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終わりの始まり

毎日、同じ時間に起きて、同じような服を着る。


決まりきった手順。

決まりきった景色。

決まりきった一日。


ルーティンは心地いい。

崩れると、どこか気持ちが悪い。


まるで永遠の輪の中を、ぐるぐる回っているみたいだと感じることもある。


けれど、日常の忙しさがそれを忘れさせてくれる。

やるべきことをこなし、与えられた役目を果たす。


考える暇なんて、ない。


今日もまた、

いつもの日課をこなす。


世界が終わるとしたら何がしたい?

誰もが一度は考えたことがあるだろう、、、


例えば、、、

美味しいものを食べる!

好きな人と一緒に過ごしたい!

あの子に告白したい!

家族と一緒に最後を迎えたい。

あえていつも通りに日常を送りたい


または、

憎いあいつを殴りたい、殺したい。

欲望がままに、奪い、犯し、暴れたい


人それぞれやりたいことは色々あるだろう。


さぁオレはというと、、


答えは決まってる、

オナニーだ。


冷静に考えてみてほしい。


「あの店のご飯が美味しいから、世界が終わる日はそこで食事をしたい」


そう思う人もいるだろう。


だが、世界の終わりに料理を振る舞ってくれるシェフはいるのだろうか。

いるかもしれない。だが多くの場合、そのシェフだって自分のやりたいことを優先するはずだ。


シェフにも家族がいる。大切な人がいる。

その最後の時間を、自分のために使わせるのか?


さらに言えば、店に食材を運ぶ人もいる。

その人にも家族がいる。

流通が止まる可能性だってある。


そもそも店が営業している保証はない。

食料が尽きているかもしれない。

世界が混乱していて、食事どころではないかもしれない。


もし「最後にあの店で食事をする」と決めていたとして、

その願いが叶わなかったらどうだろう。


無念を抱えたまま、世界の終わりを迎えることになる。


それは、なんと辛いことだろうか。



では、最後なのだから我慢など忘れて暴れ回るのはどうだろうか。


――言語道断だ。


それは他人の尊厳を踏みにじるだけでなく、自分自身の尊厳までも破壊する行為だ。

人には理性がある。

人として生を全うすることこそ、自らの尊厳を守ることでもあるのに、最後の瞬間に“ヒト”であることを捨てるなど、あまりに残酷だ。


どちらの願いも、結局は自分以外の誰かに依存している。

他人の時間、他人の存在、他人の犠牲。


では――完全に自分だけで完結する行為はどうだろう。


自分がいれば成立する。

誰にも迷惑をかけない。

(強いて言うなら自分にかかるかもね!)

誰の尊厳も傷つけない。


むしろ、静かに、自分の内側だけで完結する。


これこそ、究極に平和な選択ではないか。


充足感に満ち、悔いなく、安らかな顔で最期を迎える。

他人を尊重し、自分も裏切らない。


なんと立派な振る舞いだろう。


世界が総立ちで称えてもおかしくないほど、平和的な思想の持ち主ではないか。


さあ世界よ。

この理性的な選択を讃えよ。


最後まで他人を傷つけず、

最後まで自分で在り続ける。


それこそが、尊厳というものだ。


オレ最高!オ○○ー最高!

オレニー!




「かぁぁぁつ!」


背中に衝撃が走った。 

バシーンっという重く甲高い音と共に痺れるような痛みが背中を覆う。

  

「イッ!!!!」  

不意な後ろからの衝撃で体が飛び上がる。

そしてそのまま前方に倒れる。


「集中しろ!顔が下品だ!!」  

野太い声が部屋中に響きわたる。


目を開けて振り返ると

中年オヤジで丸坊主頭、丸々と肥えた体が目の前に仁王立ちしていた。

腕にはハリセン。

右手に持ったハリセンを左手にパシンと鳴らしてこちらを見下ろしている。


ここは修練場。

広い広間で座禅を組み、瞑想をしていた。


このでっかいオジサンの名前はススルメ。

オレの師匠である。

年齢はよく知らないが50代くらい。

若い頃はイケメンな剣士だったらしいが今では、まん丸おやじ。見る影もない。

腕はシミと贅肉で、トラフグから手首が生えているようなくらいのひどい状態である。

↑いい意味でね!


