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君と過ごす学園生活  作者: チル兄
アイツとの再会、始まる変化
7/11

4月6日 命懸けの鬼ごっこ

 「ハッハッハッ!何処に逃げるつもりだ?」


 「アンタが追ってこれない場所だよっ!」


 「そんな場所はこの地球上には存在しない。

 諦めてチョン切られろ」


 「だから何をチョン切るんだよおぉぉぉぉっ!?」



 俺は走っていた。後ろから追いかけてくる

 魔王から大切なものを守るために……

 因みに澪は偶然近くを通りかかった龍星の彼女、

 芹香ちゃんにまかせてある。



 「うぉっ!?行き止まりかよっ!」



 俺の前にそびえ立つ壁。

 どうやら俺は追い詰められちまったみてぇだ。

 普通に考えて俺はもう終わりだろう。

 だが、生憎と俺は普通じゃねぇ。



 「これくらいの壁、乗り越えてやらぁっ!」



 勢いのまま壁に向かって飛び、壁を蹴る。

 そのまま連続で壁を蹴って上に上がっていき、

 一気に壁を乗り越えた。



 「よっしゃっ!トラップクリアだっ!」


 「フンッ相変わらず身軽な奴だ。

 だが、それだけで逃げ切れると思っているのか?」



 ちくしょうっ!アッサリ飛び越えやがったっ!

 本当に人越えてるよなアンタはよぉっ!





 「……今日はこれくらいにするか」



 サックスを口から外し、黄泉は静かに息を吐いた。

 今でこそ主婦として生活しているが、

 かつては世界的に有名なサックスの奏者であった。

 その頃の習慣は今でも続いており、

 毎日空いた時間に欠かさずサックスを

 吹くようにしているのである。



 「うん、ティータイムには丁度良い時間だな」



 二人で紅茶でも飲もうと黄泉は思い、戸棚を開ける。

 その時リビングの電話機が鳴った。



 「はい、鷹山で……あぁ澪じゃないか。

 どうしたんだい?……なるほど、冥がな。

 分かった、私の方であの子を止めよう。

 君は寄り道せずに帰ってきなさい」



 黄泉は電話を切り、静かにため息をついた。





 「ゼェ……ゼェ……」


 「随分と逃げたな。だが、もうこれまでだ」


 「ちく……しょう……が……」



 倒れたまま荒い息を整える。

 俺達の鬼ごっこは夕方になる頃には決着がついていた。

 俺が陸上やってたって言っても二年も前の話だ。

 あの頃と同じ体力は無い。

 それに長く走ったからか古傷が疼く……

 もう逃げることなんて出来やしない。



 「くそっ……あんだけ走って息一つ切れないとか、

 一体どんな肺活量してんだアンタは……」


 「貴様よりも体の出来が良いものでな」


 「うわ~なんて腹立たしいお言葉。

 しかも事実なだけに反論も出来ねぇし……」


 「私から逃れたければ姉さんを呼ぶのだな。……もう遅いが」



 冥さんを止めることが出来る人はこの町には三人しか居ない。

 母さんはその一人だ。

 冥さん曰く、自分が最も尊敬する人だから

 どうしても頭が上がらないんだとか。

 ……その時は冥さんも誰かを尊敬出来るんだって

 スゲェ内心驚いたもんだが……



 「さて、そろそろチョン切らせてもらおうか」


 「ちょっ!?マジでチョン切るつもりかよっ!?

 お、落ち着けっ!話し合おうじゃないかっ!」


 「その必要性を感じられんな」


 「チックショウッ!目が据わってやがるっ!

 母さんヘルプッ!ヘルプミーッ!」



 このままじゃ俺の大切なものがチョン切られるっ!

 母さん今すぐ助けてくれっ!

 あなたの息子が娘になっちゃうからっ!

 そんな俺の必死のSOSを感じ取ってくれたのか

 何処からともなく母さんが現れ、冥さんの前に立ち塞がった。



 「そこまでにしてやってくれないか?

 流石に息子が娘になられるとこちらが困る」


 「ね、姉さん……?」



 突然現れた母さんに冥さんは驚く。

 あぁ……助かった……



 「母さんっ!来てくれたかっ!」


 「澪に連絡を受けてな。元々夏樹ちゃんを

 置いてきぼりにした卓郎と澪が悪いのだろうが、

 だからといって追いかけ回すのは良くないぞ」


 「ね、姉さんには関係のないことだ。

 余計な口を挟まないでくれないか?」


 「関係はあるさ。この騒動の原因は私の子供達にあるからね。

 ……二人にはキチンと夏樹ちゃんに謝らせよう。

 それで納得してもらえないのなら私も頭を下げる。

 ……どうか怒りを収めてはくれないか?」


 「……っ」



 母さんの諭すような言葉に一度は冥さんは

 反論しようと口を開くも、結局なにも言えずに口を閉じる。

 おぉ……あの冥さんが何も言えないとは恐るべし母さん。



 「……チッ!仕方がない。今回は姉さんに

 免じて引き下がるとしよう。

 ……だが次は無いぞ」



 冥さんは不機嫌そうに立ち去っていった。……助かった。



 「大丈夫かい?」


 「脚は痛ぇけど何とか……」


 「……傷が痛むのか?」


 「まぁな。久々にあんなに走ったからだろうが、

 傷が疼いて立ち上がれねぇよ」



 古傷が疼くことはよくあることなんだが、

 痛みはそれほどもんじゃない。

 だが、たまに今日みたいに強烈に疼くことがある。

 その時は歩くどころか立つことも出来やしない。

 痛みの続く時間はその時によって違って、

 一分も続かなかったり一日中続くこともある。

 今日のは……一時間ってとこか。



 「悪いんだけどさー家まで運んでくれねぇか?

 傷が疼いて動けねぇんだよ」


 「……分かった」


 「いや~悪いなぁ」



 古傷の疼きは社会的に見て大きなハンデだ。

 おのずと出来る仕事も限られてくる。

 だが、俺は後悔なんて全くしちゃいない。

 この傷は澪を守れた証、そしてなにより誇りなんだ。

 だから脚の痛みも気にはならない。

 ……不便ではあるけどな。



 「フッ……夕日が眩しいぜ」


 「何を言っているんだ君は?」


 「いや、ただ格好つけたかっただけだ」


 「やれやれ……」



 その後俺は母親に姫抱きをされて家に帰り、

 親父にからかわれるという屈辱を味わった。

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