せな感じがするというか、落ち着く気がします。さっきまでの熱っぽさが無くなって、なんか嬉しくなっちゃいますね?」
ね? と同時に鏡から顔を上げて俺を見る詩衣と目が合う。
俺が胸元を凝視しているのに気付いていそうだがお咎めはなしだ。
「これってやっぱ、そういうことだよなぁ……あーいきなりやっちまった……」
恐らく先程、詩衣が倒れた時のが碧の言っていた「バクハツ」なんだろう。
あのとき手が触れただけで物凄く心臓が高鳴った。
言うなれば感情が爆発した格好だ。
お互いにと言っていたから詩衣側でも俺に対する好意が爆発したのかもしれない。
そう考えればあの積極的な詩衣の説明もつく。
儀式というかもはや呪いだなコレ。
このまま気付かなかったら二人っきりになって、色々と不味いことになったかもしれない。
そう内心で呟くと詩衣に向き直って話をする。
「詩衣ちゃん。体調はどう? さっきより随分顔色も良くなっているみたいだけど?」
「あ、そう言えば……なんだか不思議な感じですけど、体調は悪くなさそうです」
あの紋の力なのか一度爆発してしまえば沈静化するのか定かではないが、少なくとも一人で家に帰れないことはなさそうだ。
「なら良かった。でも、泊まるのは今回は止めておいた方が良さそうだね。 夕飯だけ家で食べていけば良いよ。その後は送っていくよ」
「……そう、ですね。残念ですけど……じゃぁこのままお邪魔しても良いですか?取りに帰るものもないので……」
詩衣が伏し目がちに残念そうにそう呟く。
「そうだね。このまま家においでよ」
「はい!」
そうして家の近くのバス停で二人一緒に降りると家まではお互い無言だった。
ピンポーン
家のチャイムを押すと真理が二階から駆け降りてくる音が聞こえてきた。
ガチャ
「お兄ちゃん! おっそーい! ……あれ? なんで詩衣もいるの? 」
「真理ちゃんあのね。お兄さんとモールで会って、バス待ってる間にちょっとフラットしちゃって……それでお泊まりなんだけど、あんまり体調が良くないから夕飯ご一緒したら家に帰るね。ごめんね」
そこまで一気に説明して頭を下げる詩衣。
「えー大丈夫? そう言うことならまた別の日で全然良いよ! てか、家帰らなくて大丈夫?」
「今日はおじさんもおばさんも居ないんだってよ。それでなんかあっても困るから、おじさんが帰ってくる時間まで家にいればいいって話したんだ」
俺がフォローをいれると詩衣がこっちを見て嬉しそうに微笑む。
あーもう! 可愛いなこの子!
「じー……」
真理が薄目で俺と詩衣を交互に見る。
「ど、どうした?」
「……怪しい」
薄目のまま眉間にシワを寄せて腕を組んでずずいと迫ってくる。
「な、何が怪しいんだよ?」
疚しいことなんて何も無い……とは言わないけどなんなんだ真理のこの勘は……
「あ! 詩衣……なんで胸はだけてんの!? 」
「「あ……」」
詩衣と声が重なる。
「お に い ちゃ ん?」
真理さんが一音毎に親指から順に握り混み拳を作ると同時に右手に炎の精霊がしこたま集まるのを見たのは幻覚だったのかもしれないが、それを確める術はないまま殺人コンボを食らって俺の意識は途絶えた。
タイトルは爆発と言えばこれしかないでしょという事で、内容とは特に関連はありません。
さて、都合良く気絶したので次回は魔界辺にいく予定です




