表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

偽善と悪意と骸骨との出会い

良ければお読みください。

「はぁ…どうしようか?」


城を出た時は明るかった空も、今は日が落ちている。


街から離れて、引き寄せられるように夜刀は墓所に来ていた。

光源のある街と違い、墓所を照らすのは雲から洩れる僅かな月明かりだけだ。


墓所は夜になり、独特の空気と静寂に包まれ、まず普通の人間は気味悪がって近づかないが…夜刀にとっては落ち着ける場所だった。


名前と産まれてから死ぬまでの年数が彫られた幾つもの墓標だけが並んでいる。


それを見渡しながら、なんとなく奥の方に入って行くと…


【剣聖。ここに眠る】と彫られ、他の墓標と違い二回り程大きく、剣の意匠がされた墓標があった。


「へぇ〜。剣聖か…」


そう呟いて、思わず苦笑した。

我ながら呑気だなぁと…だから自分はここにいるのだろう。


少しだけ時は遡る。



学生服から目立たないように、ベージュのズボンと黒ジャケットに着替えた夜刀は、城を出てガヤガヤとした喧騒に包まれた中央広場に来ていた。


様々な店が軒を連ね、それを目的に…あるいはただの通り道としてか、多種多様な人間が歩いている。

防具を身に付け、剣や槍などの武器を持って歩いている冒険者らしき者達に、買い物や仕事をしている町人、丁稚らしき10歳くらいの子供が人と人との隙間抜けて駆け回っている。


…ん?人間以外の種族っていないのかな。


せっかくファンタジーな世界に来たのだ。どうせならエルフとか獣人をこの目で見たかったが、いないのなら仕方ないか。

立ち止まって、田舎から出て来たおのぼりさんのように、周囲を見渡していた僕は、鼻孔をくすぐる香ばしい油の匂いを感じてそちらを向いた。


「ヘイッ!らっしゃい!美味しい〜揚げたてのコケッコとポテトがあるよ〜」


屋台で気の良さそうな中年のおじさんが、声を張り上げている。


僕は匂いに誘われ、夢遊病のようにふらふらとした足取りで、屋台に近づいた。


「あの…一つください」


「へい。毎度さ…ウォオ!か、金ならねぇぜ!?兄ちゃん」


僕の方を向いて、愛想笑い浮かべたおじさんの顔は僕の顔…正確には目を見るなり、困惑したように顔を背けた。


…魔物とか魔王とかそういう存在いるんだから、目つきくらいでビビらないで欲しい。


「や…普通にこのポテトとコケッコ?を揚げたやつを一つ欲しいですが…」


「な、なんでぃ…お客さんか。それならそうと言ってくれ…」

おじさんはほっとしたように、胸をなで下ろした。


最初から一つくれといったんだけど…。


「ちょっと待ってくれ、今すぐ用意するからよ。…ほら。一つ30ギラーだ」


30ギラーと言われ、僕は少し困った。そう言えばガンダーブさんにお金の単位を教えて貰っていない。


「…これでお願いします」


結局金貨しか持ってないのだから、悩んだって仕方ないと、僕は財布代わりの袋から金貨一枚取り出した。


「金貨か…ちょっと待ってろ…よし。つりの銀貨9枚と銅貨7枚だ」


僕は差し出されたお金を受け取る。

おつりから考えると、銅貨10ギラー、銀貨100ギラー、金貨1000ギラーと思えば良さそうだ。

早速、揚げたポテトとコケッコとやらを食べようとした所で、クイクイとジャケットの裾を引っ張られ、なんだ?と振り向くと見窄らしい格好した7歳くらいの女の子がじっーと指をくわえ視線を手に持っている物に向けている。


