#初夏のラジオリズム 2
#初夏のラジオリズム 2
「じゃ、お母さん!みんなを迎えにいってくるね!」
「ええ。いってらっしゃい。」
「いってきまーす!」
私は自転車にまたがって駅へと向かった。
「〜♪」
やっぱり自分でもびっくりするくらいの上機嫌だった。
気づかないうちにまた鼻歌が出ているほどだ。
狭い通路や小川のほとりなど、都会では考えられないような道を通りながら駅へと向かう。
私はこの地域がとても好きだった。
普段は見ることができない自然や落ち着いた雰囲気。時間の流れ。
初夏の山奥の冷ややかな空気を浴びながら気持ちよく自転車をこいでいると目的の小さくさびれた駅が見えてきた。
皆が乗る電車が着く30分前に到着した。
私は自転車を止めて、駅のベンチに腰掛けた。
「ちゃんと電車にのれてるかなー。」
確認の連絡をとりたかったけど駅は電波が繋がらない。
「しっかりのれてますように!」
私の実家の町は駅が2つある。
一つは比較的栄えている観光地がある街があった。そこには去年改装されたばかりの奇麗な駅があって、観光客やこの町から少し大きい街へ仕事に行く人で栄えている。
もう一つの駅がここ。
私の実家じたい観光地街の外れにあってこの駅に近かった。懐かしい空気の残る駅は一部のマニアや観光地としても有名だった。
私はこの駅が大好きで、よく中学生頃は一人で電車に乗って気分を落ち着けにいった。
そんなこともあり、多少面倒だけれど3人にはそんな雰囲気も楽しんでもらいたく、こっちの電車できてもらうことにした。
どれくらい待っただろうか。
涼しく静かな空気に包まれて心地よくなった私の意識は、少しずつ遠くなっていった。
「---------!」
「----、----?」
なんだろう・・・?
よく耳を澄ましてみる。
「おーい」
「織夏サーン」
「起きないなー」
「ぷにぷにしちゃおうぜー」
「オリカノのほっぺ柔らかーい」
朦朧とする意識の中で私の耳にはは私を取り囲むいつもの暖かく、騒がしい声が聞こえてきた。
そして次に自分の頬がつつかれたり撫でられたりする感覚。
「ふぁ・・・?」
「あ、起きたっ」
「おはよう織夏」
「ふぁーみんなおはよぉ・・?」
「まったくー。待ってる間に居眠りとはさすがだな。」
「ラジオ中に寝ることもできるからこれくらい朝飯前だよな」
「もう!バカにしてっ」
少し意識がはっきりしてきた。
そして、みんなの顔をしっかりと見る。
「うんうん。みんな!ウェルカム!!」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「しっかしすげー緑だなー」
「でしょでしょっ!!」
私は自分を降りて押して行こうとしたが海里が気を遣ってその役目をひきうけてくれた。
駅を少し散策したあと、私たちは私の家へ向かう道を歩いていた。
「あ。そうだ!」
「?」
流衣がカバンから携帯を取り出した。が、携帯以外のものもカバンから溢れてきて地面に散乱した。
「あー。守也。」
「なんでだよっっっ!!さっきオレが整理したじゃねーか!!もうぐちゃぐちゃかよっっ!!!」
「早くして」
「はいはい。」
いつものやり取りを見てなんだか私は安心した。
「ほら見てっ織夏!」
「なになにー?」
流衣が見せてきたのは、真っ赤な蝶ネクタイをしたカナヘビだった。
「なにこれっ!ちょーーかわいいいい!!!」
「だろー」
「これおねーちゃんが作ったの!?」
「もちろん!」
「あ」
「なに?」
私は画面の隅の方に写ったものをみつけた。
「あっっはははは!!守也が流衣のカバン整理してるとこ写ってるー!」
「あらほんと。。」
「悪いかコノヤロウ!!」
蝉が鳴くのをやめた静かな緑の道には私たちの声がこだました。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「ついたよーっ!」
実家到着である。
「「「おおーーっ」」」
「どう!?どう!?」
「立派ね」
「おっきいなぁ、、、、。」
「僕らの前に佇むその大きな豪邸は、何百年もの時を見てきた仙人のように、静かに、厳かにそこにあった。」
「あははっ!さぁさぁ!入って入って!!」
「そうしたいんだが、どうも足が動かない。」
「恐れ多くて入れません。」
「えっ!?ほ、ほらっ!海里は入っていったよ!って海里そこまだ門前!、、靴脱ぐ場所じゃなああい!!」
