#0 始まりの卒業式
閲覧ありがとうございます。
今話は一話でありながら少々長めの説明回となっております。
お付き合いいただければと思います。
「うわぁぁぁぁ・・・・」
今も、鮮明に覚えている。
そこかしこで聞こえる、知り合いだったかもしれない誰かの悲鳴。
むせ返るような血の臭い。
不気味に煌めく緋と、登っていく数多の黒煙。
崩れてくる、建物。
そこは、ごく普通の小さな町だった。
町自体に目立った取り柄は無かったけれど、慎ましく、けれど強かに生きている、そんな場所。
ある人は商人となって人々の生活を支えたり、観光スポットの中継地として往来する人々と取引をしていた。
ある人は恵まれた大地を切り拓き、町を大きくし、農耕地を作っていた。
まさに、「どこにでもある」そんな言葉が似合うような町だった。
そんな何の変哲も無かった町が、僅か半刻ほどで壊滅した。
当たり前で、どこにでもある。
そんな普通は、あまりも突然に跡形もなく消えてしまった。
資料を調べたところ、原因はモンスターの暴走によるものと記されていた。
その記録によると、その町に居たのは最低で1400名あまり。
そのうち生存者は僅か20名にも満たなかったようだ。
現在、生存者の行方を調べても、ほとんどの人の行方が分からなくなっている。
一番新しい記録で、行方の分かる人数は片手ほど。
こちらの理由については明記されていない。
ともかく。
地図から一つ町が消えた、あの惨劇の日。
僕と妹は、ある組織に助けられて生き延びた。
その組織の名は、モンスター系総合依頼受付案内相談委員会。
読みを「バスターズ」と言う。
さて、長々と過去を振り返ってみたけど、現状は一向に変わらない。
仮想で誰かに話してないと今にも逃げ出しそうだから話させてほしい。
始めまして誰かさん。
僕はパトゥソン・スモレア・パーサンション。よければ、トゥレアと呼んでくれ。
誰にでもわかるように状況を説明しよう。ぶっちゃけるなら現状の再確認だ。
僕は今「モンスター学舎」なる所で卒業式を迎えている。
現在発表されている順位は45位。
今年の卒業生は60人。順位は下から呼ばれるのだが自分はまだ呼ばれていない。
あぁ、そうだな。大丈夫。まだ慌てるところじゃない。
モンスター学舎とはなんだって?
ここは・・・・先に名を上げた「モンスター系総合依頼受付案内相談委員」になるための学校だ。
「モンスター系総合依頼受付案内相談委員」って長いな。
これ以降はバスターズとしよう。
うん。そもそも、バスターズとは何か?
分かりやすく、かつ端的に言うなら「モンスターに関する何でも屋」だろうか。
具体的な目的は、モンスターの研究、貴重な種の保全、害モンスターの討伐、モンスターの素材を回収するなどが挙げられる。
バスターズが作られた理由は、「自分の身を守りながらモンスターの調査を行えるプロフェッショナルが居ないなら作ろう!(簡略)」。
そんな御託はいい?まあまあ、そう言わずに。
付き合ってください。本当に。
もっと面白いはなしがいい?
そんなこと言われてもな・・・・うーん。
面白くはないけれど、僕がなぜバスターズになろうと思ったのか話そうか。
・・・・話さなくても分かる?
あぁ、よく言われるけど少し違うんだ。
確かに僕はバスターズの人に助けられたけど、その人に憧れたからなりたいって思ったわけじゃないんだ。
いや、確かに憧れたりする部分もあるけど・・・・んー、そうだな。
さっき、僕と妹が助けられたって言ったんだけど。
覚えていなくてもいい。ともかく僕には妹がいるんだ。
その妹は助けられてから現在までの間、意識不明で入院してるんだ。
もちろん、助けられた当初に回復魔法をかけられているし、検査してみても異常はない。
けれど、妹は目覚めない。
お医者様が言うには、精神的なショックだろうと言うことだ。
いきなり重いとかは無しだ。
だって、これはどうしようもないただの事実なんだ。
妹がそんな状態なのにドライ?
そんなことはない。
僕にだってかなりのショックがあった。
しばらくは無力感と虚無感に苛まれていたし、妹が目を覚まさない状態はしんどい。
僕にとって、妹はきっと唯一の肉親だから。
暖かい日常の、その唯一の名残だから。
・・・・入院費はどうしていたのか?