少女は幼いながらも美しい容姿をしているのだが…ボサボサの髪に薄汚れた格好、まともに食べられてないのか痩けている頬が台無しにしていた。


油の匂いのおかげで和らいでいるが、結構な異臭が少女から漂っている。


「コラッ!どっか行けクソガキ!仕事の邪魔だ」


声を張り上げた屋台のおじさんが険しい顔をして、シッシッ!と虫でも払うかのように少女に手をふる。


少女はおじさんの声にビクッと震えると、泣き出しそうな顔をしてジャケットの裾を離した。


とぼとぼ…と、店と店の間にある路地裏に向かって歩いて行く少女を「待って!」と思わず呼び止めた。


立ち止まった少女に視線を合わせるように、しゃがむと安心させるように頭を撫でて「これ、良かったら食べて!」と少女に買ったばかりの物を差し出した。


すると「いい…の…?」拙い言葉使いで、心配するように聞かれた。


優しい子だと思う。

「大丈夫!お兄さん実はお腹いっぱいなんだ」と嘘をつく。正直な話、姫様達が早朝に来たおかげで朝ご飯を食べれていなかった。単なる強がりだ。


揚げたポテトとコケッコを受け取り、少女は顔を綻ばせると「あり…がとう」と言って路地裏に駆けて行った。



「…兄ちゃん。お人好しだね…。本来なら今の兄ちゃんの行動は賞賛されるべきものだが…」


屋台のおじさんが呆れたように呟いた。


「…偽善であることは重々承知してますよ」


少女が駆けて行った路地裏の方を見ると、少女と同じくらいの子供が物欲しそうにこちら見てる。


ストリートチルドレン。親を何らかの事情で失って、身寄りがなく路地裏で生活強いられたか…あるいは捨てられたか…。

路地裏の方を見ていると、子供達よりも年長…と言っても十歳前後の帽子を目深く被った子供が、こちらに憎悪の込もった視線を向けて、子供達を奥に引っ張って行った。


僕が屋台のおじさんに視線を向けると、僕の表情で何か読み取ったのか、嘆息した。



屋台のおじさんに、姫様に貰った金貨の半分を僕は預けた。


「これでおじさんの気が向いた時で良いので、あの子達にそれを食べさせてあげて貰えませんか?」


そう言うと、おじさんはあからさまに迷惑そうな顔をした。


当然だろう。一度そんな事をすれば、子供達は何度も腹が空いたら、おじさんの店に来るようになるだろう。汚らしい格好して異臭を放つ存在が店の前に居るだけで、人が寄って来なくなる。立派な営業妨害だ。…日々屋台で食べ物を売って生計を立てているおじさんには迷惑極まりない話だろう。