「イッテェ、、、ちょっと!強く叩きすぎでしょうよ!」

すぐに立ち上がり、師匠に向けて指差し、文句を言う。

こっちは世界平和について考えていたんだ、褒められるべきである。それなのにぶっ叩かれるのはおかしい!あんまりだ!絶対におかしい!


「瞑想とは邪念を捨て、自らと向き合うことだ! どうしてそんな気持ち悪い顔でニヤつける!このバカ!」


ひどい。そんな気持ち悪い顔してた?

しかもバカって言われた!


逆ギレは正論と追撃のハリセンで粉砕された。


また吹っ飛ぶおれ。

「レイ、大丈夫?」


細身で短髪の肩を貸してくれる。優しき青年。

一緒に隣で瞑想をしていたシンムウ。


「あぁ、わりぃ。少し平和について考えすぎた。」

そうシンムウの肩を借りて立ち上がる。

「平和について?レイはさすがだね!」

シンムウが損壊の目を向けてくる。

シンムウは疑うことを知らない。

純粋でピュアな青年である。

オレとは2つ年下だ。尊敬してくれている。 

オレの言うことを全て信じてくれるので、

冗談が通じない。

変な商売人に騙されないように気をつけてほしいものです。



そしてオレの名前はレイ。レイ-ブラッド。

オレらは衛兵。平和を守るため衛兵は毎日修練をかかしてはならない。

今は毎朝の日課。精神鍛えるための瞑想を行なっていた。そして日課である瞑想後のシバキにあっているところだ。


立ち上がり、シンムウにありがとうと礼を言い、見つめ合う。

何か別の視線を感じる。

振り向くと師匠が腕を組んで俺たちを見ていた。


(あ、まだ瞑想中だった)

瞑想中はしばかれても黙ったまま黙って続けなければならないのにね、


オレたちは何も言わずにそっと元の位置に戻り瞑想を再開した。


ーーーーーーー



その後、オレたちは師匠から長尺のありがたいお説教をたっぷりと頂戴し、ようやく解放された。


「マジで勘弁してくれよ……」

「おいレイ!オレらまで巻き添えなんだぞ」

「今度なんか奢れよなー!」


オレとシンムウのほか、瞑想に付き合わされた衛兵たちが一斉に文句を言う。


オレたちは、ここカルプ国領カミ村の衛兵だ。

主な任務は村の警護と治安維持。


とはいえ、近年は他国との争いもなければ魔物の襲撃もない。

平和そのものだ。


だから日々の仕事といえば、手伝いや雑用ばかり。

それでも、いざという時に村を守れるよう鍛錬だけは欠かさない。


動物の皮でできた古びた防具を身にまとい、背には剣。

その剣も、しばらく実戦で使った覚えはない。


瞑想終わり、衛兵たちとだらだら歩いていると、村の中央にある噴水へたどり着く。

ここはカミ村の集合場所としてよく使われる、いわば目印だ。


その噴水の前に、不機嫌そうに立つ金髪の男がいた。


全身を金属鎧で覆い、明らかにオレたちとは格が違う。

爪の状態を眺めながら、吐き捨てるように言う。


「……遅い」


「「「「「すみませんっ!」」」」」


たった一言で全員が反射的に謝罪。


この男の名はバリントー。

カルプ国直属の騎士。

簡単に言えば――オレたちの上司だ。


騎士とは、国に仕える武力。戦闘と防衛を担う存在。

村出身で構成される衛兵とは立場が違う。


いわばエリート様である。


「はぁ……なんでオレがこんな田舎に……」


(あのー、聞こえてますよー)


