術式と霊道
霊夢「これは、東方projectの二次創作小説です」
魔理沙「登場する人物、団体、その他名称はいっさい関係ありません」
誰にも会わないな。本当に皆いるのか?
魔理沙は歩きながら、少し不安にかられていた。流石に三十分近く誰にも会わないと、人恋しくもなるのだろう。
「それにしても……暇だな〜」
戦わないにこしたことはないけど、ここまで何もないと、正直つまらないな。
「何か起こんないかな?」
そんなことを呟いた瞬間、前の方で人が横切った。
「あれは……」
咲夜? なんであんなに焦ってるんだ? それに何かに逃げてるような。
魔理沙は咲夜を止めることなく見送った。そして咲夜が逃げて来た方を見る。すると……。
魔理沙の目の前を、また人が通った。
「魔理沙……」
「……霊夢」
次の瞬間、魔理沙は腰にぶら下げていたウッドチェッカーを手に持ち、霊夢に引き金を引いていた。霊夢はそれになんとか反応し、銃弾を避ける。
そして霊夢が、左のホルスターからコルトソウルを取り出し、魔理沙に向けて放つ。
だが霊夢の放った銃弾は、反り返った土に阻まれた。
「いきなり撃ってくるなんて、少し酷いんじゃない、魔理沙」
霊夢は呆れながら言った。
「霊夢に会ったら、出会い頭に一発撃ってやろうと思ってただけだよ」
魔理沙は、そんな霊夢の言葉に、笑いながら返した。
「……術式?」
出現した壁を見ながら、その向こうにいる魔理沙に尋ねた。
「そう。術式」
術式とは、魔術を構成する基盤となる方程式のこと。その術式は、組み合わせによってさまざまな効果を発揮する。その式の数は108式まで存在する。
「術式は弾幕やスペカじゃないから、反則は取れないわね」
「その通りだぜ、それにもし反則になったとしても、これが私の能力だから仕方な――」
その瞬間、左側から空烈弾が飛んできた。
「よっと」
魔理沙はその攻撃を難なく避けると、霊夢の方を向いた。
「霊道か?」
「霊道よ」
霊道とは、陰陽霊術を言い換えたもの。術式とは違い、式の組み合わせは出来ないが、一つの霊道が一つの術式の力を持っている。
ここで霊道と術式の明確な違いを言っておこう。
霊道は感覚で術を放つもので、術式は解析をして術を放つもの。それ故に、術式は、式の意味を理解しなければならない。知識が必用条件になる。そのてん霊道は感覚だけで放つので、式の理解をする必要はない。但し、それ故に誰もができる訳ではない。なによりも才能が必要になる。だが術式は、理解さえすれば、誰でも使える万能なものなのだ。
だからといって、序列云々などは存在しない。双方同じだけの力はあるし、いくら使い手といっても、使えないものは使えない。式にもレベルというものが存在するのだ。
「……あんたの術式が反則じゃないなら、私の霊道も反則じゃないわよね」
「だろうな。それが霊夢の能力だからな」
たく……こりゃ、骨が折れそうだ。
「全力でいくぜ、霊夢。ちゃんと付いて来いよ!」
「望むところよ。あんたとやるのは久し振りだし。私も全力でいくわよ」
そう言って霊夢は霊道を発動させた。
「霊道ノ二十七・地封鎖」
霊夢が言い終えると同時に、魔理沙の足下から、鎖が襲って来た。
魔理沙はこれを跳ぶことで躱す。行き場を失った鎖は、空を縛る。その間に魔理沙は、術式を展開した。
「23式魔道・スラストラッシュ」
鎌鼬を造り出し、それが霊夢を襲う。けれど霊夢は、それを霊道で受ける。
「霊道ノ三十四・波彰壁」
霊夢は左手を上から下に降ろす。すると、透明な壁が出現した。
その壁が、魔理沙の攻撃を阻む。
その間に、魔理沙は壁の後ろに回り込み、ショットガンから弾を放つ。
だが霊夢は、魔理沙の行動を読んでいたようで。銃弾を躱すと、魔理沙に接近して、拳打を繰り出す。
「あぶねっ! ちょっ! 待て!」
なんとか受けきって避けきって、霊夢と間を空ける。
「一発くらい当たりなさいよね」
「一発貰っただけでも、致命的だと思うけどな」
そういうと、魔理沙は手を振った。
「45式魔道・アースランス」
