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間章・短い城生活の裏事情。

お待たせしました(^_^;)ありがたい事に続きが気になるとの感想をいただいたので、最優先で書きました。


…続きじゃなくて、説明回なのはお許しください

「…?ここは…」


「姫様…!」


ベッドに寝かされていたらしい自分に、アウラが心配そうに駆け寄って来た。


「一体…私は…」


薄いもやがかかったような頭を働かせて思い出そうとする。


そうだ…。私は召喚された勇者殿と一緒に宝物庫に入って…そして、聖剣の間に入ったものの勇者殿は…………………。


「大丈夫ですか!?」


顔を沈める私をアウラが心配そうに覗き込んで来る。


「ええ…ありがとうアウラ。ところで私はどれくらい寝ていたの?」


「ご無理はなさらないでください。半日ほど気を失っていたのですから…」


「半日も…ところで勇者様は?」


私がそう聞くとアウラが複雑な顔を浮かべる。


「それが…今は地下牢に入られています」


「ち、地下牢!?何故ですか?」


「…リチャード様達が、聖剣を抜けなかったあの少年に「偽勇者が!」と怒鳴りつけ殺そうとしたのです」


「こ、殺そうと!?勇者殿は大丈夫なのですか!?」


確かに聖剣は抜けなかったが、それはこちらの事情。勝手に召喚して用が無いと判断したら、殺すなど聖王国の名折れだ。


「はい…。それはガンダーブ様が止められ、大臣であるグリッド様が安全確保するために…と地下牢に」


「そう…ですか。ですが早急に勇者殿を牢屋から出さねばなりません」


「姫様…。姫様のお優しい心には、感服いたしますが…今は深夜です。ご自愛ください」


それほど私は寝ていたの…。深夜、残念ながら私には実質的な権限が与えられていないから、勇者殿を出すにはグリッドにお願いしなければならない…。


さすがに気心が知れた仲とはいえ、深夜に呼び出す訳には、訪ねる訳にもいかない。


「ふぅ…分かりました。早朝に大臣の元に向かいます。…ずっと私に付き添ってくれていたのでしょ?アウラも休んでください。…アウラまで居なくなっては私は…」


「勿体無きお言葉です!…では少し休ませていただきます。お休みなさい。姫様」


「ええ…お休みなさい」



地下…夜刀が召喚された石壇が置かれた間に立派な髭を蓄えた男がやって来ていた。

本来、老人といわれる年齢だが、それを感じさせない雰囲気と若々しさを持つ人物。


ガンダーブは石壇に触れながら、魔力の流れや、力が込められた紋様に読んでいく。

夜刀との約束もあったが、ガンダーブにはある疑念が頭にあった。


それは…なぜ聖剣を抜けない存在が召喚されたのか?


