父親からの贈り物
店を出て猛と別れた後。私としおりさんは二人、夜の道を歩き、私のあの無機質なマンションへと帰ってきた。
今日の一日。
猛との距離感。パフェの頼み方。
…本当に、何を考えているのか分からない子。
その好奇心から私は玄関で靴を脱ぐ彼女に少しだけからかうつもりで声をかけた。
「…しおりさん、お互い汗もかいたしこのまま一緒にお風呂でも入りましょうか」
どうせ流石の彼女も恥ずかしがって遠慮するだろう。
そのギャップを見てみたいという意図もあった。
しかし彼女の答えは私の予測の斜め上をいっていた。
彼女はこちらを振り返りすこし思考してからこともなげに言ったのだ。
「…シャワーはともかく、お風呂を一緒に入るのは合理的ですね。水道代と光熱費の節約になります、いいですよ」
「…いや、ちょっとあの…」
しどろもどろになる私。
まさか了承されるとは思ってもみなかった。
誘ったのは私なのだから今更断るわけにもいかない。
私は顔が熱くなるのを感じながら彼女を脱衣所へと案内した。
恥じらいのかけらもなく淡々と制服を脱いでいくしおりさん。
その隣で意味もなく鼓動が早くなる私。
しかし彼女がシャツを脱ぎ、その背中を私に向けた瞬間。
私のそんな馬鹿げた羞恥心は一瞬で吹き飛んだ。
「…え…」
そこにあったのは私が想像していた中学生の白い肌ではなかった。
見えていた首筋のあの傷跡だけではない。
服を脱がなければ分からない彼女の背中や腕には、まるでナイフで切りつけられたような、おびただしい数の古傷が、まるで地図のように刻み込まれていた。
恥じらいから私の感情は一気に「どうなっているの?」「何があったの?」という混乱と恐怖へと切り替わった。
私は震える声で問いかけることしかできなかった。
「…しおりさん、…その傷…」
私が口に出してから聞くべきではなかったと後悔したその時。
彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
その瞳には何の感情も宿っていない。
彼女はこちらの思いを察したのか、ただ事実だけを告げるように、そしてどこまでも皮肉気に言った。
「…ああ、これですか」
「父親からの、贈り物です」
そのあまりにも静かで、そして重い一言。
浴室のドアの前で私はただ立ち尽くすことしかできなかった。
彼女が背負う闇のその本当の深さを、私はまだ何一つ理解してはいなかったのだ。




