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抜けない聖剣と短い城生活の終わり。

お読みいただきありがとうございます。

王城にある厳重な警備とセキュリティーに守られ、公爵以上の存在しか入った事のない宝物庫に人が集まっていた。


集まった人間は王女や大臣…それの護衛を任せられている騎士達である。

それとどこか飄々とした雰囲気を持ち、立派な髭を蓄えた老人…魔術の名門ファウスト家の出身の史上最高の魔術師と呼ばれる大賢者ガンダーブ・ファウスト。御年92歳である。


「ほっほっ…宝物庫に入るなど久しぶりじゃな」


見た目も声も、90歳を越えてるとは思えないガンダーブは楽しそうな声を上げた。


「相変わらず、お若いですな。ガンダーブ様」


大臣…史上最年少の32歳で大臣まで上り詰めたグリッド・レイゼスはどこか冷めた口調で言った。


「そう言うお主は老けたのぅ?忙しいのは分かるが、可愛いおなごと触れ合わんと一気に老けるぞぃ?」


92歳にして31歳の恋人がいる大賢者は、髭を撫でながら言った。


「それが若さの秘訣なら…私は若さを保てないでしょうな」


怜悧な雰囲気を纏う大臣だが、思わずとでも言うように苦笑する。


(珍しい…)

アリシアは珍しいモノを見るように、大臣を見つめた。


自分が幼い頃は優しく笑う人だと、記録しているが…アリシアの両親…王と王妃が死んでからは、仕事の鬼となり、徐々に表情を失っていったのだ。


だから苦笑とはいえ…グリッドが笑うのは珍しく、アリシアもつられて微笑んだ。

(そういえば…勇者様はまだかしら?)


「ふむ…?ところで召喚したという勇者様はまだかのぅ」


「勇者様には、聖騎士の鎧を着ていただくようにアウラに申しつけたので、少し手間取っているのかも、しれませんな」


アリシアとガンダーブが、勇者が来ないと疑問に思ったところで、大臣のグリッドは尽かさず言った。


「ふむ…正装をしていただくのは、聖剣を抜いてからで構わんと思うが…」


ガンダーブの言葉にグリッドは首を振る。「いえ…聖剣を抜いていただいたら、すぐにでも内外に勇者此処に有り!と示さねばなりません」


「ふむ…そうか。まぁ、わしは隠居した身じゃ。お主に任せよう」



グリッドに頷くと、ガンダーブはアリシアに顔を向ける。


「それで、アリシア姫や?姫様から見て、勇者様はどんな方じゃ?」


「どんな方…ですか」

アリシアはガンダーブの質問に、どう答えるべきか迷った。


朝に聞いたアウラの話によると「純粋…と言うより、誠実な人だと思いますよ?育った環境もあるのでしょうが、ちゃんと私に気を使ってましたからね」


と言うのがアウラの意見だった。


昨夜はあの目つきなので、色々と負の方向に想像を働かせたが…話を聞く限り、伝承からはかけ離れているものの…悪い人間ではないのだろう。


「…そう…ですね…。伝承とは違いますが、悪い方ではないかと思います。…目つきだけは異常に悪いですが」


「ふむ…。伝承とは違うか…。んむ?目つきが悪い?」


「は、はい…最初は悪魔と思ったほどに…」


「悪魔?フッハハハッ!姫も人が悪い。そんな人間が…」


ガンダーブは、アリシアが冗談を言っているのだろうと思い、笑うが…ガチャガチャと金属と金属の擦れるような音が聞こえた。


そして…ガンダーブはそちらに目を向けて…「な、何奴…!?悪魔か!?」と叫んだそうな。




無理やりキラキラ輝く鎧を着せられた僕は、アウラさんに「姫様達が待っています」と言われ、案内されて来たら…70歳くらいの背筋がシッカリしてるおじいちゃんに「な、何奴…!?悪魔か!?」と叫ばれた。


「ガンダーブ様。彼が先ほどまで、話していた勇者様です…」

アリシア姫が苦笑を浮かべて、おじいちゃんに言う。


様が付くと言うことは偉い人なのかな。


「こ、この方が…?…大変失礼いたしました」


「だ、大丈夫なので顔を上げてください」


深々と頭を下げられたので、僕は慌てて顔を上げてもらう。偉い人にそんな事されたら、聖剣抜けなかった後が怖いっ!


