4月7日乱闘終了
卓郎は短時間ならば覚醒できます。
それは正に暴風だった。
全身のバネを使って突き出される拳は迫り来る
敵を次々に薙ぎ倒し、振り下ろされる武器を捌き弾く。
普段の卓郎は蹴りなどのリーチを活かした戦い方をするが、
本来の戦い方は拳を使った至近距離戦だ。
だが、拳を使って戦う場合、全身のバネを使って
重く鋭い拳を放つため古傷に多大な負担を与えてしまう。
それゆえ短い時間しか拳を振るうことが出来なかった。
「グッ!」
卓郎が脚の痛みに顔を歪める。
既に脚の負担はピークに達していた。
だが、持ち前の根性で痛みを何とか堪えて拳を振るう。
それを見た龍星が援護に向かおうとするが、
足止めを受けてしまい卓郎の元に向かうことが出来ない。
「卓郎!それ以上無茶するな!」
「問題ない……まだ大丈夫だ!」
「嘘つけ!もう限界寸前だろうが!」
卓郎は明らかにやせ我慢していた。
事実顔は痛みに歪み、ジットリと脂汗をかいている。
だが、それでも拳を振るうことを止めない。
彼を動かし続けるのはただの意地だった。
「グオアァァァァッ!」
卓郎は鬼気迫る顔で咆哮を上げ、更に拳を振い敵を薙ぎ倒す。
卓郎を襲っていたエクゼキューター達は次々に
地面に沈んでいき、卓郎が動きを止めた時には
彼の周りに立っている者は居なかった……
「ハァッ!ハァッ!何とか片付いたか……?」
あ、危なかった……集中し過ぎて古傷の負担を考えてなかったぜ。
しかも滅茶苦茶疲れたし……
やっぱりあまり無茶はするもんじゃないな。
「て、テメェ……」
「……まだ立つのかよ」
暴走族のリーダーが落ちていた木刀を拾って立ち上がっていた。
チッしぶとい奴だ。
「この……化け物があぁぁぁぁっ!!」
「誰が化け物だっ!」
人のことを化け物呼ばわりして襲いかかってくるリーダー。
全く何て失礼な奴だ!
もう一発ぶん殴って黙らせてやる!
そう思って再び構えを取った瞬間……
古傷の辺りに今まで感じたことのない痛みが走った。
その痛みに硬直してしまい、決定的な隙が
出来てしまった俺の頭に木刀が振り下ろされる。
その瞬間の頭に激痛が走り、鮮血が舞った。
……超痛ぇ……痛ぇ……
しかも今ので意識が混濁してきやがった……
だが、それでも……
「へへ……ざまあみ「それだけか?」ろ?」
「それだけかって……聞いてんだよっ!」
「ぶぎゃ!?」
リーダーの髪を掴んで顔面に思い切り頭突きをかます。
そして堪らず地面に崩れ落ちるリーダーの顔を踏みつけた。
「この鷹山卓郎を舐めんじゃねぇぞド三流が!
この程度で俺は倒れやしねぇ!
俺を倒したかったら冥さんレベルの人外でも
連れてくるんだなぁっ!アッハッハ!!」
頭の痛みや、よく分からない高揚感のおかげで笑い出してしまう。
そしてその後すぐに意識が途切れた。
笑っていた卓郎が突然背中から地面に倒れる姿を見て、
龍星は急いで卓郎の元に駆け寄った。
因みに龍星の周りの暴走族は既に全員ノックアウトされており、
龍星自身の怪我も殆ど無かった。
「やれやれ……またこいつは無茶しやがって」
頭から血を流して気絶している卓郎を見て、龍星はため息をつく。
龍星は普段から無茶をさせないでくれと澪に頼まれていた。
今回の乱闘でも卓郎に無茶をさせないように
気を使っていたつもりだったのだが……
結果はご覧の通り、頭から出血する怪我を負い気絶してしまった。
更に脚にも多大な負担をかけている。
……後で涙目で澪に詰め寄られることが容易に想像出来、
龍星はどう言い訳すればいいのかと頭を抱えた。
そんな時、爆音を響かせ、一台の大型バイクが
グラウンドに入ってくる。
龍星は新手かと警戒するが、バイクは龍星達から
少し離れたところに止まり、バイクの搭乗者が降りた。
体つきなどから女性であることが分かり
「ふーようやく着いたよ」
「だぜ?だぜだぜ!(ここがかしわぎ学園か?大きいな!)」
深く息を吐く白髪の女性と女性の胸の谷間に挟まって
はしゃいでいる小さな謎生物。
それを見た龍星は直感的に敵ではないことを察して警戒を解いた。
その時、龍星の横を一つの影が通り過ぎる。
その影とは――
「待てぇい!不届き者共め!この木ノ下幸が相手になるぞ!」
乱闘に参加することもなく気絶していた木ノ下であった。
目を瞑り妙なポーズを決めて女性達の前に立ちふさがるが、
暴走族は既に全員地面に倒れ、乱闘は終わっている。
そのため――
「はい?」
「だぜ?」
当然このようになる。
グラウンドになんとも言えない空気が漂う。
木ノ下もそれを感じたのか、目を開けてみると
女性達を見てギョッとして身体を大きく仰け反らせた。
「なぁっ!?ば、馬鹿な!暴走族が女性に変わってる!?
これは一体どういうことなんだ!」
事態が飲み込めずに頭を抱えて叫ぶ。
どうやらまだ暴走族達が暴れているものだと思っていたようだ。
だが、哀れかな。既に乱闘は終わってしまっている。
この男、女子達の気を引くために卓郎達に
着いてきたというのに乱闘に参加することが出来なかった。
実に哀れな男である。
哀れ木ノ下、乗り遅れた。




