間章・偽善と悪意と骸骨と
二話連続…ではないけど同じ日に投稿です。
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ふっと気付くと、路地裏から通りにニーナが出て行った。
どうやら憎たらしい屋台のオヤジから、商品を買った奴に分けて貰うつもりらしい。
オレはため息を吐く。
ニーナ…あの子は親に捨てられたばかりなのに、人の善意というモノ信じすぎる所がある。
何度も言っているのに…。
どうやら裾を引っ張られた、オレより3歳くらい上の男は困惑しているようだ。
普通、この辺の大人達なら、怒鳴るか…【直接的】に追っ払うかするので、田舎や外国から来たのかも知れない。
髪の色も良く見ればあまり見かけない黒だ。
オレがそんなことを考えていると、ニーナが屋台のオヤジに犬猫を追っ払うように怒鳴られて、肩を落として路地裏であるこちらに、とぼとぼと歩いている。
腸が煮えくり返りそうだが…我慢だ。
オレは悔しさで手を握り締める。
「待って!」
黒髪の男がニーナに
声をかけて、呼び止める。
なんだ…?何の為に呼び止めたんだ…?
そう思って、見ていると…………………あろうことか、そいつはニーナを撫でて、買って袋を与えたのだ。
最悪だった。本当に最悪だった。
ニーナは男と何言か交わすと、満面の笑みを浮かべてこちらに駆け寄って来た。
それを見ていた何人かの子供達が、物欲しそうに男の方を見ているのを見て…オレは路地裏の奥に引っ張った。
「食べ…物…貰えた」
駆け寄って来たニーナが、嬉しそうにオレに袋を差し出す。
本当に…この子は優し過ぎるッ!
オレは男に憎悪を向けると、無理やりニーナの腕を引っ張った。
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子供達を奥の方にあるねぐらに連れて行き、食べ物を取り合って喧嘩しないように言い含めると、先程まで立っていた通りの見える場所にオレは戻った。
どうやら最悪な偽善を施した黒髪の男は、まだ屋台のオヤジと話しているようだった。
…本来ならあの男のした事は反吐が出るが【善行】と言えるものだろう。
けど…これからニーナはどうなる?
今まで街の大人達に厳しく、冷たい態度を取られても、人の優しさを信じるあの子の事だ。一度優しくされたら、他にもそんな人間いると思うだろう。
邪険にされたり、犬猫のような扱いを受けるだけなら…悔しいけど、それだけだ。
だけど…貴族達の特殊な性癖を満たす為に、子供達を斡旋しているような外道達などに騙されたらどうする?
オレだって何時まで、生きられるか分からないし、突然死ぬ事だってある。
その時、ニーナやあの子達は一人で生きていかなければならないのだ。
…だからオレは決意する。身勝手な復讐だと百も承知のうえで…。
他のグループと違って、盗みはやらない主義だが…アイツは別だ。
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店をぶらぶら見て回っている事から、やはり外国から来たか、田舎からの出て来たのだろう事が分かった。
しばらく店を見て回ると、男は商店が立ち並ぶ通りから外れた裏通りに入って行くのが見えた。
オレは呆れてしまう。馬鹿なんだろうか?強盗してくれと言っているようなものだ。
気配を消して、足音を立てないように注意しながら、オレは男に忍びよる。
廃材らしい木の棒を握った手が、ジットリ汗をかいているのが分かった。
…我ながら情けなくも、いざなると緊張してしまうようだ。
ゆっくり…ゆっくり…と近づいて…オレは木の棒を思いっ切り振りかぶって、男の頭を背後から殴りつけた。
ゴッ!と固いモノに当たったような音を立て、男は倒れた。
「はぁ…はぁ…ッ!」
荒い息を吐きながら、自分でも気づかないうちに、額にかいていた汗を拭って男の懐を探る。
滅多に人が通らない場所だけど、呑気にしている場合ではないので素早く袋を探し出すと、それを持ってオレは逃げ出した。
急ぎながらも不審に思われないように、走ったりはせずにねぐらに戻ると、袋の中を確認してみる。
「えっ…?」
中には予想以上のお金が入っていた。
街の人間の給料3ヶ月分はあるんじゃないだろうか?
