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日常から異世界へ

良ければお読みください。

「はぁ……」


僕は人気が全くない夜の静寂に包まれた墓所でため息をついた。


空には赤と青という人によっては不気味と思うだろう、つの満月が浮かび、辺りを照らしている。


本当に異世界何だよな……ここ。金も刷られて、無一文。……どうしようか?





「キャ!…ご、ごめんなさい……」


学校に行くために、通学路を歩いていると……曲がり角でおしゃべりに夢中だった、二人の女子高生にぶつかった。


「いえいえ、僕は大丈夫ですよ。怪我はないですか?」


僕は爽やかに笑う。


「もう、ちゃんと前見なよ。ミキってば……!本当にすいません…」


ぶつかってない方の女の子がぶつかった方に笑いながら注意して、僕に視線を向けると……笑顔が固まった。


「気をつけますよ〜だ。あの、心配してくれてありがと……」


ぶつかった方も僕の顔を見て固まる。


数秒の沈黙。


「「すいませんでした〜!」」


二人の女の子は涙目になりながら、学校に走った行ってしまう。


うん……。いつも通りの日常だ。悲しくなんかないぞ!


いつもの事ながら、ちょっと傷ついたけど……。


僕の影から『くすくす…』と笑うような声がするが無視する。


「ほっほっ……。相変わらず難儀じゃのぅ。夜刀ちゃんや」


立ち止まっていると、知り合いのおばあちゃんが家から出てきた。


「おはようございます!」


ビシッと背筋を伸ばし、元気良く挨拶する。


「はい。おはよう……。なんじゃ若い頃をおもいだすのぅ」


聞いた噂によると、このおばあちゃんは元893の伝説的な大親分の妻だったらしい。もう関わりはないらしいが……僕は知っている。近所で空き巣事件が何件か起こり、帰り道……おばあちゃんの家に空き巣が入ろうとしたときに、謎の男達がその男を捕まえて黒塗りの車でどこかに連れ去ったのを。


「ほれ…あとでお食べ…」


おばあちゃんはそう言って懐から、饅頭を取り出した。


「ありがとうございます!それじゃ」


僕はありがたく饅頭を受け取り、おばあちゃんに会釈すると。


「ほぅほぅ。気をつけてのぅ。夜刀ちゃん」


おばあちゃんに手を振り、そのあと人に会う度に元気良く挨拶をして学校に向かった。


……大抵の人には怖がられるだけどね?挨拶しないと、不審者情報として町内掲示板に似顔絵が張られるんだよ……。





僕の同級生や先輩達で賑わう校門を抜け、昇降口を抜けて、三階まで登ると、僕が所属するクラス1ーCにたどり着いた。扉を開ける。


「おはよう!」


「お、おはよう…」


「…はよ…」


挨拶をすると顔をひきつらせながら、何人かが返してくれる。入学から半月……やっと挨拶をしたら、返って来るようになったので嬉しく思う。


最初は挨拶しても全力で目を逸らされるだけだったのを思えば、かなり進歩したと思う。


やっぱり挨拶は大事だ。


「よ、夜刀。相変わらずの目つきだなぁ」


自分の席に座ると、同世代としては唯一無二の友達。伊集院勇人いじゅういんはやとが笑顔で話かけて来る。


伊集院勇人。中学生からの付き合いで、スポーツ万能、頭も良く。名前負けしない容姿と性格をしており、家は結構な金持ち。才色兼備、文武両道とは伊集院勇人の事である……と、誰かが言ったらしいが、僕を含めて異論を挟む人間は居ないだろう。密かにファンクラブが出来てるらしいし……。


「目つきは生まれつきだよ……」


ジロッと見ると勇人は楽しそうに笑う。


「いや〜。本当におっかねぇ目だよなぁ」


こいつは変態だと思う。


……でもありがたく思わないと、いけないのだろう。


多分……というか確実に、クラスの何人かが挨拶を返してくれるようになったのは、勇人が普通に僕に話しかけてるのが大きいと思う。小学生の頃はいない子扱いだったし。むしろ度胸試しとして、僕の机にタッチするとか流行ったし……あと隣になった女の子は打率十割でガチ泣きするので、隣の席は常に空席でした。