えっと、入院費は自分が稼ぐまで払ってくれている。
つまりは、出世払いなのだが、「お前、出世できんの?」とか、思っても言わないでくれ。
軽く傷つくから・・・・てか、そもそも出世とかそんなないし・・・・がんばって稼ぐし。。そのためにバスターズになるんだし・・・・
あー、そこはいいんだ。
僕は妹が目覚めない状況で、何をするでもなくただボーっとしてすごしていた。
それを見かねた周りの人が僕を学舎へと入学させたんだ。
最初はどうして妹から引き剥がそうとするんだろうとか考えたなぁ。
今は、僕が潰れてしまわないように別に集中できることを与えてくれたんだと思っている。
実際、妹が起きないのは僕じゃどうしようもない。起きた時に不自由がないようにしようとか、そんな風に考えられるようになった。
あとは、もし何かあっても今度は僕が守ってやれるようにしよう、とか。
学舎に入学する時、副ギルマスが僕に与えた課題は「卒業時に3つの称号を得ること」。
これに関しては控えめに言っても頭がおかしい命令だった。
普通、あるいは大多数の入学者は3~5年で1つの称号を獲得して卒業していくものなんだ。
それを時間はほかの人たちと同じでより多く取れって言ったんだあの悪魔。
そのおかげで学業に集中できたとはいえ、テストとか地獄でしかなかった。
それよりも称号について教えろ?
少しくらいこっちに付き合ってくれても・・・・いや、十分付き合ってくれてるよな。
分かった。
称号っていうのは、その人が何ができるのかをあらわしたものだ。
騎士・魔道師・銃火師という三大称号に始まる攻撃称号、僧侶や巫女、傷癒者といったような回復系称号などがある。
また、どれにでも属すしどれにも属さないと言った具合の人や固有称号を持つ人の入る特殊称号とかもあったりする。
さらに騎士であればモンスターを使役して戦う獣騎士や異界からいろいろ召喚して戦う召喚士と言う風にそれに類した称号がある。
僕に一番適性があったのは召喚士。次は獣騎士だった。
副ギルマスの課題をこなすため、そこに傷癒者を入れた三つの称号を取った。
取れてるかどうかはこの卒業式で分かるからまだなんともいえないんだけどな!!!!!!
さてその肝心な卒業式はというと、20位まで発表された。
僕の名前はまだ呼ばれていない。
呼ばれる気配もないのだが、これはどういうことなのだろう。
僕の予想ではこのあたりで呼ばれていたはずなんだ。
ギルマスたちもそのくらいにいればいいんじゃねって!
言ってたんだ!!!
こうなったら現実逃避だ。
僕たちを助けてくれたギルドの人たちのことを話そう。
名前は《一角獣の瞳》。
帝国のなかでも東に位置するレノビア区、そのほぼ最東端に位置する《アクアリウラ》と言う町に本拠地を置くギルドだ。
所属人数は・・・・30人いないくらいだったかな。小規模ギルドに分類される。
さらに作られて数年の出来立てほやほや弱小ギルド
取り扱う依頼のジャンルは生態調査以外のほぼすべて。
活動範囲は帝国全土と人数のわりに手広く行っている、変なギルドだ。
ギルマスは「少数精鋭ってやつだ」って言ってたけど、ギルドで見る人たちはグーたらしていたり昼間から酒を飲んだり、人を女装させようとしたりと、ろくなやつがいなかった記憶がある。
ともかく、そんな変態や変人7割くらいのギルドが僕を助けてくれた人が所属する場所だ。
直接の恩人は変人達のトップである変態、ギルドマスターその人だ。
名前をユーディア・ユーリスティア・ユーリファ。
顔だけみるなら文句のつけようのないイケメンと言うやつだ。
後身長が高い。滅べばいい。
ん?今度はギルドについて教えろ?
ギルドは――バスターズ外から見ると地方支部で、詳しく見ると得意な能力によって集まってできた集団だったり、思想が同じような人たちの集まりといったところだろうか?