オレは隣のマイクに視線を送り、肩をすくめる。

マイクも同じ気持ちのようで、二人でニヤニヤ。


「そこ、何か言いたいことでも?」


さすが騎士様。見ていないようで、しっかり見ていらっしゃる。


「いいえ! バリントー様の高貴なお姿に見惚れておりました!」


よくもまぁ、ここまで淀みなく嘘がつけるものだと自分でも感心する。


オレたちの前では態度最悪なくせに、村人の前ではクールを気取り、女子人気が高いのが腹立つ。

みんな、男を見る目は鍛えような? そこも女子力だぞ。


ふん、と鼻を鳴らし、バリントーは興味なさそうに告げる。


「では本日も各自、任務に就け。何かあればわたしを呼べ」


「「「「「はい!」」」」」


号令とともに、オレたちはそれぞれの持ち場へ向かった。


オレの担当は――神殿跡の湧水の水汲み。


村外れの湖。

干潮時にだけ姿を現す古代神殿。

そこから湧き出る水は“ありがたい水”として村で大切にされている。


樽三つ分。


遠い。重い。面倒。

誰もやりたがらない。


そして、なぜか毎回オレ担当。


面倒ごとはだいたいオレに回ってくる。

担当の振り分けはバリントーが決めている。


……陰でモノマネしてるの、バレてるのかもしれないな。



「はぁ、やりますか、、」

覇気のない宣言をして樽を持ち、水の引いた湖を歩き神殿へと向かう。


いつもと変わらない毎日。

このまま同じような日々を過ごして年をとり、誰かと結ばれて家庭を持ち、老いて死んでいく。そんな平凡な人生を歩んでいくのだろうと

朝の瞑想とは打って変わって現実を悟りつつ水を汲む。


「早く死にてぇーな」

自然とでた言葉。もちろん本気で思っているわけではない。

先の見えた未来。どうせヒトは死ぬのだから、大した人生にならず退屈に過ごすならいっそのこと早く天寿を全うしたい。

そんなことを考えるまでにネガティブになりつつ業務に取り組む。


こんなオレにだって夢はあった。


それは、国を守る騎士になることだった。

……バリントーみたいに。


かつては騎士を目指し、有望株だと言われていた時期もある。

あの頃は本気で信じていた。自分はきっと、もっと遠くへ行けると。


けれど、いつからだろう。

気づけば夢は口にすることもなくなり、

「まあ、こんなもんか」と笑ってやり過ごすようになっていた。


それでも――


オレにだって、黄金時代はあったんだ。


背中に携えた剣の柄を握る。

使われることのない剣。それでも、重みだけは確かにそこにある。


目を閉じる。


自分は選ばれし英雄。

世界を救うため、戦場へ駆けつける。


人々がざわめき、そして安心する。

「ああ、もう大丈夫だ」と。


戦場を縦横無尽に駆け回り、誰一人見捨てない。

味方も、民も、そして――敵でさえも。


騎士は国に雇われる誇り高き戦士。

名誉も財力も、そして人気も最強。

当然モテる。可愛いヒロインと出会い、暖かな家庭を築く未来つき。


……完璧だ。


そんな妄想という名のイメージトレーニングを、今日も真顔で行うオレ。


目を開ける。


そこにあるのは、湧水で満たされた樽三つ。


英雄の姿は消え、

現実には雑用係のオレだけが立っていた。


「……はぁ」


ため息とともに樽を持ち上げる。


「あーあ、空から可愛い女の子でも降ってこないかな」


ぽつりと零れた言葉。


冗談半分。

いや、本音半分か。


非日常。

何かが変わるきっかけ。

そんなものを、どこかでずっと待っていたのかもしれない。


……いやいや、危ない危ない。


こんな発言、誰かに聞かれたら終わる。

自重しろオレ。精神年齢どうなってる。


周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。


よし、セーフ。


気を引き締め、村へ戻ろうと一歩踏み出した――その時だった。


突然、苔まみれだった神殿が光った。


淡い光は一瞬で強さを増し、まっすぐ空へと突き抜ける。


次の瞬間――


空に、亀裂が入った。


