4月6日 決意?
夏樹は極度に無口ですが喋れないわけではありません。
卓郎は付き合いが長いので何を言いたいのか分かります。
HRが終わり、一時間目の授業である
日本史が行われていた。
一時間目ということもあって居眠りする者は居らず、
真面目に教科書と向かい合っていた。
「くかー」
ただ一人、彼を除いては。
卓郎は基本的に授業を寝て過ごす。
その理由は単純明快、勉強が大嫌いだからだ。
当初はそれを咎める教師が居たが、
今では彼を起こそうとしようとする教師は居ない。
卓郎は一度眠ってしまうと特定の人物
(家族・龍星・夏樹)以外には起こすことが出来ず、
自分から目を醒ますまでひたすら眠り続けてしまう。
過去に冥が無理矢理起こしたことがあったが、
起こされた卓郎がブチギレて大暴れしてしまった。
それ以来面倒を避けるために睡眠中の卓郎を
放置することが暗黙の了解となり、
誰も卓郎を起こすことが無くなったのだ。
因みに殆どの授業で居眠りをしているため
成績はブッちぎりの最下位であり、
進級が危ぶまれている。
「……(カキカキ)」
そんな彼を夏樹は呆れた目で見つつ、
ノートを取っていた--様に見せかけて
ノートに日本史の担当教師の似顔絵(本人に瓜二つ)を
書いていた。
勉強が嫌いなのは卓郎だけではないようだ。
卓郎とは違い起きてはいるものの、
授業を真剣に受けていないために成績は
地を這うが如く低い。
あと、どうでもいいことではあるが、
卓郎を呆れた目で見る資格は彼女には無い。
「……(ユサユサ)」
「……ん?……もう昼か?」
「……(コクリ)」
「おーそうか、起こしてくれてサンキューな」
夏樹に身体を揺すられて目が醒める。
机から身体を起こして大きく伸びをすると、
身体からパキパキと音が鳴った。
「うぃ~良く寝たぜぃ。やっぱ授業中は寝るに限るな」
「……」
「授業中は絵を描くに限る?馬鹿言うなよ。
そんなことしたら疲れちまうだろうが」
「いやいや!?授業は真面目に受けようよ!?」
俺達の会話を聞いて、クラスメイトの雨宮つぐみが
鋭いツッコミを入れてくる。
相変わらずちっこいな……
「……今何か失礼なこと考えなかった?」
「気のせいだ。……それにしても
ナイスツッコミだったぞ雨宮。
流石はツッコミクイーンと呼ばれることはあるぜ」
「……(ビッ!)」
「私、ツッコミクイーンだなんて
呼ばれたこと無いよ!?
古咲さんも満足気に親指立てないでよ!」
「知らないのか?雨宮はツッコミクイーンとして
有名なんだぞ?……俺と夏樹の中では」
「二人の中だけなの!?」
「雨宮には俺達だけのツッコミクイーンで
居て欲しいのさ……」
「良いこと言ったみたいな顔してるけど、
全然良いこと言ってないからね!?」
俺のボケに雨宮は流れるようにツッコミを
入れてくれる。いやぁ……スゲーありがたいわ~
雨宮は芸人殺しならぬ芸人生かしだな。
その後、気が済むまで雨宮の前でボケて、
俺達は学食へ向かった。
ツッコミ続けた雨宮が、随分疲れた顔をしてたが……
まぁ、楽しかったから良いや。
さて、俺達は学食まで来たのだが……
「混んでるなぁ」
「……」
学食は飢えた生徒達で溢れていた。
うわぁ……スゲェ人の波。近寄りたくねぇ……
だが、あの波を越えないと俺達は食事に
ありつくことは出来ないのだ。
俺達は無言で見合わせ--
「「じゃんけんポン(……)!」」
波の中に突っ込んでいく勇者を決めるため、
じゃんけんをした。
その結果--
俺→グー
夏樹→パー
「……(ニヤリ)」
「ぬうあぁぁぁ!また負けちまったあぁぁぁ!」
俺はじゃんけんは敗れ、床に崩れ落ちた。
畜生……何でじゃんけんでコイツに勝てないんだ。
もう何回負けたのかも覚えてないぞ……
「なぁ、やっぱり--」
「……(ギロッ!)」
「……はぁ~分かったよ。行けば良いんだろ?
行けばさぁ……それで?ご所望の品は何ですか?」
「……」
「あ~はいはいネギトロ丼特盛ね?
それじゃ、いってきま~す」
俺はそう言って人の波に飛び込んだ。
さて……上手く行けるか?
「美味いなぁ」
「……(コクリ)」
俺達は人の波を越えて手に入れてきた
料理を堪能していた。
いや~本当、死ぬかと思った。
波に紛れて散々蹴られるわ殴られるわ……
身体中、至るところが痛いぜこんちくしょう。
まぁ、その分飯の味は格別だけどな。
因みに俺はカツ丼を食っている。
「……(スッ)」
「代金?良いよ。今日は俺のおごりだ」
「……?」
「アレだ、進級祝い。なんとか二人共
進級出来たからな。その祝いだ」
俺の言葉を聞いた夏樹が苦笑いする。
去年は本当ギリギリだったからな。
俺達の成績はかなり低い。
だから、去年は進級が危ぶまれていた。
まぁ、二人共補習試験を受けてなんとか進級出来たが……
あんな目に遭うのはもうごめんだ。
「今年は真面目に授業受けないとな」
「……(コクリ)」
俺達は昼食を摂りながら授業を真面目に受ける
決意を固めるのだった。