「でさ…?お前は…」


「確かに…でもそれって…」


そのまま二人で、実のない話をホームルームまで話した。


そして昼休み…。


クラスでは弁当とコンビニ組は優雅に自分達のペースで食べてる中、食堂組はチャイムが鳴ると同時に、ダッシュで教室の扉を開けて、席を確保するために食堂に向かう。


ちなみに、この学校は一階に食堂があり、一年は三階、二年は二階、三年は一階と完全な年功序列順で食堂で席が確保しやすくなっている。


ま、僕は弁当持参なので関係ないのだけど……。


僕はカバンから二つ弁当を出すと、屋上に向かった。


数人のクラスメートと話していた勇人が、教室を出るときに視線をこちらに向け(混ざるか?)と目で言ってくれたが、僕は首を振り、目で(ありがとう)と礼を言って教室を出て、屋上に行く。


勇人の気持ちは嬉しいし、交ざりたい気持ちもあるけど…。


僕はふっと窓を見る。うん……………、寝起きで鏡見ると自分自身でこの目つきにビビる事があるのだから、あんまり親しくない人にはキツいだろう。


せっかくの昼休みを微妙な気持ちで、過ごすのも過ごされるのも嫌だし。それに……腹ペコ神様を放っておくと、なにされるか分かったものではないのだ。


僕はブルッと身を震わせると、そのまま屋上に向かう。


扉を開けると、眩しいくらいの青空から、暖かい日差しが降り注いでおり、時折風に運ばれて若草の香りと、甘い柑橘類の匂いが漂ってくる。


天気予報によれば、今日は今年一番の春日和。春にしては風も少なく、暖かさと相まって心地よいくらいだ。


眠気と共に思わず出た欠伸をかみ殺し、屋上にある給水塔によじ登り、辺りを見渡して人気の無いことを確認する。


「ツキ。出てきていいよ」


すると僕の影から艶やか黒髪となびかせ、真っ赤な唇の両端を吊り上げて笑みを浮かべた美女……ツキが出てきた。


黒い浴衣をわざと着崩し、ヘンな風俗の人みたいな格好にも関わらず、不思議と下品ではなく、品が良い艶やかな印象を与えるのと、大変にけしからん体つきが特徴の自称・僕の守護神だ。


「ん〜?やっと昼じゃのぅ。…ん、揉むか」


背伸びしたツキは、僕の視線に気がつくと、己を抱きしめるようにして、胸を押し上げる。


「…ッ!誰が揉むか!!」


一瞬、腕が動きかけたが…なんとか自制心を働かせる。


……けしからん!大変けしからんです!


「ただでさえ凶悪な目付きを歪ませて、視姦するように、舐め回すように、……見るのでな?恐怖を感じたので、ついつい胸を揉まれるだけで、済まそうと思ったのじゃ」


ツキはわざとらしくシナを作り、くねくねと身を動かす。


「……一週間、おやつ抜きにするよ…?」


ニコッと笑いながら言うと、ツキは突然リストラ勧告されたサラリーマンのように愕然として、身を震わせる。


「おぬし…ワシを…わっちを殺す気かえ?なんという…なんという鬼畜!どっかの吸血鬼もどきより鬼畜じゃぞ!?」


大げさだなぁ……。ツキはこう言うと大半大人しくなるのである。……言い過ぎると、それなりの報復を受けるので多用は出来ないけど。


ちなみにツキの言葉使いだが、ある日の事、アニメを見ていたツキが「よし…!夜刀!私は決めたぞっ!どっかの巨狼のありんす言葉と、どっかの吸血鬼のワシ言葉を融合させて新たなキャラを確立させる!」


と意味の分からないことわ言い出して以来……ごちゃ混ぜな言葉使いを使うようになった。


「はいはい。冗談だよ。冗談。とりあえずお弁当食べよう」


今日はせっかくの春なので、山菜で攻めて見た。


アスパラ、ウド、ウルイの三種類を豚バラとベーコンで巻いて、照り焼きにした巻物をメインに……菜の花のゴマ和え、ウドの皮とゴボウのきんぴら、そして彩りにトマチーを入れた。トマチーは単にミニトマトをくり抜いて、中にトロけるチーズを入れただけの料理なのだが……もちろんごはんは健康に気遣って五穀米です。


だって……不健康になったら死神とか言われそうじゃないですか?神様にジョブチェンジするつもりはないのですよ。あっ、可愛い巫女さん付きなら考えます。はい。


「うむ…。相変わらず美味いのぅ。将来は料理人にでもなれば良いのではないか?」


ツキが上品ながらも、勢い良く食べるので、内心ガッツポーズする。やっぱり作ったものを美味しいと言われるのは嬉しいものである。


「ん〜。正直憧れはあるけど………僕には向かないかなぁ。単に料理を作れば良いってもんじゃないし……そもそもサービス業は絶望的に相性悪いし」


この目付きでは店に迷惑掛けてしまうし、店を開くのは金の無駄だろう。そもそもこの目付きは遺伝なので、祖父は小説家、父親は投資家とか、人とそこまで関わらなくていい仕事だし……将来どうしようか?