空が、割れた。


人は本当に驚くと声が出ないらしい。


「……はぇ?」


情けない声がようやく漏れる。


光の柱の先を見上げると、

そこから“何か”がゆっくりと降りてきていた。


最初は輪郭も分からない。ただ光の塊。


だが、徐々に形が見えてくる。


「……え?」


それは――人だった。


仰向けのまま、まるで眠っているかのように、ゆっくりと落ちてくる。


「え? は? え!? ちょっ、え!?」


脳内が完全にバグる。


周囲に人はいない。

このまま地面に叩きつけられるのを見ているわけにはいかない。


考えるより先に体が動いた。


落下速度が一気に増す。

重力をまとったそれが、急降下する。


「うおおおおっ!」


手を伸ばす。


衝撃。


腕の中にずしりとした重みが落ちてくる。


受け止めた反動で後ろによろめき、そのまま尻餅をついた。


「はっ……はっ……」


息を切らしながら、恐る恐る腕の中を覗き込む。


白い肌。

艶やかな長い黒髪。

閉じられた瞼を縁取る、長いまつ毛。


腰元からのぞく細い脚。


――女の子だ。


おんな?

おなご?


いや、どう見ても可愛い女の子だった。


天使が、腕の中にいる。


天使だ。


「!!!!???////」


はい。

レイ、思春期継続中につき、女子耐性ゼロです。


顔が一瞬で沸騰する。


だが、よく見ると違和感があった。


見たことのない衣装。

襟のついた上着に、胸元には見慣れない飾り。


どこの国の服だ?

貴族か?

……それとも、本当に天使なのか?


「ど、ど、ど、どうしよう……」


パニックは収まらない。


胸は規則正しく上下している。生きている。


けれど――


壊れ物みたいに軽くて、柔らかくて、

うっかり力を入れたら消えてしまいそうだった。


下ろすべきか、どうすべきか。


おろおろと身じろぎしていると――


腕の中の少女の瞼が、ゆっくりと震えた。


「……ん……うん?」


まぶたが開く。


ぱっちりとした、大きな黒い瞳。


目が合った。


その瞬間――


思考が、止まった。


え。


かわいい。


世界が割れたことよりも、

今はそれのほうが衝撃だった。


「あなたは? ここはどこ?」


腕の中の天使が、戸惑いながら問いかける。


距離、近い。

近い近い近い。


「お、お、お、おでは……れ、れ、れ、れいというんだなぁ、ぁ!」


噛みすぎだろ。おでって一人称初めて口にした気がする。


「れい?」


首をかしげる仕草まで可愛いのやめてほしい。


「き、君が……そ、その、空から落ちてきて……」


震える指で空を指さす。


自分でも何を言っているのかわからない。

だが、とにかく事実だ。


指先の先――空を見上げた、その瞬間。


空に、ヒビが入った。


ぴしり、と。


さっき修復されたはずの空が、もう一度割れる。


「……は?」


間抜けな声が漏れる。


裂け目の奥から、巨大な“影”が現れた。


人の形をしている。


いや、でかすぎるだろ。


天使の次は神か?

いや、マジで?


理解が追いつかないまま、ただ見上げる。


影がゆっくりと輪郭を持ち、空いっぱいに姿を現した。


そして――


「どうもー! 私は神様です!」


軽い。


声が軽い。


「みんなー! いつも信仰ありがとうございまーす!」


空から、やたら明るい声が響く。


「突然だけど、この世界はあと一年で終わることになりましたー! 悔いのないように過ごしてね! それじゃっ!」


早い。


情報量が多い。


そして軽い。


「え、ちょ――」


止める間もなく、ぱちん、と。


空の亀裂は閉じ、光は消えた。


青空。


鳥の鳴き声。


風の音。


何事もなかったかのような、いつもの世界。


……


「……は?」


沈黙。


腕の中には、美少女。


頭の中には、“あと一年で世界終了”。


情報が渋滞している。


処理能力、完全にオーバー。


夢か?


