奇跡と結託
霊夢「これは、東方projectの二次創作小説です」
魔理沙「登場する人物、団体、その他名称はいっさい関係ありません」
「始まった訳だけど、誰が勝つかしらね」
紫は、和室で自分と一緒に寛いでいる、レミリアと幽々子を見て、挑発的に言った。
「私は、霊夢が勝つと思うのだけど」
レミリアと幽々子は、紫が言いたいことがわかっている。これは賭けだ。映姫がいるから、大々的に言えないだけで、実は元より、紫はこっちの方が本筋であった。
同じく一緒に寛いでいる映姫は、会話の空気に付いて行けず、?マークを浮かべている。
「私も霊夢と言いたい所だが、ここは咲夜と言っておこうかな」
レミリアも紫の賭けに乗り、誰が勝つか答える。
「私は妖夢に勝って欲しいわ」
幽々子も同様に答える。
「そう。なら、ゲームの行く末を見ましょうか」
そう言って紫は、幾つかスキマを開き、そこに映像を映した。
「誰が勝つのか、楽しみね」
◇◇◇
これだけ広い森だ、見付けるのは容易でない。常に索敵を繰り返しながら、少しづつ移動しよう。
妖夢は考えていた。それはもう、何通りの作戦を。霊夢と会ったらこうする、魔理沙と会ったらこうやる。そういう作戦を組み立てながら、勝つ方程式を見付ける。けれど、それだけでは安心できない。現実はそう上手くはいかないものだ、イレギュラーなんて幾つでも起こる。だからこそ、より臆病になり、より恐れなければならない。そうすれば、最適を選ぶことができるから。妖夢はいつもそうやって、戦いに挑んでいる。
「久しぶりだな。こういう、お腹が浮くような、そんな緊張感」
最近は、弾幕による戦いもしていなかったな。毎日同じ日々を繰り返すだけ。それが嫌な訳ではないが、何か物足りないと感じるのは確かだ。鍛練はしていても、それだけじゃ、戦いでの感覚はわからない。私は、久しぶりに感じてみたいんだ。
「刹那の脅威という奴を」
その脅威を乗り越えてこそ、私はまた一歩、強くなれるのだから。
そんなことを考えていると、急に世界が反転した。
「なっ!」
足が上に引っ張られ、体が中に浮く。自分の足を見ると、ロープが足を縛っていた。
「くっ!」
しまった! 罠だ!
妖夢は瞬時に小太刀を抜刀し、ロープを切断する。体が自由になり、空中で体勢を整えて、地面に着地。
すると今度は、右側の茂みから木の矢が飛んできた。
「ちっ!」
妖夢はそれを、前進することで躱す。
すると時間差で、木の矢が前から的確に妖夢の頭を狙った。
妖夢は緊急停止し、上体を後ろに反らすことで躱す。その瞬間、しまった! と思った。
これこそが、罠の本命、作戦だったのだ。急に止まるということは、体が一瞬強張るということ。つまり、スタートダッシュが遅れるということ。
まずい。まずいまずいまずいまずい! こんな状態でヘッドショットなんかされたら。
視界の端で、キラリと光る黒い物体を目に見た。
銃だ!
その銃の軌道は、妖夢の頭を定めている。
このままじゃ! やられる!
銃弾が放たれ、真っ直ぐに妖夢の頭に向かっている。一秒にも満たないその時間は、妖夢にとっては十倍の時間に感じたはずだ。このままではやられる。だが、感じられる殺意に似た脅威は。今の妖夢を、燃え上がらせる結果となった。
このまま……倒れるか!
上体を無理矢理、そのまま後ろに倒し、銃弾を躱す。
「なっ!?」
撃った本人から、驚愕の声が漏れる。
妖夢はそのまま、ブリッジをする様に地面に両手を着き、バグ転をする。そこから後ろに飛び退き、敵との距離をとる。
「何者ですか!?」
茂みを凝視しながら、小太刀をしっかりと持ち直す。
「奇跡的に、全てのトラップには(・・・・・・・・・)引っ掛かってくれましたけど、やっぱり、これ以上の奇跡は起こるものじゃありませんね」
茂みから姿を表したのは、東風谷早苗だった。右手には猟銃を、左手には特殊警棒を持っている。
手先を軽く振って、銃の装填口をだす、銃身が30度くらい曲がる。
「私としては、さっきの一撃で倒せると思っていたんですけど、上手くいきません」
装填口から空の弾を取り出し、新たに弾を装填し、銃身を元に戻す。戻す時に、ガシャンという音がした。
「ですけど。これで終わりではありませんよ」
「何を言って……」
あり得ない、ハッタリに決まっている。罠は全て回避した。たった開始十分とちょっとで、罠を三つ以上作ることはできない。それに、今自分で全てのトラップと言った。もう罠はない。
「忘れているみたいですけど、私は奇跡を操れるんですよ」
その一言で、妖夢は思い知らされた。
ハッタリじゃない!