…それでもおじさんは嫌そうな顔をしながらも「…分かった。気が向いた時にな」と金貨を受け取ってくれる。


…ただ頷いて金貨は懐に入れてしまえばいいのに、おじさんは嫌そうな顔をした。

それで根が良い人であることが分かった。

おじさんも子供達に

対して思う事があったのだろう。


お金を預け、僕がおじさんに背を向けると「おい…!」と声をかけられてたので、振り向くと袋を投げられる。


「旨いと思ったら、また来い兄ちゃん…」そうぶっきらぼうにおじさんは言うのだった。


揚げたポテトと、コケッコ(どうやら鶏肉らしい)はうまかった。


「っ…!!?」


ズキズキと痛む頭を抑えて、僕は起き上がった。


「なん…だ…?」


混乱と痛みで働いてくれない頭を叱咤して思い出す。


確か…おじさんに貰ったフライを食べながら、店を見て回っていたはずだ。


そこで人気のいない細い路地に入って……………………………そこからの記憶がなかった。


懐を探ると持っていた財布代わり袋がなくなっていた。


…やられた…物取りか。


どれほどの間、気を失っていたのか…。茜色の空は闇夜に変わる逢魔が時だ。


頭を抑え、中央広場に出ると昼間開いていた店や、屋台が閉められ、逆に開いていなかった酒場など開いていた。


昼間とは違う喧騒に包まれている。


仕事帰りなのだろう。肩を組み合い陽気に歌を歌う男達や、荷物を持った買い物帰りらしき女性が早足に歩いている。


建物の影では娼館の客引きなのか…退廃的で、妖艶な空気を纏った女達が男達に色っぽい視線を向けている。


「あ〜…」


それらを後目に僕は痛みが治まってきた頭を撫でて、行く宛もなく歩き出す。


中央広場から離れて、どうしたものかと考えていると…街から離れた墓所にたどり着いたのだった。



と言うわけで…無一文な訳だけど、どうするか。


姫様の所にたかりに行く?…ないな。

何かしら仕方ない理由なら、ともかく…完全な自己責任だ。


……………………………本当にどうしよう?

お腹も空いてきた。耐えられるものの夜風は冷たい。


ぶるっと体が震える。

夜になったせいか、冷え込んで来た。


「寒いっ!」寒さで震える自分の体を抱きしめるようにしていると、僅かに暖かくなった。


あれ…?と思って周囲を見渡すと、無数の人魂が僕の周りを囲んでいた。


僕は「ありがとう…」とお礼を言う。

震える僕を心配して集まったのだろう。


生まれつき僕は血筋のおかげか、幽霊、あやかし、精霊等々人外の存在に妙に好かれる体質なのだ。


…まぁ、その所為で厄介な【存在】に魅入られる事もあったのだけど…。


普段はツキを怖がってか…その手の類は寄って来ないはず…なのだけど、ちらっと自分の影を見る。


「……………」


寝ると言っていたので、深刻に考えていなかったけど…本当に大丈夫なのか…?今更ながらに不安になって来た。

突然ザッ、という足音が背後からした。


「…ッ!」


何事かと慌てて振り返ると骨がいた。


学校の理科室などで見かける標本そのままに…白骨が闇を溶かしたかのような漆黒のローブを纏って立っていた。


「えっ…ど、どちら様ですか?」


口から出たのはそんなマヌケな言葉だった。普通なら悲鳴を上げて逃げ出す。骸骨に「どちら様ですか?」って聞くバカがどこにいるのだ。いや、ここに居るんだけど…


混乱した頭をどうにか落ち着かせて、どう逃げるか考える。


ここはファンタジーな世界なのだ。走って逃げて所で魔法を使われたら、どうしようもない。


どうする…どうする…?


「フフフ…想像以上に面白いな」


必死に頭を動かしていると、どう喋っているのか分からないが愉快そうに骸骨は笑う。


「どちら様だったな?私の名はヘル。不老不死に限りなく近い死霊術師だ」


骸骨は不敵な声色で、そう言った。


「それで?」


「えっ?」


「えっ?じゃない。君は夜の墓所で何をしていたのかな?夜の墓所に近づく人間など滅多にいない」


骸骨は首を傾げた。話すべきか迷ったがそれも一瞬。勇者の事を伏せれば問題無いだろうと、僕はこれまでの事を話した。


「ほぅ…?召喚事故で間違って呼び出された異世界人か。ますます面白いな」


骸骨…ヘルさんは妙な所に笑いのツボがあるらしく、また「フフフ…」と肩を震わせて笑っている。


と言うか…何を僕は普通話してるんだろう。相手はゲームなど出てくるアンデットなのに…。


「それで?有り金を全て盗まれたらしいが…これからどうするつもりなのかな?」


「…それが思いつかず、アテがないからここで、黄昏ていたんですが…」


「そうか。なら私に付いて来ないかな?」


「えっ…?」


突然何を言い出すんだこのひ…骸骨は。


「なに。夜刀君…君は面白い素養を持っていそうなのでね。どうだ?衣食住が揃い三食付きだぞ」


「…っ!」こんな怪しい骸骨からの提案ということを除けば、今の僕には魅力的な話だ。


一瞬の逡巡。そして僕は頷いた。


「これからお世話になります」


「よろしい!」というヘルさんが邪悪な笑みを浮かべたような気がしたが、気のせいにしたい。うん。




次回は説明かい?説明回!


感想を涎をたらして待ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