いや、腕の中、あったかい。柔らかい。いい匂いもする。


現実だ。


最悪だ。


いや、最高なのか?


いやいやいや、世界終わるって言ったよな?


……え?


なんだったんだ

突然の世界の終わりの宣言と腕の中の美少女。


頭はキャパオーバーして何もかんがえられない。

「...の」

「あの...」

腕の中の声が聴こえる。

「あの、下ろして、ほしい」

か細い声で怯えたように天使は告げた。


「あっ!ご、ごめん!!!」


顔を真っ赤にして彼女を下ろす。

手汗かきすぎたかなと不安になる。


「私、ナギ。ここはどこ?さっきのは何?私は、、、どうしたらいいの?」


オレの腕の中から解放されたナギは食い気味に尋ねる。


かなり戸惑っている様子だった。

当然だ。空から降ってきて赤面男の腕の中で目を覚ましたら次は空に神を名乗るものが現れて世界の終わりを告げたんだ。

まじ意味わからん。どうしようか、、、


とりあえず、村へ戻らなくては

村もきっと混乱しているだろう。

バリントーさんにも報告しないと。


そして彼女は放っておくことはできないのでとりあえず、連れて行こう。


「とりあえず、うちの村へ案内するよ。」


ここから村までは少し距離がある。


「歩けそうですか?」


振り返ると、ナギは小さくうなずいた。


「大丈夫です……」


そう言って歩き出そうとした瞬間、


「あれ……?」


足元がふらつき、体が傾く。


危ない、と咄嗟に肩を掴んで支えた。


その細さ、柔らかさ、驚くほどの軽さ。

鼻をくすぐる甘い香りに、思わず顔が熱くなる。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」


天から落ちてきた衝撃のせいだろうか。

どう見ても、まともに歩ける状態ではない。


「……おんぶしていきます」


「え? えっと……」


知らない土地で、初対面の男に背負われる。

不安で当然だ。


「放っておけないから。俺なら大丈夫。遠慮しないで」


爽やかに言い切る。

100%誠実アピールだ。

俺は紳士。間違いない。


変な疑いを持つほうが脳内ピンク作戦。


しばらくの沈黙のあと、


「……ありがとう」


小さな声とともに、彼女はそっと背中に身を預けた。


ずしり、と重みが加わる。


さっきは気づかなかったが、

女の子ってこんなに軽いのか。

こんなにも柔らかいのか。


なるべく余計なところに触れないよう、膝裏に腕を回す。

背中に感じる柔らかさには気づかないふりだ。


紳士、紳士だぞ俺。


耳が燃えるように熱い。

世界の終わりだと言われているのに、

俺は何と戦っているんだ。


「重くない、ですか?」


「あー、全然! 大丈夫。えっと……ナギさん?」


「ナギでいいよ、」


「えっとじゃあ……ナギ、は大丈夫?」


「うん。でも、どうして自分がここにいるのか、わからないの。何があったのかも」


記憶が抜け落ちているのか。

だが自分の名前は覚えているようだ。

落ち着いたら記憶も少しは戻るだろう。


「ちなみに、ここはカルプ国領のカミ村だ」


ここはどこ?に対しては回答ができる。

答えてやると、背中から「え?」と細い声がきこえた。


「……カルプ国?ここニホンじゃないの?」


背中の体が強張るのを感じる。


「ニホン……?」


どうやら本当に異国から来たらしい。

確かにその服装も、言葉の響きも、どこか違う。


背中越しに、彼女の不安が伝わってくる。


「とにかく今は休むといいよ。村に行けば、何かわかるかもしれない」


安心させるようにそう言うと、


「……ありがとう」


背中に預ける重みが、少しだけ増した。


やがて、すうっと寝息が聞こえる。


安心してくれたのだろうか。


この子に何があったのか。

国に帰してやりたい。

だが今の俺には何もできない。


とにかくバリントーさんに報告だ。


背中を揺らさないよう注意しながら、

それでも少し歩みを早めて、俺は村への道を急いだ。








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