「そう。奇跡的に三つ以上トラップが作れた。そういう奇跡だって、あるんじゃないんですか?」
妖夢は恐れ、一歩後退る。すると、長めの丸太に括り付けた木の杭が、バネがしなるように、妖夢を襲った。杭の先端が、腹を直撃する。ドスッという鈍い音がし、妖夢はそのまま、後ろに吹っ飛んだ。
妖夢の頭の上に、HPが出現し、それが二目盛り分消失する。
HPは十輪の花の形をしていて、最初は青色をしている。ダメージを受けHPが削れると、削れた部分は緑色になり、全部が緑色になったところで、10ポイント消費となる。それを後三回繰り返すと、始めて戦闘不能となる。
色としては、40〜30が青色、30〜20が緑色、20〜10が黄色、10〜1が赤色、0は黒といった色分けをおこなっている。
地面に背中を擦り、転がり、俯せに止まる。そこからピクリとも動かない。
「時間差トラップ。かかったことにも気付かなかったんですね。
痛いでしょうね。死なないとはいえ、衝撃はそのまま伝わりますから。データ的には二目盛りですんでいますが、リアルでは気絶しても、可笑しくないですからね」
地面に横たわる妖夢の頭に、銃口を向ける。
「0距離のこの位置で、外すなんてことはまずありませんね」
銃口を妖夢の頭に押し付けて、トリガーに手を掛ける。
「それじゃあ……お疲れ様です」
笑顔を向け、トリガーを引く。その瞬間、妖夢体を反転させて銃撃を躱すと同時に、右手に握っていた小太刀を振り上げる。それが早苗のヘルメットを飛ばす。
地面に左手を着き、跳び跳ねるように起き上がる。そこからベストの中の銃、センチメーターマルズを抜き出す。
早苗に銃口を向けると同時に、トリガーを引く。既にセーフティは外してあり、コックも引いているため、直ぐに撃てたのだ。
三回ほど発砲音がした後、早苗のHPを見ると、二つほど削れていた。
「やってくれますね」
「あなたとやり合うなら、これくらいの手はうちますよ」
と言っても、ここからは作戦もなしの、ガチンコで行きますけどね。
正直いって、今早苗とやっても勝てるか分からない。互いに二つ分HPを消費しているが、だからといって、それで互角という訳じゃない。
妖夢の銃に比べて、早苗の銃は威力が高い。一発貰ってしまえば、HPは大きく消費するはずだ。それに比べ妖夢の銃は、一発々々の威力が弱いため、何発も連発しなければならない。
その分が、かなりのハンデとなるだろう。
しかし、だからといって、妖夢はまったく不利だとは思わない。こんな状況だからこそ、こんな不利だからこそ、魂魄妖夢という存在は輝くのだ。
逆境であればあるほど、妖夢は燃え上がるのだから。こんな状況こそが、自分には相応しいと、本気でそう思っている。その心意気こそが、妖夢を輝かせる要因なのだろう。
「それじゃあ、決着を付けましょうか」
「こうなってしまった以上、仕方ないですね」
二人が構えに入った。いかなる攻撃を避けられるよう、防げるよう、神経を集中していく。
そして、いざやり合おうとした時。
銃声と共に、早苗が前のめりに倒れた。頭の上に浮かぶHPが、一瞬で黒くなった。ポイント0、ゲームオーバーだ。恐らく、ヘッドショットによるものだ。
一瞬の出来事に困惑したが、直ぐに頭を切り変えて、木の影に隠れる。早苗がやられたということは、自分も狙われるということだ。しかし。
誰だ? このタイミングで発砲するなんて、普通あり得ない。咲夜さん? いやでも、咲夜さんがそんな凡ミスをする訳がない。じゃあ誰が? 姿も見えず、気配もない、スナイパーライフル以外で、それだけの遠距離から攻撃できる銃って。
誰かの足音が近付いて来る。その足音は、妖夢にとって恐怖以外の何物でもなかった。
誰だ!? 一体誰が早苗さんを!?