それに…本当、大丈夫というか…悪魔はともかくとして…鎧を着た自分の姿を見て、自分自身も少しビビったのだから仕方ない。


凶悪な盗賊が、騎士から鎧を剥ぎ取り着たらこんな感じだろう。


「寛大なお心に感謝します。勇者様」


ガンダーブと言うらしいおじいちゃんが、また勇者様と言う。

「…あの…僕、勇者じゃないですよ?だから聖剣とやらも抜けないですよ」


「ふむ…?何やら確信しているように感じますが…何故そう思うのです?」


ガンダーブは目に興味深そうな色を込めて聞いて来る。


「勘…と、もう一つあるのですけど、聖剣を抜こうとすれば、分かりますから早く行きましょう」


「ふむ…それもそうですな」ガンダーブは頷くと、アリシア姫に目を向けた。


「では…扉を開けます」


鎧と同じように不思議な紋様が描かれた重厚感満載の扉にアリシア姫は近づくと、両手を扉に添えて目を閉じる。


すると…紋様が淡く発光して、ギギギッ!と重い鋼鉄が擦れるような音を上げながら、扉が開いた。


「ふぅ…それでは参りましょうか」


アリシア姫は息を吐くと、そのまま扉の奥に入って行った。


それに続いて大臣とガンダーブが続いて入っていく。


それを黙って見ていると「勇者様、勇者様も早くお三方に続いて行ってください」


「アウラさん達は行かないんですか?」


僕が不思議そうに聞くと、ブンブンと勢い良く首を振られる。

この先は宝物庫の為に、余程の地位にある者か、王族しか入ってはダメらしい。


勇者じゃない僕が入ったって事で、斬首とかないよな?


不安ではあるが…仕方ないのでそのまま僕は宝物庫に足を踏み入れた。



宝物庫の中には、文字通り宝の山が築かれていた。


宝石や金銀をこれでもか!と使った、王冠に王杖…ネックレスなどの装飾品。金貨等々。


だが、それらは半ば無造作に置かれ、大切そうにされていない。


それ以上に価値があるモノがあるのか?と思うが…奥に進むに連れて僕は理解した。


装備品か…と、宝物庫の奥には、不思議な力を感じる鎧や剣や槍などといったモノが置かれていた。


なるほど…魔王を倒してくれと言うのだから…武器や防具を大切するのはもっともだ。


元の世界では、銃という女も子供も老人も一切関係なく、ただ照準を相手に合わせて引き金を引けば、それだけで【敵】を殺傷出来る兵器…武器が存在するが…この世界に存在したとしても(夜刀は部屋から出て、ここに来るまでに警備の兵士達の装備をチェックしたが、銃らしきモノは無かった)一般的に一切普及していない程、少数で高価なのか…。

もしくは価値を見いだせないのか…。


そのどちらにしろ…魔法とか、魔術があるらしいこの世界ではあんまり意味を成さないのだろう。


勇者を召喚して、魔王を倒そうとするのだ。

それだけ、個人の武力が突出している世界なのだろう。


そして、その個人に一番有用性があるのが、今から僕が抜くらしい聖剣などの強い力を秘めた武具だ。

平和な世界で在れば、装飾品や金貨は使い方で非常に強力な力を発揮するだろうが…魔物や魔王といった暴力に対抗出来るのは暴力だけなのだ…。


そんな事を考えながら進むと、立ち止まって待って居た姫様達に追いついた。


姫様達が立ち止まったいる前には、人1人がやっと入れる扉がある。


「勇者様…この扉の先に聖剣があります」

他の二人の表情は読めないが、姫様が緊張に顔を強ばらせているのは分かった。


…緊張しなくてもいいのに…どうせ抜けないんだから。


姫様は顔を強ばらせたまま、扉を開ける。

部屋に入ると扉の中に六芳星が描かれた魔法陣の中心に、一本の剣がどういう法則か、僅かに宙に浮いていた。


剣の鍔は黄金で作られ、中心にオパールよりも鮮やかに虹色を発する宝石が埋め込まれている。


これが…聖剣か。


僕は吸い寄せられるように、聖剣に近づいて行く。

ただ触れたいという欲求に従って…そして、手を伸ばせば掴める距離まで近づくと、背後から息を呑む気配を感じた。


だが、そんなのはどうでもいい。今はこのとにかく剣を…柄に手を伸ばした瞬間。バチバチッ!


