チェリート
碧との会合を終え《天職之神殿》を後にする快音。
茹だるような暑さは変わらないが、やるべき事がある今は気にしてなど居られない。
「アイス買って帰らなきゃな……」
妹の真理のアイスを食べたせいで真夏日に外出するはめになった快音。最初は罰ゲームと思っていたが、碧と話もできたし《転職》の約束も取り付ける事ができた。
別れ際に碧が言った言葉が若干引っ掛かるが、首尾は上々と言えるだろう。
快音はバス停に向かいながら別れ際の碧の言葉を思い出していた。
「今日から四日間は女性に触れないように気を付けてください。触れると爆発しますよ?」
「バ、バクハツ!?」
爆発とは穏やかでない。
「ええ。もう少し細かい条件はありますが比喩ではなく本当に爆発します。まぁ命を落とすことはないでしょうが、触れた女性も同様に爆発しますのでご注意下さい」
命を落とすことのない爆発というのが想像できないが、快音は一昔前の爆発コントのようなものを想像した。
「では、よろしければ儀式の為の術をかけますが、準備はよろしいですか?」
よろしくも、よろしくないもなく碧は右手の人差し指と中指を揃えてビシッと立てて目を閉じ何かを唱え始めた。
すると、いつか見た魔方陣が碧の二本の指を中心にディスクサイズでくるくると回り始めた。
言葉に出さず目で準備はいいかと問い掛ける碧に頷きで返す快音。
碧が指を快音に向かって倒すと魔方陣が快音に向かってふわふわ飛んでいき頭上で浮いて止まった。
「これは……?」
天使の輪と言うにはデザインがサイバーチックなブルーのその輪はよく見ると八分割されていて、快音には読めない字が書き込まれていた。
「コレが儀式の準備です。あなたが女性と身体的接触があり、性的に興奮するとあなたとあなたに触れた女性が爆発します。なので……」
ポンと肩を叩いてすぐに離れる碧。
「ちょ! ばくっ!……はつしない?」
散々爆発すると言われ続けた快音はビクッと身体を縮めたがなにも起こらなかった。
「ね?」
笑いをこらえた目で確認する碧。
「いやいやいや! ね? じゃないですから! 爆発したらどうするんですか!?」
からかわれたと知って顔を真っ赤にして詰め寄る快音にからからと楽しそうに笑って答える碧。
「あははは! ごめんごめん。いくら何でも不意に肩叩かれた位で興奮しないでしょ? え? するの?」
後半は想像すらしていなかったという表情で、こっそり「危なかったぁ」と付け足した。
「《自宅警備員》の童貞なめんな! こちとら童貞のエリート……そう、《選良童貞》なんだぞ!」
震え声で指をプルプルと震わせながら訳がわからなくなっている様子の快音。
「エリートはフランス語なのだからその造語はちょっと違和感があるけれど、言いたいことは何となく伝わったわ。ごめんなさい。悪気はなかったんだけど、傷つけてしまったのなら謝るわ」
「いや、まぁ、分かってくれれば良いんですけど……」
謝る碧と居心地の悪そうな快音。
しばらく気まずい沈黙が流れたが碧は残りの説明を始めた。
「そう言うわけなので触れば即爆発という事態にはならないので安心して下さい。それと、仮に爆発しても4回までなら儀式は出来るので、諦めないで頑張って下さいね」
ぎこちない笑顔で励ます碧。
照れた様子で鼻を掻く快音がふと気付いた様子で尋ねる。
「あ、一個確認なんですが、女性に触れなければ興奮してもいいんですか?」
「はい?それってどういう……え? まさか……し、知りません!ご自分で勝手に確かめて下さい!」
快音が何を言わんとするかを察した碧は顔を赤らめて突き放すように言いはなった。
「話はこれで終わりです! あなたはさっさと帰宅して自家発電してさっさと炉心融解してしまえばいいんです!」
碧はそう言うと汚いものでも見るような目付きで快音を部屋から追い出し、自分は所長室へと帰っていった。
そして今に至るわけである。
「真理や母さん相手に興奮なんかしないから大丈夫だろう。それ以前に身体が触れることすらないだろうしな」
一人そう呟いて快晴の青空を見上げたところで、複合スーパーを通るバスが到着し、快音はアイスを買いに行くべくそのバスに乗った。
お使いイベントが長くなっていますが、牛の歩みの如く進んでおりますので生暖かい目でお待ち下さい。