お店で言うなら「○○支店」というのと「○○部門」とか「○○課」を組み合わせた感じだったりするもの、で伝わるかな。
例えば《一角獣の瞳》だったら、レノビア区アクアリウラ支部で、んん・・・・総務課?みたいな。
このギルドだとあんまり参考にならないかもしれない。
なんせ変なギルドだから・・・・。
それは置いといてだな。
順位発表がとうとう10位を切ったんだ。
なのに自分の名前は呼ばれてないんだ。
まさか落第・・・・?いやいや、そんなまさか。
ちゃんと俺なりに頑張ってた。テストだってそんなに悪くなかった。
これはあの、ほら、きっと思ったよりいい感じにさ、そう。
あの・・・・成績が良かったんだよ、うん。
そう思ってないと心が死んでしまう。
C階級の平均的だって言われてた人たちも、自分と同じランクの同じレベル帯だって言われてた人も皆名前呼ばれてるんだ。
それに友人たちがちらちらこっち見てきているこの!!!!
何だお前たち追い討ちか!?
呼ばれない理由なら俺だって知りたいよ!!!!
今すぐこの場から逃げ出したい・・・・
なんて言い訳をしよう。と言うか、もう、とんずらしちゃおうかな・・・・
いやいや、許されるわけが無いし、そもそもここでバスターズになれなかったら人生詰みもいいとこだ。
あぁ・・・・今まで一度も信じちゃこなかったけど・・・・神が居るならどうか・・・・!
お願いだ!もうこの後ずっと不幸でもいい!だから・・・・!
「5位 パトゥソン・スモレア・パーサンション」
「ぅえっ、あ、はっはいいぃ!」
・・・・願ったにしても叶えるの早すぎか!?!?
声裏返ったよちくしょう!!!!
友人たちだけでなく、他の人たちにもくすくすと笑われてしまった。
よくよく見たら先生たちもじゃん・・・・恥ずかしい・・・・
穴があったら埋まりたい。むしろ穴を掘って埋まりたい。
いや考えるのはやめよう、それだけは得意だろ自分。
何も考えなくていい。ただ無心で卒業証書を受け取りに行けばいい。
無我の境地だ。
彼我の境界線を薄くして、溶けるんだ。
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「やったなトゥレア!!!!」
ばしりと音を立てて肩を襲った衝撃ではっとする。
「ん、え?」
「どうしたー? そんなに嬉しかったのかー?? お前がそんな上位だと思わなかったぜー? この~」
「じょう、い」
「・・・・おう、大丈夫か? 卒業式つーか、もう《称号授与式》まで終わってっけど」
《称号授与式》――卒業式の後に行われる式、これが終わった時にもらえる称号ケースで自分の称号を確認できる、と言うことは
あわてて自分の手元を確認する。
そこにはいつもらったのか記憶にない手のひら大の手帳がある。
開く。
左側には自分の写真や名前が載っているが今そっちに用はない。
右側を見る。
所有称号
第一称号:召喚士/_
第二称号:獣騎士/B
第三称号:傷癒者/B
や り き っ た
自分はやりきった! これで諸手を振ってギルドに帰れる!!!
「お、おい、本当に大丈夫か? さっきから緩急激しすぎるぞ?? なぁ~~聞いてるのか~?」
いや~人って、無心になろうとすればできるもんなんだぁ。
知って徳があるのか分からないけどやったー。
これで現実から逃げ・・・・逃げられるわけないんだよなぁ。
「あ、そうだ。覚えてないんだけど3位までって誰だった?」
「・・・・急に戻るよなぁお前。まぁ、寛大な俺は許してやらなくもない」
「?」
急に戻る?何のことだろうか
「いや、いいんだ。順位だったよな? 上から順にレンカ・アメミゾノ、ジェルド、ミャルカーダ家のお嬢だ」
「やっぱりS階級で独占かー」
「そこは次元が違うからなぁ。てかそれを言うならお前だってA階級のやつらの大半を押しのけての5位なわけだし? ユウィンナのやつ顔真っ赤にしてお前の子と睨んでたぜー?」
「ユウィンナ? えっと・・・あぁ召喚士のAの人だっけ?」
「おう・・・・。そうだな、卒業時に五本指に入るだろうって言われてたユウィンナさんな」
「なんでそんな人ににらm・・・・まさか」
無言で頷く友人。へんなところで恨まれないといいんだけど。
いやそもそも順位つけたのは俺じゃないから先生に文句つけてくれ。
「ま、気にすんなよ。無事に卒業できたんだ、ぱーっと祝おうぜ! ほかのやつらはもう召喚士寮にいってっし、おれらも帰るぞーー」
友人に背中を押され、慣れ親しんだ教室を後にする。
ここにいた人たち全員と再会することも、これが最後なのかと思うとなんだか無性に寂しくなるような気がした。