古より伝わるこの石壇が召喚されないのならともかく…間違った存在を召喚するなど、ガンダーブには考えられない話である。


調べていくうちに、ガンダーブは顔を段々渋くなっていく。


「…やはりこれは…何者かの手が加えられておるのぅ」


本来の石壇が持つ召喚能力を阻害するように、紋様が刻まれているのだ。


元来…ガンダーブ【ですら】手を加えられない神器とも言われるモノにだ。


「これは…姫様に報告しなければなるまい」


ガンダーブはため息を吐く。

引退【させられ】仕方ないとそのまま隠居生活を送っていたが…このまま何もしない訳にはいかないだろう。


何者が何の目的でこのような事をしたかは分からないが、それを放っておいて良いはずがない。


「…やれやれ。姫様の為に、老体を酷使するかのぅ」



早朝。アリシアは手早くアウラに支度を済ませてもらうと、大臣の元に訪れた。


「はて…?こんな早くからどうなさいました?姫」

グリッドは薄く笑う。


「はて…?ではありません!あの少年の事です」


「ああ…あの少年ですか」


アリシアの言葉で今気づいたようにグリッド言う。


「今すぐ地下牢から出してください。守る為と言っても、こちらの身勝手で召喚したのに、牢屋に入れるなどして良いことではありません!」


「…ふむ。姫様も成長なされましたな」


グリッドが妹の成長を見守る兄のように優しげに、微笑むとアリシアは顔を赤くする。


「〜〜〜ッ!い、今、私は真剣な話をしているんです!兄妹のように育ったからって、茶化さないでください」


「これは失礼…。出すのは問題ありませんが…問題は騎士達とあの少年の処遇ですな」



「し、処遇ですか…?」


赤い顔から困惑したようなアリシアを見て、グリッドは頷く。


「ええ。処遇です。私も彼を牢から出すのには、異論はありませんが…残念ながら彼の存在は色々と問題があります。アリシア様はそこを考えて、おいでですか?」


「そ、それは…」


アリシアはグリッドの言葉に、困惑したように俯いた。


そう。勇者として召喚されたものの…肝心の聖剣を抜けなかった夜刀の存在は聖王国にとって、マイナスにしかならない。

むしろ、はっきり言って有害だ。


勇者ではない存在を召喚したと言うのは、まだ一部の人間しか知らない。それも時間の問題だが…あくまでも噂ならば問題なくはないが…、そこまでの問題はない。


問題はその決定な証拠である夜刀だ。


彼の存在が聖王国に対する忠誠心を失い、己の利権にしか興味がなく。聖王国にとって、今や魔王以上の仇敵とも言える帝国と繋がりを持つ貴族達にしてみれば、王女側に力を完膚なきまでに叩き潰す絶好の機会になり得るのだ。


「…冷酷と姫様に蔑まれる事を覚悟して申し上げれば、彼を消すのが一番なのですが…」


「…ッ!そ、それはなりません」


「で、しょうな。…ではどうするか…ですな」


アリシアは何も考えつかずに、黙り込んでしまう。


そんなアリシアの様子を見て、グリッドは内心笑みを浮かべた。その時


「フォフォ…何やら暗い雰囲気じゃのう」


扉を開けて入って来た人物がいた。


「が、ガンダーブ様?」


「これはこれは…どうなされました?」


グリッドとアリシアは驚いたように、飄々と現れたガンダーブに視線を向ける。


「フォフォ…。姫様に話があったのぅ。盗み聞きするつもりはなかったのじゃが、つい聞いてしまったわい」

「私に話…ですか?」


「うむ。その前に夜刀殿についてですが…彼には、一年ほどの生活費を渡して、城から出て行ってもらうのはいかがですかな?」


話を聞いていたグリッドが口を出す。


「ふむ。ガンダーブ様は、彼を城から放逐するつもりですか…。悪くはないですが、いずれは噂は広まり、探し出されてしまいますよ?」


「うむ。それについてじゃが…今度こそ、本物の勇者様を召喚すれば問題ないのではないか?」


ガンダーブの言葉を聞いたアリシアは目を見開く。


「ど、どういうことです?救世の御子様が残した石壇は…」


そう。確かに古の伝承通り召喚は出来たが、残念ながら召喚出来たのは聖剣を抜けない単なる異世界の人間だ。


召喚には極めて希少な触媒と、実力がある多数の魔術師達の力が必要な為、そう易々と聖剣の抜ける人間が召喚されるまで、召喚し続けるなどは出来ない。


だからアリシアは、博打のような召喚をするわけにはいかないと言おうした所で、ガンダーブは頷く。


「姫様の言わんとされる事は分かりますぞ。実は…少し気になって石壇を調べたのですが…召喚を阻害するような魔術紋様が刻まれておりました」


「ッ!?そ、それは誠ですか!?」


「ほぅ。ですがガンダーブ様?あの石壇は神器とも言えるもの…それに手を加えられる者などいるのですか?」


アリシアは詰め寄らんばかりの勢いで、グリッドはあくまでも冷静に疑念を挟む。


「わしも、調べていて驚きました…。正直犯人については見当もつきませんが…その魔術紋様を消して、元通りにする事は時間をいただければ、なんとかなりそうですじゃ」


アリシアはガンダーブの話に目を輝かせる。


「ほ、本当ですか…?」


ガンダーブはアリシアに「本当ですぞ」と頷く。


「それは…素晴らしいですが、時間とはどれくらいかかるのですか?」


「ふむ。…3ヶ月ほどはかかるが…何か問題があるかのぅ?」


ガンダーブとグリッドは、静かに視線をぶつけ合う。


グリッドは微かに笑うと、頭を少し下げた。


「いえ…。大変喜ばしいですな。3ヶ月ならば貴族達を抑える事も出来ましょう」


アリシアはハッと気づいて、グリッドに夜刀を牢から出す手続きをして貰うと、地下牢に向かったのだった。


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