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腐食の月  作者: 神崎真紅
1/7

act 1 蒼い月

 ・・・・コツ・・・・コツ・・・・----



 風が窓を叩く。

 高い天窓から、蒼い月が私を見下ろしている。


 ・・・・もうどれくらいの時間をここで過ごしたのだろう?


 判らない。

 そもそもなぜ私がここにいるのかすら判らないのだから。





 ----私の名前は渡辺エリカ。


 ちょっと田舎で、共働きの両親とふたりの姉を持つ末っ子で、甘やかされて育った。

 そんな平凡な人生を送っていた筈なんだけど。


 ・・・・相変わらず天窓には、風が当たっていた。


 ----コツコツと・・・・。

 蒼い月が見下ろしていた・・・・----。




「失礼致します」



 突然ドアをノックする音に驚いて振り向いた。



 誰・・・・?

 見たことのない服装だけど?

 中世のメイド服みたいな格好。



「あなたは誰?ここはどこ?」



 ・・・・答えは返って来ない。



「これを。これにお召し替え下さいませ」



 差し出されたのは、赤い、ドレス?



「これは何ですか?」

「そのドレスに、お召し替え下さいませ」



 何故?



「あの・・・・どうしてですか?」



 ----・・・・やはり返事は、ない。

 聞こえないの?

 私の声が・・・・?

 募る不安。




「あの、どうして私の質問に答えてくれないの?」

「わたくし共は必要以上の会話を禁じられております」



 本当に嫌な予感がして来た。



「どうして?」

「あの方の申し付けでございます」



 あの方?

 誰の事・・・・?

 私はおかしくなってしまったのだろうか?



 天窓からは月がエリカを見下ろしている・・・・。



 エリカは訳も判らないまま、幾人ものメイドによって、用意された赤いドレスに着替えさせられた。

 とにかく、何かしらの情報が今は必要なのだから。

 ここはおとなしく従ってみよう。



「お召し替えが済みましたら、お迎えに参りますゆえ、ご一緒にお出まし下さいませ」



 能面の様な、のっぺりとした無表情なそのメイド服は言った。



「どこへ?」

「あの方がお待ちでございます」



 あの方?

 一体誰の事だろう?


 エリカには、思い当たる節がない。

 大体ここはいつの時代のどこなの?


 私・・・・。

 タイムスリップでもしたって言うの?

 そんな、まさかね。




 その時。

 エリカがいる部屋の中を始めて見て気付いた。


 広い洋室。

 重厚な造り・・・・。



 ここは日本だろうか?


 私は日本にいた筈?

 日本じゃない部屋の造り。

 大きな鏡。

 洗面台付きのドレッサー。

 一際大きな洋服タンス。


 そして・・・・。


 天蓋付きの大きなベッド。

 先程まで、エリカはそのベッドに眠っていたのだ。



 ・・・・だからなぜ?


 私は昨夜、自分の部屋のベッドで眠った筈なんだけど?

 エリカは自分の身に何が起きているのか、さっぱり判らなかった。



 言われた通りにドレスに着替えて待っていると、先程のメイド服が迎えにやって来た。



「それではこちらへどうぞお出まし下さいませ」



 コツ、コツ、コツ・・・・。



 長い廊下は、大理石で出来ていて、エリカは何度も滑って転びそうになった。

 裾の長いドレスも初めて着たのだから、余計に歩きにくい。



「あの・・・・?」



 エリカはそのメイド服に問い掛ける。



「ここはどこなの?」



 やはり答えは返って来ない。

 聞こえないのかしら?


 あぁ。

 さっき言われたっけ。

 余計な口は聞けない、とか?


 ??本物のメイド??

 じゃあここは中世か何かな訳?


 ・・・・そんな事あるわけないか。

 エリカは自分の考えを否定した。




「こちらのお部屋でございます」



 また一段と物々しい造りのその扉を、能面メイド服が開いた。




 金・・・・?

 扉が開いた時に、とっさに思った。



「これは姫君。ようやくそなたを見つける事が出来た」



 ・・・・はい?


 ちょっと待って。

 今、『姫君』って聞こえたけど?

 誰の事かな?

 まさか?

 私の事じゃないよね?

 だって、私は平凡な女子高生なんだし?



「エリカ姫。私が判らないのか?」


 えぇぇ~?

 い、今『エリカ姫』って聞こえたけど?

 何の冗談なの?


 まさか本当に私の事なの~?

 どうしてこんな事になっちゃったのかなぁ?

 パパ、ママ・・・・。

 お姉ちゃん。

 わがままなエリカを許して?


 真っ直ぐ私に向かって、歩いて来るその人は。


 金色!

 なのは着ている服で。


 漆黒の髪に。

 漆黒の瞳は切れ長で・・・・。


『美しい』


 という形容詞が、すっぽりと当てはまる。

 不覚にも私は、その男に魅入ってしまっていた。



「そなたをずっと探してた」




 私を?

 なぜ?


 全く見覚えがない。

 でも完璧な私の理想だわ。



「エリカ姫。ようやく私の元に・・・・戻ってきたのだな」



 やっぱり私の事なの~?

 私いつから『エリカ姫』になっちゃったのかな?



「あの・・・・?貴方は誰?」

「おぉ、姫!やはり記憶をなくしたというのは本当なのか!」



 はい?

 私が記憶を?

 なくした?


 いや・・・・。

 なくしてはいないけど?


 ただ今の自分の立場が判らないだけで。



「あの・・・・私には何の事か・・・・?」

「それではこの私の事も、判らないと申すのか」



 ----いきなり抱きしめられた。



 え・・・・っと?

 この場合、どう対処すればいいわけ?



「あの・・・・聞いてもいいですか?」

「おぉ!何なりと。そなたの記憶が戻るのであれば」



 大袈裟だなぁ。

 っていうか、リアクション派手じゃない?




「あの・・・・ここはどこですか?」

「おぉ、ここは我が城。そして、そなたは私ディノス王の最愛の婚約者であるぞ」



 そなた?

 何時の時代の言葉だよ?



 ??あれ?

 今『王』って聞こえたけど?

 私本当におかしくなったのかなぁ?


「私・・・・は、貴方の婚約者なのですか?」



 エリカがそう言うと。

 ディノス王は大袈裟に悲しみ出した。



「あれほどに愛し合っていたのに。本当に姫は記憶を失ってしまったのか」



 愛し合っていた?

 っていう事は。

 この絶世の美形と、あんな事やこんな事を?

 想像力たくましく考えていた矢先。

 不意に唇に暖かいものが、触れた。


 キ、キス??

 キスされたよ。


 私のファーストキスが?

 奪われたわけ~??


 でも・・・・。

 気分は悪くないなぁ。


 何しろこの

『ディノス王様』

 本当に綺麗なんだもん。



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