「そうか…ま、おぬしの家は土地持ちの金持ちだからのぅ。普通に生活してれば、曾孫を大学に行かせるまでの金はあるじゃろうて」


ツキが言うように僕の家、土御門家(確かご先祖様が安倍晴明の弟子で、土御門の姓を名乗るのが許されたとか)はご先祖様が頑張ったおかげで、贅沢さえしなければ充分な財産を貯えている。それを使って親父が更に増やしているので、自分で言うのも何だが家は金持ちだ。


その為、堕落しないように、一種の帝王学のようなモノを幼い頃から叩き込まれるので、変に散財する事はない。


「だね……。だからって怠惰な生活を送ったら、じいちゃんに殺されそうだし…将来かぁ」


ゆったりと青空を見上げ、流れる雲を目で追いかけながら、考えてみるが…これといって浮かぶものはない。


強いて言えば……勇人以外の友達や、健全な思春期男子としては可愛い彼女が欲しいと思うけど、思うだけだ。近寄るだけで怖がられるしね!


「ま、まだ三年も卒業まであるんだし、せっかくの学校なんだから、ゆっくり考えるさ」


そう言って僕は立ち上がると、お尻に付いたゴミを払って、食べ終えた弁当箱を仕舞う。


「そうだのぅ…。お主には守護神たるワシがついて居るのだから、ゆったりとするが良いさ」


そう言って薄く笑うと、ツキは僕の影に入り込んだ。


今更ながらスゴい現象だよなぁ。これ。

そういう存在なんだろうけど…。


僕はツキの事を考えながら、梯子を半分ほど降りて…なんとなくそのまま飛び降りた。


そして、一向に地面に着地しないまま、一瞬の浮遊感に包まれて僕は意識を失った。





蝋燭の不安定な灯りだけが照らす暗闇に…一人の美しい金髪の少女と、それを取り巻く臣下らしき者達が緊張した面持ちで、目の前の石壇を見つめて立っていた。


「では、始めます」


静かに……数人のローブを身に纏った魔術師達が、石壇を取り囲み、唄のように一定のリズムを持った呪文を唱える。


すると石壇に描かれた紋様が、淡い光を放ち始める。


「姫様……」


臣下達の中でも一際若い(と言っても三十半ばほどだが…)男が美しい少女を促す。

それに少女は頷き…石壇に近づくと、覚悟を秘めた面持ちで厳かに口を開いた。


「聖王国セレスティアの正当なる後継者たるアルシア・エイダー・セレスティアの名の下に…異世界の勇者よ!今ここに現れたまえ」


少女の言葉に反応して…石壇が眩く輝く。


「「っ…!」」


石壇を中心に…視覚で捉えられるほどの膨大魔力が荒れ狂う。

そして、目を開けてられないほどの光を発すると…そこに人影があった。


「おぉ…!!」


どこからともなく、感嘆の声が上がる。


それを気にするものはいない。なぜなら大小問わず心の中で、皆が同じような声を上げたからだ。


「伝説の勇者様……」


少女は頬を上気させる。幼い頃から、この聖王国……いや、忌々しい帝国にすら、伝わっている勇者。


その者、聖剣の担い手にして世界を救うものなり……。


吟遊詩人は謳う。明晰な頭脳と、賢者に匹敵する知識。その剣技は容易く魔物を切り裂く。


日輪のような人を魅了せずにはいられない笑顔。そして魔王すら恐れず立ち向かう勇気。


アリシアは何度も伝説の勇者の話を聞き、憧れを抱いていた。もしかしたら、それは少女に取っての初恋だったのかも知れない。


すると、自然。勇者に対する想像は留まることを知らずに、理想の姿に膨れ上がっていくのが世の常である。


なまじ周りを高名な騎士や、美形で囲まれているのだから。そして……少女だけが例外ではなく、人は自分の見たこと無いモノに対しては恐怖か、自分に都合のいい偶像を作るかのどっちかである。


そして、この世界。特にこの聖王国は勇者に対して、都合のいい偶像を作り上げていた。


そして、不幸にも、石壇には身勝手に召喚され、これまた身勝手イメージを抱かれた少年。土御門夜刀がいた。


ーーー光が収まり少年の姿…特にその目つきを見た人間達の第一声は………。


「ひっ…!?悪魔!?」


であったとか。

2月21日投稿

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