第三話 寵愛という名の監視
黎明の守護将軍となった飛燕は、彼の寝宮に隣接する豪華な部屋を与えられた。しかし、それは黎明の監視の目が常に届く場所だった。
黎明は、昼夜を問わず飛燕を私室に呼びつけ、公務の相談と称して、彼を独占した。
「飛燕。この奏状の文字は、読み辛い。貴方の声で、もう一度読み上げてくれ」
黎明は、飛燕が読む間、ただ彼の横顔をじっと見つめている。その熱烈な視線は、飛燕に常に緊張感を与えた。
「殿下。わたくしの婚約者である春蘭殿との文通を許可していただきたく……」
飛燕が意を決して願い出ると、 黎明の顔から、一瞬にして表情が消えた。
「春蘭、だと? なぜ、貴方が私に仕えている間、その取るに足らない女を気にする必要がある?」
黎明の冷たい言葉に、飛燕は怯んだ。
「殿下。彼女はわたくしの、妻となるべき女性です」
「妻?」
黎明は、嘲笑うかのように鼻で笑った。
「飛燕。貴方をこの宮廷に引き入れたのは、貴方の心が穢されないようにするためだ。貴方が愛する女性など、私が望めばいつでも手に入る。貴方の愛の対象は、もう、私で十分だろう」
黎明は、飛燕の頬に触れ、その視線を無理やり自分に向けさせた。
「貴方の婚約は、無期限の延期を命じる。貴方の心のすべては、今、私のものだ。それを忘れるな」
飛燕は、皇族の権力の前で、何も言い返すことができなかった。
(私は、戦場で多くの命を救ったはずだ。だが、この宮廷では、一人の皇子によって、私の自由が奪われていく……)
飛燕の心は、戸惑いと、皇子への恐怖で満たされていた。




