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Forest Ink Online —青いインクと白い鹿—  作者: kei


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第二話:選ばれる森

Forest News:フォレストインクオンライン運営通信

vol. 02

[期間限定イベント:奪還!セクター2の秘宝]

現在、中層エリアにて「盗賊団の掃討クエスト」が発生中です。

限定ドロップの「金の砂時計」を集めて、レアな称号を手に入れてください。



第二話:選ばれる森


 深い息を吐き出すと、その白い呼気さえも青い光に溶けていくようだった。

 私は自分の手を見る。

 驚くほどに白く、透き通っていた。指の隙間から、足元の淡く光る草が見える。まるで水彩画を薄く引き延ばしたような、心許ない輪郭。

 私は今、この世界に「確定」していないのだと、直感で理解した。


 一歩、足を踏み出してみる。

 身体は羽のように軽く、重力さえもこの森のルールに従っている。

「あっちに行ってみたい」

 そう願うだけで、目の前の景色が、まるで水面に投げた石の波紋のように、ゆらりと揺らぎ、形を変えた。

 私の内側にある「懐かしさ」が、木々の配置や、地面を這うシダの形を、一瞬ごとに作り替えていく。


 森の奥へ進むと、同じように半透明な影がいくつも揺れていた。

 他の「誰か」なのだろう。けれど、彼らの声は届かない。音のない、色彩の層が重なり合うだけの、静かな混雑。


やがて、森の空気が一際、明るさを増した。

 意識をその光に向けると、木立の間から「彼ら」が姿を現す。

 それは、この森が提示する、最初の「選択肢」だった。

 まず目に入ったのは、古びた大樹の根元に座る、巨大な熊だった。

 その背は苔むし、まるで岩そのものが呼吸しているような威圧感がある。

「強さ」の象徴。守護者としての安らぎ。

 熊が動くたび、森の地面が微かに震えた。


 次に、霧の向こうから、一頭の狼が現れた。

 灰色の毛並みは夜の静寂を写し取り、その瞳は冷徹な知性を宿している。

 続いて、その背後から、さらに美しい白狼が滑り出すように現れた。

 月の光を固めたような純白の毛。群れを率いる誇り高さ。

 彼らは風の匂いを嗅ぎ、静かに、けれど確実に世界を支配していた。


 足元では、無数のねずみたちが、きらきらと光る木の実を運んでいた。

 一匹は小さくても、その結束と素早さは、この森を生き抜くための確かな「武器」だ。




そして、それらの動物たちの奥から、一際強い光を放ちながら、金色の毛並みを持つウサギが跳ねてきた。

 光の粉を撒き散らし、周囲の景色さえも黄金色に染め上げる、圧倒的な主役の輝き。

 半透明な人影たちが、それぞれの動物のもとへ、吸い寄せられるように集まっていく。


 ある者は熊の強さを、ある者は狼の知性を、そして多くが、ウサギの放つ眩い光を求めて。

 光が集まり、太い柱のようになって天へ昇る。

 それは、誰もが認める「正解」の選択だった。


 私は、それらを順番に、静かに見つめる。

 熊の威厳も、狼の美しさも、ねずみたちの健気さも、ウサギの輝きも。

 どれも素晴らしかった。けれど、私の心は、そのどれにも動かなかった。


「……ちがう」

 私の求めているものは、あんなに眩しくはない。もっと、静かで、ずっと前から知っている、雨上がりの匂いのような……。

 視線をふっと、群衆から外した。

 光の届かない、深い影の落ちる茂みの奥。

 そこに、小さな鹿がいた。

 目立たず、ひっそりと。


 けれど、私が意識を向けた瞬間に、その輪郭がふわりと浮かび上がった。

 白く、柔らかな毛。どこか、子供の頃に大切にしていた古いおもちゃのような、あるいは夢の中で何度も通り過ぎた風景のような。




胸の奥が、温かな水に満たされていく感覚。

 UIも、言葉による説明も、ここには存在しない。

 ただ、私はその鹿から目を離さなかった。

 ただ、ずっと。

「あなたがいい」と、心の中で静かに、強く、念じ続ける。


 すると、周囲を騒がせていた黄金の光も、他の生き物たちの気配も、霧が晴れるように消えていった。

 森は再び、深い静寂に包まれる。

 鹿が、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

 その小さな蹄が草を踏むたびに、私の足元に確かな「重み」が戻ってくる。

 指先から、掌、腕、そして心臓の鼓動へ。

 半透明だった私の身体に、温度と色彩が宿っていく。

 世界が、私という存在を「確定」させた。


 鹿は私のすぐそばで足を止め、濡れた黒い鼻先を、私の指先にそっと寄せた。

 冷たくて、くすぐったい。それは、どんな言葉よりも雄弁な、この世界での最初の約束だった。

「……よろしくね」

 私はそっと、その白い首筋に触れた。

 指から伝わる柔らかな鼓動に、私は確信した。

 この森は、最初から私を待っていたのだと。


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