「まぁ!久しぶりね!皆!」
「どうも。お久しぶりです織夏ママさん!」
「海里くんと守也くん!やっぱり男の子ねー。おっきくなって!」
「そうかなー。」
「流衣ちゃんは色気ずいちゃって!すっかり大人の女性ね!」
「わ、私は子供のままが良かったですケド、体が大人になりたいって聞かないもので、、」
「まぁ中身は恐ろしく子供だから心配すんなっ!」
「怒っ」
「さぁさ!上がってよ!」
「おじゃましまーす!」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
僕たちは一通り家の中案内してもらった。
一応一晩泊まることだし、家の中は知っておく必要もあったからだ。
「ねー。織夏の部屋は無いのー?」
探索を終えて一息ついている時に流衣が織夏に尋ねた。
「そーいや無かったなー」
「僕も興味あるな。多分あんまり寮と変わらないんだろうけど。」
そう言って織夏をみた。
その時ふと、僕は織夏の瞳に違和感を感じた。
「私の部屋はここに住んでるわけじゃないから無いんだー」
「こんなにいっぱい部屋があったら一つくらいあってもいいのにな。」
「私がいらないって言ったから」
「そうなんだ。」
僕は何か冷たいものが背中に走った気がした。
どうやら流衣も守也もそれに気づいたらしく、ぎこちなく他の話題を探し始めていた。
「そういえば親父さんは居ないのか?」
「うん。今日みんながくる前に出て行ったよ。俺がいるとお前たちも気まずいだろって」
「オレは親父さんと会いたかったけどなー」
「僕も」
「別に自ら出て行ったわけじゃなくてお仕事でね」
「それは、運が悪かったんだな親父さん。」
ヘラヘラと守也が笑う。
守也は小さい頃から織夏のお父さんとよく遊んでもらっていた。織夏のお父さんは明るい性格で誰でも仲良くなれるような人柄だったが、子供はもっと好きなようで面倒見がすごくいい。
そして織夏パパに守也の子供心がくすぐられたのかよく織夏のお父さんにじゃれていた。
織夏のお父さん曰く、守也は自分の子供の頃によく似ているそうだ。
「親父さんとまた一緒に風呂とか入りたかったなー」
「そんなに楽しみだったらお父さんがいる日に呼べばよかったなー。守也がお父さんに会うのすごく楽しみだったって伝えておくよ。」
「そうだっ!写真撮ろうよ!」
「おお!撮ろうぜ撮ろうぜ!」
「いいわね!」
「オッケー!じゃあ撮るよー」
そういうとみんな織夏を中心に顔を近づける。
「入らないよー!もっと寄ってー」
ぎゅっと、4人の体が密着した。
「はい!チーズ」
写メ。
画面いっぱいに全員の笑顔の顔が収まった。
待ち受け画面にしようっと。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「じゃあ!いってくるわね。」
「「いってらっしゃーい!」」
「お母さんも出かけちゃったね。」
「急に友達と遊びに行く用事ができたー、なんて」
「嘘だな。」
「うん。嘘かもっ!!どこかに隠しカメラがあるはずっ!!」
「そんなわけだろっ」
流衣、織夏その考えはひどいです。
4人は織夏ママさんを見送ってから居間へ。
まもなくして織夏が麦茶を持ってきてくれた。
「ほうごほが、ほごはご?」
「氷を口にいれながらしゃべるな。」
がりぼりと織夏が氷をかみ砕く
「お昼どうする?」
「んー、外食がいいわね。」
「遠いだろうなっていうか流弥がいないと外食の発想しかねぇのかよかよ。」
「せっかくだし皆でつくろうよ」
「えっ!?ご飯って自分で作るものなの!?私は作ってもらうご飯しか知らなかった。。」
「その辺にしとけよ。。ダメすぎて聞いてられない。」
「あはは。ってことは流衣、料理初めて?」
「・・・・・うん。」
顔を赤くし俯く流衣。
あ、顔を腕に埋めてしまった。
「だ、大丈夫だよっ!僕も初めてだからっ!!」
「・・・ほんと?」
「うん」
すると流衣は顔をあげ、涙目を拭い、立ち上がる。
「レッツ クッキング!!!」
「立ち直り早っっ!!」
#初夏のラジオリズム 2 終
*あとがき*
お読みいただき、ありがとうございました。
初夏のラジオリズム第二話です。
ラジオリズムって何だろう、、雰囲気だけで作った言葉なので深い意味は無いです。
*キャラクター紹介
和泉織夏
第一回のキャラクター紹介で、海里の画像のサイズが大きすぎて申し訳なかったです。