今度は霊夢の足下から、地頭が飛び出した。霊夢はそれを跳んで躱す。
魔理沙はその瞬間を逃さず、ショットガンで銃撃する。
「くっ!」
「ちっ! 腕かよ」
当たりはしたが、運悪く左腕に当たった。霊夢のHPがガクンと7減った。霊夢はなんとか空中で態勢を立て直し、右のホルスターからコルグレイスを取り出し、魔理沙に向けて放つ。
「うっ!」
撃った反動で、霊夢は少しだけ後ろに飛んだ。魔理沙はまた土の壁を出現させ、防ごうとするが。
「なっ!」
土の壁を貫通し、弾は魔理沙の足下数センチずれた位置に当たった。地面が大きく抉れている。
「なんだその銃? 威力が桁外れだぞ?」
「さあ? なんででしょうね?」
霊夢は座ったまま、先程撃たれた左腕を押さえている。撃たれても出血などはしないが、衝撃は伝わる。それによるショックが、まだ残っているのだろう。
「その銃は要注意だが、今尻込みしてる訳にはいかないんでな。一気に決めさせてもらうぜ」
銃撃によるショックが残っている今が好機。それに、仕込みも終わったしな。
「いくぜ! 霊夢!」
「こういう時は……とにかく逃げる!」
そう言い残し、霊夢は茂みの中に入った。
「あっ! おい待てよ!!」
魔理沙は咄嗟に止めようとしたが。
「誰が待つか!」
霊夢は走って行ってしまった。
「たく。殆どの仕込みが、まったく意味なくなっちまった。こういう時の霊夢の決断力には、惚れ惚れさせられるぜ」
頭を掻いて、霊夢が逃げた方向を見る。
「けれど、私からは逃げられないぜ霊夢」
「ここまで来れば……なんとか……」
はぁはぁと息をしながら、流れる汗を拭う。
ここは、先程魔理沙と戦った場所から、300m近く離れた場所だ。
木に背中を預け、呼吸を調える霊夢。
「ふぅ。危なかったわね、さっきのは流石に」
魔理沙は、私の攻撃を避けながら術式を組んでいた。見たところによると、その数は十個ってところかしら。かなりのトラップを仕組んだものね。
「流石は魔理沙といったところかしら」
けれど油断は出来ないわね。魔理沙のことだから、まだ何か仕組んでるはず。
左手の人指し指を、下唇に付けて考えていると、霊夢はあることに気付いた。
「あれ? こんな魔方陣、いつ付けられたっけ?」
左の手首に、小さい魔方陣が展開していた。
訝しげにそれを見る霊夢。
この形……見覚えがあるような……。
そう思った瞬間、霊夢は戦慄した。凭れていた木から体を離し、逃げて来た方を見る。目を凝らして見つめていると、足下の土が盛り上がったような気がした。
霊夢は思わず後ろに跳ぶ。するとそこから、銃弾が飛び出した。
それは奇妙な軌跡を描きながら、霊夢に向かって飛んで来た。
「くっ!!」
霊夢はそれを躱す。だが銃弾は、軌道を変えてまた霊夢に襲い掛かる。
霊夢は木々をすり抜けながら、銃弾を振り切ろうとするが、しつこく銃弾は追ってくる。
霊夢は走りながら、右手の人指し指と中指を揃えて伸ばし、その他の指を握る形をする。そして、揃えた指先に霊力を込めて。
「霊道ノ二・砕陣」
左手首に展開している魔方陣に触れた。すると、魔方陣は崩れ去った。
霊夢は方向を変えて、急に止まる。銃弾は霊夢を追うことなく、後ろを通過する。
「おっ?」
気付いたみたいだな、まあ霊夢にしては、遅いほうだな。
先程魔理沙が展開していた術式は、9式魔道・ホーミレット、追尾性を付加した魔術だ。その術式を仕様された対象者は、けして逃げ切ることができないという、虐めみたいな術式なのだ。
「霊夢に付けられた術式はあれだけだからなぁ。これからどうするか迷うぜ?」
魔理沙は両手を組んで、頭の後ろに回した。
「……けど、待たせてはくれないみたいだな」
魔理沙の前に表れたのは、逃げていた霊夢だった。
「さっさと勝負を決めるわよ、魔理沙」
腹を括った表情をする霊夢。
「……」
魔理沙も真剣な顔で、霊夢を見る。
「いくわよ」
霊夢のその一言を皮切りに、戦闘が始まった。
◇◇◇
「うっ……」
あれ? 私……どうなったんだっけ?