「ッ!!」


まるでお前ではダメだと、否定するように、拒否するように、剣の柄から電流が流れた。


僕は手を抑える。

バチバチッ!という音の割に、手には少し強めの静電気を受けたくらいの痛みだった。


「そん…なっ…!」


声のした方に目を向けると、姫様が己で見た光景が、信じられないように愕然としていた


「っ!」


「姫、大丈夫ですか?」


姫様が立ち眩みを起こして、倒れそうなのを大臣が受け止める。


「え…ええ。…申し訳ありませんが、部屋で休ませてください」


「ふむ…。ではとりあえず此処を出ましょうか」


ガンダーブさんはそう言って、チラッとこちらを見る。


「勇者様…という言い方もあれなので、名前を教えていただけるかな?」


「夜刀です…」


「ふむ…。では夜刀殿も一緒に此処を出ますぞ」


僕はそれに頷くと三人について行く。


…やっぱり抜けなかったなぁ。



宝物庫から出ると、姫様の様子を見て皆が慌てた。


「ひ、姫様…!?一体何があったんですか!?」

アウラさんが慌てて僕とガンダーブさんに詰め寄る。


「これこれ…落ち着かんか」


呆れたようにガンダーブさんが言う。


「で、ですがっ…!姫様が…」

それでも心配で仕方ないのだろう。アウラさんは落ち着かない様子だ。


「私なら…大丈夫です」


大臣に支えられて、顔を伏せていた姫が顔を上げた。顔色があまり良くないようだ。


「少し貧血になっただけです。…アウラ。部屋まで付き添っていただけますか?」

姫は具合が悪いらしく、明らかに今までに比べて、声に張りがない。


「もちろんです!姫様!」


アウラさんは力強く頷き、大臣から姫様を受け取ると歩いて行った。


後ろ姿を心配そうに見ていた騎士達は、姫様が見えなくなると、僕に視線を向ける。


気のせいにしたいが…明らかな敵意が視線に込められている。


「それで…?勇者様。聖剣はどちらにあるのですかな」


昨日も姫様に付き従っていた騎士で、特に強い敵意を持っていそうな騎士が【勇者様】を強調して聞いて来る。


「それは…」


「手に持っておられない…と言うこと、抜けなかったという事だな!偽勇者めっ!」


騎士は僕の言葉遮り、腰から剣を引き抜く。


「勇者様の名を語るなど謀反の罪に等しき大罪!この私、リチャード自らその首跳ねてくれる」


一つ一つの言葉に怒気を込めて、リチャードは剣を僕の首筋に当てる。


名剣らしく…首筋の薄皮が切れて、血が流れた。


体が死を予感して、嫌な汗と感覚が全身を駆け巡る。


宝物庫の警備をしていた兵士や、他の騎士も一切止める様子がなく、それどころか同意する気配をさせている。


大臣は酷薄な笑みを浮かべて、こちらを見るだけだ。


(僕はこんな所で、こんな理不尽で死ぬのか?)

体だけでなく、意識も強く死を感じると頭の奥底が熱い熱を発したような気がした。

その熱に身を委ねようとした時…


「やめんか!!!バカ者共がぁあーーーーーっ!!!」


ビリビリと、身体全体に響く程の怒声をガンダーブが発した。

あまりの声量にキーンと耳の奥が痛くなる。

「全く!貴様等はそれでもこの国の騎士か!?」


「で、ですが…!?」


「ですがも何もない!夜刀殿は最初から自分は勇者ではないと言うておる!罪もクソもないわっ!」

ガンダーブの言葉に苦虫を噛み潰したような顔をして、納得出来なさそうにするリチャードだったが、渋々といったように剣を鞘に収めた。


「夜刀殿。大変失礼した」


ガンダーブが深く頭を下げる。


「いえいえ…。それは良いのですが…僕って元の世界に戻れるんですか?」


本当は後一歩で、殺される所だったのだ。全然良くないが…今はそんな事を言ってられる場合でも、状況でもない。


ガンダーブさんは顔を上げると、困ったように眉を下げた。


「すまぬな。勇者様でない以上、元の世界に帰すのが当然じゃが…生憎、あの石壇は救世の御子様が神託を受けてお作りになったモノ。どういう原理になっておるのか分からんのじゃ」