ちょっとした復讐のつもりだったがこの額は…ちょっとしたではない。
それに…今すぐ使って食料を手に入れたいが、ここまで大きなお金をオレのような人間が使ったら確実に怪しまれる。
…幸いよく見ると何枚かは銀貨が混ざっていたので、オレはそれを使って食料を手に入れて、子供達と食べた。
久しぶりに…本当に久しぶりの満腹感に涙が出た。
問題は金貨をどうするかだ。
使わないのはもったいない…けど使えない。
ねぐらに置いておいたら、他の連中に荒らされた時盗まれてしまう。
…とりあえずオレが身に付けているしかないようだ。
満腹感と持った事のない大金に気を取られていると、日が暮れて来た。
いつもなら靴磨きの仕事を始める時間だが…どうしたものか…。
そう考えていると、ニーナが心配に思ったのか「今日は…仕事、行かないの?」と聞いて来た。
「いや…うん。今行って来るよ」
もしもの時に少しでも、怪しまれる要素を減らす為にもいつも通りに過ごさないとダメだろう。
オレはいつもの場所に、靴磨きに出かけた。
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靴磨きにも縄張りがある。
大通りに面して、客が良く来る場所は靴磨きを専門とする職人達の縄張りとなっているし、同じ場所でやったとして、彼らと同じような靴磨きは出来ない為、オレのような人間がやるのは大通りから少し外れた場所だ。
1日に客は一人が来るか、来ないかだ。
来ても二人に一人くらいは、こちらがストレートチルドレンと見るとまともに金を払わずに行く者もいたりする。
「今日は…来ないか」
今日は一人も客は来なかった。
盗んだ大金の事を思うと、馬鹿らしくて笑ってしまう。
靴磨きは銅貨一枚だ。そして客は1日一人来るか来ないかだ。
そして盗んだお金と同じ金額を稼ごう思ったら少なく見積もっても、一万回は靴を磨かねばならない。
アホらしくもなると言うものだ。
オレが靴を置く台を片付けている所に、屋台のオヤジが珍しくやって来た。
今日何かある日だったろうか?
たまに…本当にたまにこのオヤジは靴を磨いて行くが…。
オレが黙って台を戻すと、オヤジも黙って台に足を置く。
必要以上話などしないし、する必要もない。
靴磨きと単なる客だ。
だけど、この日は違った。
「おい…」
「なんだよ?金ならちゃんとキッチリ貰うぞ」
オレは金はないとでも、言うつもりかと少し警戒して下から睨むとオヤジは何やらバツが悪そうだった。
「ちげえよ!…なんだ。お前これからは俺の所に来い」
「ハァ…!?オヤジさ…そう言う趣味持ってたのかよ。悪いけど、オレは売りはしねぇよ」
「ますますちげえよ!!!…なんだ。二年だけならお前らに飯を食わせてやる」
オヤジは顔を赤くして、大声で否定すると言いにくそうに、頬をかいて言った。
オレはマジマジとオヤジの顔を見る。
「何言ってるんだ?変なクスリでも、やったのか?それともオレ達を利用して何かやるつもりか?」
「ちげえって…あの、お前の所ちびっ子…ニーナか?あの子に俺の商品を渡したにいちゃんがいたろう」
オヤジの言葉にオレは薄く笑う。
「はっ…!あの偽善者がどうかしたのかよ?」
「…実はあのにいちゃんに金を渡されてな。お前らにオレの気が向いた時で良いから飯食わせてくれって…その金が結構な大金でな。二年は…っておい坊主!?」
オレはオヤジの話の途中で、立ち上がると走り出していた。
走った。走った。自分でも理由が分からないが走った。
走って黒髪の男を襲った場所に気がついたら来た。
「はぁ…はぁ…っ…」
荒い息が口から漏れる。心臓が早鐘を打つ。肺が痛かった。
それでも気づいたらまた走った。
理由は…理由は…分からない。
ただ、ただムカつく偽善を行ったあの男に盗んだ金を投げつけてやりたかった。
ただ街中を走り続けた。
でも、入れる場所は全て探したけど…いなかった。
ただ悔しかった。ただ胸が痛かった。
だから…決めた。今度会ったら、この金を投げつけて偽善をあざ笑ってやろう。
…そして殴られよう。
盗まれたのだから、普通はぶん殴るだろう。
でも…でも…もし、殴って来ないのならそん時は謝ろう。
オレはそう決めた。
はい。これで説明回&伏線張りは終わってついにっ!
ついにっ!夜刀さんが…ええ…特に何もないです。
とりあえず次回から夜刀さん視点に戻るので、お楽しみに…ポロリは無いよ。