おつかいはおつらい?
目的のドーナツ二種を無事手に入れた俺は本命のバリボリ君アイスを買うために、フードコートに併設されているスーパーへと足を向けた。
帰り道でアイスが溶けないか心配だが、持参した保冷バッグと無料でもらえる保冷用の氷を駆使すればなんとかなるだろう。
そんなことを考えながらアイスのコーナーへ行くと、棚を挟んだ通路から高校生くらいの女の子の声が聞こえた
「さっきの詩衣超可愛かった」
「わかるわかる!なんか私もうキュンキュンしてた」
「あの人真理のお兄さんなんでしょ?いやー詩衣がまさかねー」
高校生くらいというか、正に先程マスタードーナツで詩衣と一緒にいた娘達だ。
何となく聞いてはいけない話題のような気がしてアイスを探すために集中する。
「でも、三十才って流石におじさんだよねぇ?」
「わかる!わかる!だってほぼうちらの倍でしょ?」
「真理のお兄さんだしなぁ」
聞かないようにと思ってもどうしても聞こえてきてしまうのはしょうがない。しかも自分の話題のようだと思えば尚更だ。
「まぁでも見た目は三十には見えなかったけどね」
「わかる!わかる!大学生って言われたら信じるかも!」
「真理のお兄さんだけあって顔キレイだったからね」
どうやら誉められているようだ。悪い気はしないな等と考えていたからか顔がにやけてしまう。目の前の子供と目があった。
「ママーあのお兄ちゃん昨日の夜のパパみたいな顔してるー」
「! ちょっ! あなた起きて! って何言ってるのこの子は! 指差すんじゃありません!」
顔を真っ赤にして子供を抱き抱えてそそくさとその場を離れる母親。
昨日の夜のパパに何があったのかは大いに気になる所だが、まさかこんなベタな「見ちゃいけません」になるとは予想外だった。
「詩衣ずっと……らしいよ」
「一途……もんねー」
「親友の……ヤバーイ」
レジの方へ移動していくように声が遠退いていきそれ以上内容は聞き取れなかったが、外見だけなら七、八才若く見られている事に密かに喜んだ。
気分が良いのでバリボリ君のブルーベリーヨーグルト味と、クリームソーダ味の箱を手に取りレジに向かった。
***
会計を終えてバス停に向かうと先ほどの娘達と詩衣が並んでいた。
「あ、ほら! 詩衣! じゃぁ頑張りなよ!」
「じゃぁまた月曜! 話聞かせてねー」
「真理によろしくー」
「お兄さんバイナラー」
昭和か! とツッコミを入れる暇もなく台風のように去っていく女子高校生の集団と一人取り残された形の詩衣。
派手にスッ転んで下着を見てしまった後にバス停で再開するとかなんのフラグだこれは……
「あー詩衣ちゃんはもう帰るんだ?」
「は、はい! ごめんなさい!」
いや、なんで謝るの? 俺が脅しているみたいじゃんこれ……
「さっき真理ちゃんから連絡あって、もうすぐドーナツとアイスが届くはずだから暇だったら遊び来ないかって……」
俺を時間指定の配送業者か何かと勘違いしている妹の憎たらしい笑い顔を想像して一瞬殺意が沸いたが詩衣が泣きそうな顔でこちらを見ているのに気付いて持っている荷物を掲げて笑顔で話す。
「それは多分これの事だな。二個ずつ買っておいてよかったよ」
はわわわと両手を振りながらあたふたと動揺する詩衣。
「ご、ごめんなさい!」
「え、なんで?」
突然の謝罪に困惑してつい聞き返してしまった。
「あ、突然お邪魔することになっちゃって……」
「あぁなんだそんな事。今日は親父もお袋も泊まりでいないから夕飯は何か頼む予定なんだ。良かったら詩衣ちゃんも食べていきなよ」
ここ最近詩衣が家に来ているのは見たことがなかったし、明日は土曜日だから学校は休みだろう。多少遅くなっても詩衣の家までそんなに離れているわけでもないし送っていくことも可能だ。
「あ、その、真理ちゃんには泊まってけって言われたので一回家帰ってお泊まりの用意してから行きます!」
「あ、そうなんだ。詩衣ちゃんのパジャマとか可愛いんだろうね? 真理の奴なんか……」
「!!!! お、お兄さんは、私のパジャマ、み、見たい……ですか?」
予想外の反応だが、胸に手を当てて耳まで真っ赤にして上目遣いで聞いてくる詩衣の姿に胸がドキドキする。
お互いに見つめあったまま声がでない。「見たいよ」そう笑顔で軽く言ってしまえば済む話じゃないか。言え! 言うんだ俺!
「み……見たい……」
ぐあぁぁぁ! 妹の友達に何ドキドキしているんだ俺は!
「ほ、本当ですか! ……うれしい……」
満面の笑みを浮かべて驚き、後半は俯いて小さな声だったので聞こえなかったが喜んでいるようだった。
なんとも甘酸っぱい空気になったところへちょうどバスが近付く音がし、詩衣が俺の荷物を「一つ持ちます」と言って持とうとした瞬間手が触れて心臓がはね上がる。
ドキン!
「あ……」
ボフン!
詩衣が慌てて手を引き上げるがボフンと音がした気がして先程より更に顔を真っ赤に紅潮させ、頭から湯気を出して目を回した詩衣がふらふらと倒れかけた。
「あ、危ない!」
倒れかけた詩衣の身体を慌てて抱き抱える。
ふわっと石鹸の良い香りが鼻孔をくすぐりドキっとしたが、今はそれどころではない。
「詩衣ちゃん! 詩衣ちゃん! 大丈夫!?」
身体を揺すらないようにして声をかける。
「……はれ……? お兄、さん……なんで、ここに?」
目の焦点が定まっていない。
記憶が混同しているのか?
「バス待ってたら急に詩衣ちゃん倒れちゃったんだよ? 大丈夫?」
身体を起こしながら辺りを見回す詩衣。
俺は熱中症を疑いバス停に併設されている自動販売機でスポーツドリンクを買って手渡した。
「はい。熱中症かもしれないから。飲んでおきな? 病院いく?」
「ありがとうございます。家に帰ってちょっと休めば大丈夫だと思います……」
コレから病院行きのバスを待つとなれば、この暑さのなか更に待つ必要がある。
病院に行ってもすぐに診て貰える訳じゃないから家で休んだ方が結果的に休めそうだ。
「じゃぁ家まで送って行くよ」
「……すいません。お願いします」
流石にこの状態の詩衣を一人で帰すわけには行かない。
「年のため家に連絡しておいた方がいい。ご両親は今日いるの?」
「……いま、せん……」
詩衣はじっと俺の目を見つめてそう言った。
詩衣ちゃんかわいい! かわいいよ!詩衣ちゃん!щ(゜▽゜щ)