「そう…ですか…」

ガンダーブさんの言葉に僕は肩を落とした。

「そう気を落とされぬな…。夜刀殿。出来るだけ調べてみよう」

「ありがとうございます…」


僕は命を救ってくれた事も含めて、感謝した。


「さて…夜刀殿?でしたかな?申し訳ないですが、アナタには一度地下牢で過ごしていただきます」


今まで黙っていた大臣が口を開いた。


どうやら大臣の中で、僕は地下牢行きが決まっているらしい。


「グリッド!いくらなんでも…」


「ガンダーブ様。これは彼の身の安全を確保する為でもあるのです。瞬く間に勇者が偽物だったと言う噂は広がっていくでしょう。そうした場合、逆恨みで彼に危害を加える者が出るかもしれないのです」


大臣は黙って殺されそうな所を見ていたくせに、ぬけぬけ言い放った。


「ですが、地下牢に入れて姫様の判断を仰ぐという形にすればヘタな者達は出て来ないでしょう」


ガンダーブさんは納得したのか「うむぅ…」と唸るだけだ。


「分かりました」


牢屋に入れられるような事をした覚えはないけど、仕方なく僕は頷いた。





そして僕は鎧を脱がされ、地下にある冷たい石畳の牢屋に入れられた。

牢屋の隅にはわらが申し訳程度に敷かれ、薄っぺらい布が一枚、隣に置かれている。


牢屋にあるのはそれだけだ。


これを見ると、地球の監獄は天国かも知れない。

…所詮映像でしか見たことないけど…。


さて…どうしたものかな。


僕は鉄格子に近づいて、強度を確かめてみる。


うん!無理!毎日小便を鉄格子にかけて、腐蝕させて脱獄した人間がいるらしいけど…無理だ。


鉄格子から外の様子を見るが、人影らしきモノは見える範囲には存在しない。


…打つ手無しか……。同室に実は大盗賊の頭がいて、その人と一緒に脱獄…ってテンプレもないみたいだしな。


まぁ…脱獄した所で行くアテもないのだけど…。


「はぁ…」無意識のうちにため息を吐いた僕は藁の上に横になって…飛び起きた。

「〜〜〜っ!」


ピョンピョンと跳ぶ、米粒より小さい虫…ノミだった。


どうやら藁の中に潜んでいたらしい。


僕は服をバサバサと空気に叩いて、ノミを払い落とすと、藁の隣に置いてあった布も同じようにノミをバサバサと払った。


「…今日というか…この世界に来てからろくな目にあってないなぁ…」


僕はやることないので、石畳に横になり布に寝袋のようにくるまって寝た。


それにしても異世界にもノミがいるとは…恐るべしノミ。


目が覚めると鉄格子の辺りに、黒いパンと色の薄いスープが置いてあった。


天井の隙間から、僅かに差し込む日差しで、それが昼食らしい事が分かった。


もぞもぞと動きながら近づいて、僕は黒いパンにかじりついて顔をしかめた。


堅いのだ。ビックリするほどに…歯が欠けるかと思った。


確か…黒パンって事はライ麦で作ってるんだろうけど…もっと柔らかかったような………。


このスープに浸けて食べるか…。


なんとか柔らかくなったパンを胃に収め、僕は少しだけストレッチすると、また眠りについた。




「ん…?朝…かな」


硬い床の所為で痛む身体をほぐして、僕は大きく伸びをした。


ちなみにあの後、夜も夕食が運ばれた。


運んで来た兵士さんになぜか、ゴミを見るような侮蔑の目付きだったけど。


スープにベーコンが入ってたのが、少し嬉しかったです。


…しかし…何の音沙汰もナシか。夜には何かしら反応があると思ったんだけどな。


こんな時…ツキが居てくれないのは、かなり不安だ。


いつの間にか、一緒にいるのが当たり前になってたからなぁ。


「はぁ…」


僕は重いため息を漏らした。


その時、入り口の方から人が数人やって来た。


騎士達とガンダーブさんを連れて、姫様が無言で僕の前に立った。


表情は複雑で、どんな感情を抱いているのかは読み取れない。姫様は何度口を開くのを躊躇いながらも、重々しく口を開いた。


「勇者…いえ、夜刀さん。あなたを解放します」


「へ…?」


僕は口から間の抜けた声を出した。

ガンダーブさんはともかく…昨日の騎士達の事が有ったので、内心どうなるかドキドキしていたのだけど…。


