天武と道化
霊夢「これは、東方projectの二次創作小説です」
咲夜「登場する人物、団体、その他名称はいっさい関係ありません」
「何で急に早苗さんが消えたのでしょうか? 必用なかったから?」
首を傾げながら、妖夢はウドンゲに聞いた。
「ゲームに邪魔だったからかな?」
ウドンゲは適当に答える。というよりも、二人して適当なことを言っている。実際はそんなではない。
「それはそうと、さっきの話は、本気なんですか?」
妖夢は真剣な表情で、ウドンゲに尋ねた。
「本気も本気、大真面目だよ」
「……まぁ、知らない仲じゃありませんし。今回は、ウドンゲさんの提案に、乗らせて頂きます」
「妖夢なら、そう言ってくれると信じていたよ」
二人は、硬い握手を交わした。
「この後は、誰を相手にしますか?」
手を離し、ウドンゲに次のターゲットの相談をする。
「そうだね……咲夜さん辺りが、一番厄介かな?」
人指し指を唇に付けて、思案する。
「となると、一番早くに潰した方がいいですね」
「だね。よし! それじゃあ行こうか」
「はい!」
二人は森の中を、咲夜さん探しに向かった。
◇◇◇
「……」
博霊神社参道端。フィールドギリギリのこの位置に、咲夜はライフル片手に陣取っていた。
「……」
小さい崖の上に腹這いになり、スコープから、森の中を見渡す。
博霊神社が建っている山は、なだらかな山道ではない。確かに参道は舗装されていて、とても歩きやすくなっているが、一度道を外れてしまうと、切り立った崖や、急な坂などが、それなりに存在する。
「……」
スナイパーの基本は、見付かることなく、存在を知られぬまま、敵を撃ち抜くこと。そう思うと、ここは以外と絶好な場所かもね。けれど。
「なかなか見付からないわね」
この場所に陣取って、早20分。一向に霊夢達を見付けることができない。
「……場所を変えてみるかな」
半ばここにいるのを諦めかけたその時。背後から、強烈な殺気を感じた。
反射的にナイフを抜き取り、後ろに投げる。それと同士に、発砲音と共にキィンという、金属を弾く音がした。
「うっそ、弾かれた。流石咲夜ね。よく気付いたわね」
「さっきまでは、まったくもって気付きませんでしたわ。霊夢」
背後から咲夜を発砲したのは霊夢だった。霊夢は、左手に持った拳銃を構えたまま、咲夜に話し掛ける。
「じゃあ何で気付いたのよ」
「感じただけで、身震いがしたわよ。あなた、殺気出しすぎですわ」
答えながら立ち上がり、意識を集中していく。
「そうかな? そこまで出してるとは、思わなかったんだけど」
「あなたがわからないだけで、かなり出してたのよ!」
言い終えると同時に、咲夜はナイフを投げる。だが霊夢は、ナイフの腹の部分を、人指し指と中指の間に挟んだ。
「咲夜だって、かなりの殺気を放っているわよ」
相変わらずね。例え天地が引っくり返っても、私は霊夢には勝てないわね。
咲夜が霊夢に勝てない要因は、多々あるが、最大の要因はこれである。
才能の差。
これだけはどうしょうもない。何せ、咲夜と霊夢では絶対値が違い過ぎる。咲夜がAランク相当の実力があっても、霊夢はSランク相当の実力がある。戦闘センスにおいて、霊夢は咲夜を完全に凌駕しているのだ。
だが、だからといって、咲夜は霊夢に勝てない訳ではない。咲夜はまさに才色兼備。全ての才能が頭一つ飛び出ている、完璧で瀟洒な存在なのだ。だからこそ、ゲームであれば勝てる。そう、ゲームであれば。
しかし残念なことに、これはゲームではあるが戦闘だ。他の才能が凌駕していようと、この才能が高くなければ、霊夢には恐らく勝てないのだ。
「世の中、以外と理不尽ですわよね。努力すれば報われるとか、頑張れば何とかなるとか、そんな夢見がちなことを言っても、結局言っているのは、才能ある人間なんですから。
元々ある才能にただ気付いただけなのに、まるでそれが努力の結果だと思う。そんなことは、けして無いのに。そうだと思い込んでいる。人間って、面白いわよね」
「……何がいいたいの?」
「いいえ、別に何でもないですわ。ただ確認しておきたかっただけ。理不尽な人生にいる人間は、結局は才能に長けていないということに」
「……私は、それはないと思うけど」
そう……けれどそれは、あなたが才能ある人間だからよ。私だってない訳じゃない、けれど、あなたは別格よ。
「……だけど私は諦めない。諦めたりしない。たとえあなたが私より強くとも、それで負けを認めることはしない。だって認めてしまえば、私は誰よりも負けてしまうのだから」
「はっきり言ってよくわからないけど、ヤル気になってくれたのなら、こちらとしては好都合よ」
霊夢は、拳銃を握り直す。咲夜は、どこからか分からないがナイフを二本取り出し、ライフルを片付ける。
「またお得意の暗器?」
「暗器と呼べるかはわからないけれど、あなたがそう言うなら、別に暗器でもいいわ」
咲夜がなぜ、これが暗器呼べないかと言うと。別に咲夜は武器を隠している訳ではないのだ。咲夜自身が所有する世界に、武器を格納しているだけなのである。
