第三話:遠い日の味と、滲む青
Forest News:フォレストインクオンライン運営通信
vol. 03
[Tips:ジャンク品の有効活用]
インベントリがいっぱいになっていませんか?
不要な装備品は「分解」することで、新しい装備を作るための基礎素材になります。効率的な整理が冒険の鍵です。
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第三話:遠い日の味と、滲む青
森の光が少しだけ深くなり、空気がしっとりと肌に吸い付くような時間になった。
実体を得た身体は、心地よい重みと共に、ささやかな「空腹」を私に告げた。それは、あの家の食卓で感じていたいつもの空腹感とは違う、もっと素直で、生きていることを確かめるような感覚だった。
小鹿は私を軽く見た後、一際鮮やかに光る茂みの前で足を止めた。そこには、真珠やムーンストーンを思わせる、半透明で淡く発光する実がいくつもなっていた。
「……これ、食べていいの?」
鹿が優しく瞬きをする。
私は一粒、指先で摘んで口に運んだ。
ひんやりとした果実が舌の上で解けた瞬間、胸の奥に温かな波が押し寄せた。
それは、遠い昔に食べたお祝いのゼリーのような。あるいは、雨上がりの午後にこっそり舐めた、甘いシロップのような。
ずっと前に忘れてしまっていたはずの、懐かしい記憶の味がした。
噛みしめるたびに、心がじわりと潤っていく。
隣で静かに私を見守る鹿の体温を感じながら、私はただ、その身を委ねた。
ふと、実を摘んだ指先に違和感を覚えた。
視線を落とすと、私の白い指先から、あの本に描かれていたのと同じ、深い夜の青色をした「インク」が、さらさらと滲み出していた。
インクは指を伝い、触れていた木の葉の脈に沿って、ゆっくりと広がっていく。
青い筋は生き物のように葉の上を踊り、やがて繊細なレースのような模様を描き出した。
私が手を離すと、その場所だけが本の中の挿絵のように、鮮やかで幻想的な光沢を放ち始める。
「わぁ……」
思わず、小さな吐息が漏れた。
それが何なのか、なぜ自分の指から溢れてくるのか、今はまだ分からない。
けれど、自分の描く青が森の緑と混ざり合い、水彩画が滲んでいくように世界を染めていく様子は、ため息が出るほどに綺麗だった。
私はもう一度、今度はそっと隣の岩に触れてみる。
指先が触れた場所から、また新しい青が生まれる。
夜の海のような、深い森の影のような、私の大好きな色。
私は、自分の手から生まれるその美しい輝きを、いつまでも眺めていた。
この静かな森で、自分だけのインクが世界を彩っていく。
そのことが、ただ、たまらなく幸せだった。