足音が隠れている場所に近付いて来る。その足音が大きくなるに連れて、妖夢は呼吸を整える。
そして、木の影から身を乗り出すと同時に、銃を構える。相手も同様に、妖夢が姿を表すと同時に、銃を構える。
互いの銃口が、己の頭に突きつけられる。
「まさか……あなただとは思いませんでしたよ」
妖夢の目の前にいる女性は、ニヤリと、口元を綻ばせる。
「逆にわからなかったの、私だって」
「あなたがそんな下種な人だなんて、思いもよりませんからね……ウドンゲさん!!」
早苗を撃った本人は、なんとウドンゲだった。
「私達の波長を狂わしましたね。だからあなたの存在に気づかなかった」
「まったくもってその通りだよ。狂気を操るということは、相手を狂わせるということ。何も狂わせるものが、理性だけとは限らないからね」
「その力を使い、私達の気配読みを狂わし、近付いて早苗さんを撃った」
「それだけじゃないよ。私の気配も狂わして、雲散霧消させた」
「なるほど、よりわかり難くしたということですか。ですが解せませんね。あなたの力は、基本的に目を合わせることで、相手を狂わせることが出来る……それなのに何で私達は狂わされたのでしょう」
「……」
「単刀直入に言います。あなたは何をしたんですか(・・・・・・・・)?」
ウドンゲは一瞬、目を細めて、口元を軽く綻ばせて、妖夢を少し見下した。が、直ぐに元の顔に戻った。
「……何も難しいことはしてないよ。最初っから、狂わしてただけだから」
「!?」
最初から? つまり、ゲームが始まる前から仕掛けていた? けれど可笑しい。私は回りに気を張っていた、僅かな気配も感じ取っていたはず。
「感じ取っていたと思っていたものは、果たしてそうなのだろうか」
「!?」
妖夢の考えていることを読み取ったのか。だがそれにしても、ウドンゲは妖夢の心を、しっかりと見据えているようだ。
「そんなことはない! 私が感じていたのは、確かに生き物の気配だった!」
「それが私による、力の作用だとしたら?」
「それは……」
そう言われてしまうと、何も言い返せない。私はそれを確かめる術を、まるで持っていないから。
「別にこんなことを言って、精神的に優位に立とうという訳ではないんだよ。私は妖夢に話がしたかっただけなんだから」
そう言って、ウドンゲは銃を下ろす。
「話……ですか?」
妖夢は疑心暗鬼だが、精神的に参っている今の妖夢にとって、戦いを避けられるなら、それに越したことはない。
「そう……話だよ」
「その話って、何ですか?」
ウドンゲはニヤッと笑い。それの内容を話た。
◇◇◇
「驚いたわね。開始15分そこらで、脱落者が現れるなんて」
紫は目を細めて、スキマから映し出された映像を見る。
「まさかウドンゲが、始まる前から策を打っていたなんて」
「流石は、蓬莱人のとこの従者だな」
「そうね、あそこのお医者さんは、何重にも手を打ってきそうだもんね。そこの弟子ともなると、これくらいは普通なのかも」
紫に続き、レミリアと幽々子が、ウドンゲを評価する。
「能力の使い方が、いかにも悪質ですね。この様子だと、他の皆さんも、同じく狂わされているかもしれません」
「四季様の仰る通りだと思いますわ。そうなると、ウドンゲが一歩リードという訳かしら」
「それはないぞ、八雲紫」
「……それはなぜかしら? レミリア・スカーレット」
紫は険悪な表情で、レミリアに尋ねる。レミリアは勝ち誇ったように、言いはなった。
「なぜなら、そんなもの意に介さないくらい、後の三人は強い」
「…………」
レミリアの発言に、紫だけではなく、後の二人も押し黙った。
それもその筈。この三人は、霊夢、魔理沙、咲夜の強さを、嫌というほど知っている。咲夜は春雪異変や月欠け異変など、色々な場面でその才覚を発揮した。魔理沙にいたっては、霊夢と共に、常に最前線で戦っている。そして霊夢は、全ての異変を、解決してきた張本人だ。実力は折紙付、トップランカーの妖怪達とも、対等に渡り合える実力を持っている。
「だから言うよ。その程度で、あいつらを倒せる訳がないと」
レミリアの言葉は、重みを持っていた。それに皆も納得する。
「そうね……確かにその通りね、あなたのいう通りだわ。だからこそ、あの二人がどう勝ちにいくのかが、とても楽しみね」
紫が、まだ映像の中で話合っている二人を見る。
「果たして、これからどうなるのやら」
「紫。取り敢えず、早苗は回収したら」
幽々子がお菓子を食べながら、紫に言った。
「そうね、そうしましょうか」
紫が指パッチンをすると、映像の中の早苗がスキマに飲まれ、紫の後ろにスキマが現れたと思ったら、早苗が落ちて来た。
「フフッ。妖夢たら慌ててるわ」
「まぁ。急に消えたら驚くだろう」
幽々子は笑い、レミリアは腕を組み納得する。
「まぁいいじゃない。早く続きを見ましょ」
紫が促し、また映像に注目する。
霊夢「次回はあたしか……」
魔理沙「こうご期待!」