時間を操るということは、空間も操るということに直結する。だが、だからといって、本当に空間を操っている訳ではない。咲夜は止まる世界という、時間と時間の間の世界を操っているに過ぎない。その世界はまさに異次元で、人間がけして辿り着けない境地である。その世界を支配下に置くことで、瞬間的に物を出し入れしているのだ。
「……それよりも霊夢。魔理沙には会ったかしら?」
霊夢は懸念そうな表情をするが、一様答える。
「別に会ってないけど。何かあるの?」
それを聞いて、咲夜はニヤリと笑った。
「いいえ、別に何でもないわ。たいしたことじゃないの、ただ私と魔理沙が、あなたを倒すために組んでいるというだけのことよ」
「なっ!?」
衝撃の発言に、霊夢は驚愕した。
「そうでしょう……魔理沙」
咲夜が言いながら霊夢の後ろを見る。それに釣られ、霊夢も後ろを見る。するとそこには。
魔理沙の姿どころか、誰もいなかった。あるのは木々だけ、人の気配すらない。
その瞬間、霊夢はしゃがんだ。すると、先程まで頭があった場所を、轟音と共に弾が通り過ぎていった。
「今のを避けるなんて……あなた、後ろに目でも付いてるの?」
「そんなことないわよ。後ろに目が付いている人間なんて、人間じゃないからね」
冷や汗を垂らして、咲夜の方に向き直る。咲夜は、先程仕舞ったはずのライフルを持っていた。
「相変わらず、嘘が上手いわね」
「そうかしら? 普通に話てるだけだけど」
「つまり咲夜は普段から嘘つきだと」
「否定しないわ」
そう言いながら、ボルトハンドを引き、薬莢を出す。そして次弾を装填して、構え直す。
「しないんだ」
さ〜てどうしようかな。ここからライフルの弾を避けるなんて芸当、普通はできない。となると、先手をとるしかないか。
霊夢は持っていた、もとい受け止めていたナイフを握り。しゃがんだ状態で、戦闘態勢に入った。だが咲夜は、霊夢が動いた拍子に弾を打ち出す。また轟音が響き、一直線に霊夢の心臓を狙う。
だがそれは霊夢には当たらなかった。後方の木が抉れ、土が舞い上がった。
……可笑しい。この位地なら確実に当たる。なのに何で、霊夢は倒れないの。HPを全て削りきれなくても、銃弾が当たった衝撃で、吹っ飛んでも可笑しくないはずなのに。
驚愕している咲夜は、ここであることに気付く。
あれ? 霊夢はさっき、あんな構えをしてたかしら。まるで、何かを切った後みたいな……切った!?
「あぶな〜、なんとか切れたわ」
霊夢はそんなことを言って、刃の折れたナイフを、まじまじと見る。
「嘘でしょ……」
切った……この距離で……ライフルの銃弾を。
「危なかったわ。ナイフを持ってなかったら、やられてたわね」
折れたナイフを捨てて、霊夢は立ち上がる。
「あなた、弾が見えてたの?」
「まさか、そんな訳ないじゃない。私に見えていたのは、アンタの視線よ」
「視線?」
「そうよ。アンタ、無意識に視線で狙う場所決めてるみたいだっから。といっても、そうである確証はなかったけど。あとは勘かな?」
勘で切れるものでもないわよ。普通はヘッドショットが来ると思うから、頭を守りそうだけど、私が狙ったのは胸、いわゆる心臓だ。それをスコープごしの視線でわかったというの!?
まったくもって規格外ね。いったい霊夢は、どれだけの力を秘めているの!?
「さてと。一発貰ったことだし、お返ししないとね」
霊夢は右側のホルスターからコルグレイスを取り出し、咲夜に銃口を向ける。
まずい!!
咲夜はライフルを片付けて、ナイフを二本取り出す。
霊夢はトリガーを引く。反動により、霊夢は尻餅をついた。咲夜は、なんとか銃弾の軌道にナイフを持っていくことに成功し、迎撃することができた。しかし、その威力故に、ナイフは二本とも折れ。咲夜は後ろの崖に落ちた。
「……えっ?」
余りの衝撃に、霊夢は呆けた。そしてまじまじと自分の銃を見た。
「何なの……この銃」
◇◇◇
「八雲紫、あの銃は何だ? ハンドガンにしては、威力がありすぎると思うんだが」
レミリアが、霊夢の拳銃について、紫に尋ねた。
今紫たちは、霊夢と咲夜のバトルを見ていて、引き際となった霊夢の銃があまりにも強力すぎたので、聞かずにはいられなかったのだ。
「あの銃は、上手く霊力を籠めれば、ライフル銃やショットガンすらも凌駕する、特別仕様の銃なの」
「特別仕様か……それにしたって、威力がありすぎだと思うが」
「私もあそこまで威力が上がるとは思ってなかったわ。それにあの銃は、扱いがとても難しいの。普通に霊力を籠めたって、ハンドガン程度の威力しか見越せないのよ。
精密に、かつ速く霊力を込めれる奴なんて、そうそういるものでもないから」
「じゃあ、あそこまで威力を高められたってことは、霊夢は銃を扱えたってことなの?」
今まで話を聞いていた幽々子が、話に割り込んできた。
「正確には、そうではないと思います。見ていたところ、巫女もまだ、ちゃんとは扱えてない。反動が大きいのが、その証拠です」
映姫も話に入ってくる。
「四季様のいう通りね。あの子はまだ、銃を扱いきれていない。けれどもし、それができたなら……」
紫達は、映像に映る霊夢を、固唾を飲んだ。
霊夢「次回はなんだ!?」
咲夜「なんでしょう?」