僕は何か裏があるのではと思うが…この牢屋に長居はしたくないし、殺す気が有ったなら僕なんてとっくの昔に、殺されているだろう。


僕の様子を見ていたガンダーブさんが口を開いた。


「ふむ…。心配されるな。夜刀殿」


そう言ってガンダーブさんは姫様を横目で見る。


それに姫様は頷くと「鍵を…」

と言った。

姫様に言われ、一人の兵士が懐からジャラジャラと、輪っかに幾つもの鍵が付いた束を取り出して、牢屋の鍵を開けた。


「では…夜刀さん。私達に付いて来てください」


そして僕は牢屋から出て、姫様達に付いて行った。




着いた場所は応接室の一室らしかった。


促されるままにソファーに座ると、目の前には姫様とガンダーブさんが座る。


すると突然姫様が頭を下げた。


「申し訳ありません!あなたをこちらの間違いで呼び出したのにも、関わらず牢屋になど入れてしまいました」


「えっ…えっと、大丈夫…や、大丈夫じゃないですけど、とにかく頭を上げてください」


僕は慌てて姫様に頭を上げてもらう。


なんだ…?この世界のお偉いさんは、突然頭を下げて来る趣味でもあるのか?


「…ってミス?」


慌て終えた所で、姫様の言葉に聞き捨てならないモノを聞いて、僕は聞き直した。


「はい…」


コクリと姫様が頷いた。


「それはわしの方から説明しよう。実は夜刀殿をどうにか元の世界に戻せないかと、恐れおおくも石壇を調べたのじゃがな。…召喚術式の一部が欠損していてのぅ。その所為で勇者ではなく夜刀殿を召喚してしまったようなのじゃ」



そんな事だとだろうとは思ったけど、やっぱり間違いだったか…。


「…そうだ。ところで僕は元の世界に…」

帰れるのか…と続けようとして、ガンダーブさんの表情で分かってしまった。


「…すまんのぅ。あれは神器とも言えるもので、わしには手の出しようがないのじゃ」


ガンダーブさんが申し訳なさそうに、そう言った。


「…わかりました」


分かっていないし、分かりたくもないが今の所は帰れないと覚悟を決めるしかないだろうな。


「それで…僕はこれからどうすれば?」


勇者として召喚されたなら、魔法と剣を学び。危険な魔物とかと戦う事になるのだろうが、その分面倒は見てくれるんだろうけど…あいにくと僕は勇者ではない。


僕はこの世界では、身よりも、金も、常識も、力すらすらないのだ。


そして、それらが欠けてはどんな世界でも生きて行くのは難しい。


すると、目の前にずっしりとした重さを持った袋を姫様が取り出した。


「実はある事情がありまして、夜刀さんをこの城に居てもらう困るのです。お金で片付けられるモノでもないですが…当座の生活費して、こちらをお渡しします」


袋の中には眩いくらい輝く金貨が入っていた。


ある事情か…。これは…単純に魔王が世界を滅ぼそうとしてるから〜みたいな事じゃなく、勇者を召喚したのは、もっと面倒な話かな…。


この国を作ったのが昔、召喚された勇者なら、過去の名声や権威を取り戻す事情があるとか?


…何にしろ、そんな事情だったりするなら、殺されないだけマシって考えた方が良いかなぁ。


「そして、この世界での身元の保証はわしがしよう。この王都で、身元がハッキリしないのは色々と困るじゃろうからな」


駄目押しとばかりに、ガンダーブさんが僕の身元を保証すると言って来る。


「その上で…一つ、夜刀殿。お主に守って貰いたい事がある」


「なんですか…?」と僕は訝しそうに聞いた。


「うむ…。お主には…勇者として召喚された…と言うことを口外しないで欲しいのじゃ」

「僕も面倒事になりそうなので、自分から言うつもりはないですが…」


間違いでも、勇者として召喚されたなんて言ったら、絶対に拙いだろう。


「そうか…そうか…」とガンダーブさんは、ほっとしたように頷いた。


その後二人と話合い。一応の身分…生き倒れている所をガンダーブさんに拾われた記憶喪失の人間…という事になった


まだ主人公が師匠にも出会ってないって…。


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