「目を覚ましましたか」
「ここは?……」
「博麗霊夢の家ですよ」
ここは博霊神社、霊夢宅、ゲームオーバーにより退場になった早苗は、紫たちがいる部屋の隣で寝ていた。
首を横に回し、紫たちの方を見る。
「私……どうなったんですか?」
妖夢さんといざ戦うという時に、急に意識が途切れてしまった。一体何が起こったんだろう。
その問に、紫が答える。
「あなたは、背後から接近していたウドンゲに気付かずに、ヘッドショットを撃たれたのよ」
ヘッドショット……たしか、どんな銃でも一発で相手を倒せるやつ。
「でも何で、私はウドンゲさんに接近を許したのでしょう?」
早苗は上体を起こして、紫に尋ねた。
「試合が始まる前から、あなたたち全員は波長を狂わされていたのよ。だからウドンゲの接近に気付かなかったの」
そうか……狂気。それで、霊力感知能力を狂わされたんだ。
「今そのウドンゲは、妖夢と結託してペアで動いてるわ。咲夜は森の端に移動中。霊夢と魔理沙は交戦中。ゲームオーバーになったのは、まだあなただけよ」
その言葉に、早苗は肩を落とす。
「そうだったんですか。残念です」
「ですが、ウドンゲの乱入がなかったら、戦いはどうなっていたかはわかりません。もしかしたら勝っていたかもしれませんよ?」
映姫が早苗に慰めをいれる。
「そうですかね? それでも、妖夢さんが勝っていたと思いますけど」
運命なんて呼び方は嫌いだけど、こればっかりは運命だと思う。今回は私に運がなかっただけだ。
「運命なんて、その時その時で変わるものだ。未来なんて、自分で切り開けるもの。卑屈になったら、そこで全ては終わりよ」
レミリアが、早苗を真っ直ぐに見て言った。
運命が見えるレミリアが言うと、説得力がありすぎる。
「そう……ですか……。いえ、そうですね」
何かが吹っ切れたように、清々しい顔をする。その顔を見て、皆一様に満足げであった。
「そういえば。ねぇ紫、霊夢と魔理沙のアレって、反則ではないの?」
幽々子が思い出したように紫に言った。幽々子の言うアレとは、恐らく霊道と術式のことだろう。
「反則じゃないわよ。あれが彼女たちの能力だもの、弾幕の行使は禁じても、能力の行使は禁じてはないでしょ。そもそも弾幕は、アレほど詰まらなくはないわよ」
そう。弾幕は、その人の個性を表すもの。それ故か、とても美しく、時に荒々しい。そんな感情とでも呼べるかのようなものが、弾幕と呼ばれるのだ。だからこそ、誰でも決まった形しか作れない術式や霊道は、弾幕と呼ぶには程遠い。
「ふ〜ん。紫がいいなら、それでいいわ」
幽々子は、紫が言ったことの意味を悟ったのだろう。お菓子を食べながら、また映像を見ている。
「んっ?」
「どうかしましたか? レミリアさん」
レミリアが、ある映像を見て少し疑問思ったみたいだったので、近くまで来ていた早苗が尋ねた。
「どうやら、面白いことが起こりそうだ」
レミリアは笑いながら、ある映像を見ていた。そんなレミリアを見て、早苗は首を傾げた。
霊夢「次回」
魔理沙「なんとあいつらが……」