決着
…見てなさいよ猛。
ランキング戦でしおりさんに挑戦する権利は絶対に私がもらうんだから…!
私が決意を固めたその時。
ハッと我に返ると、目の前で繰り広げられていた死闘はいつの間にか終わりを告げていた。
スコアは11-8。
勝者はしおりさん。
息を切らし汗だくで膝に手をついている猛と対照的に、彼女は涼しい顔でネットに一礼している。
やがて二人が休憩するために、私の方へと戻ってきた。
私は慌ててスマホをいじるふりを続ける。
しおりさんがペットボトルのお茶を一口飲むと、隣でタオルで顔を拭いている猛に悪戯っぽく笑いかけた。
「…部長。パフェわかってますよね?」
「…ああ分かった分かったよ。お前みたいな甘党にちゃんと奢ってやる」
猛は心底悔しそうに、しかしどこか満足げにそう答えた。
その和やかな光景。
私は自分の心の乱れを悟られまいと深く深く深呼吸をして気持ちを切り替えた。
そんな私に猛が気づき、ニヤリと笑いながら声をかけてくる。
「よお凛月。見てたか?こいつやっぱ化け物だぜ。…お前も試合してみたらどうだ?」
その言葉。
彼は私がしおりさんにこだわっているのを知っていてわざとそう言っているのだ。
私の心は試合をしたいという強い誘惑にかられた。
今すぐあのコートに立ちたい。
あの時のつづきをしたい。
しかし、違う。
私が望んでいるのはこんな遊びの延長ではない。
「…ふん。私はランキング戦で正々堂々一番台へ上がるわ。あなたみたいに練習をサボってずるはしないの!」
私は精一杯の強がりでそう言い放った。
その私の言葉に猛は何も言わず、ただ「そうか」と優しく笑った。
「…じゃあパフェ行くか。腹減っただろ」
彼がそう言って立ち上がる。
私はまだ少しだけ赤くなっている顔を隠すように、そっぽを向いて答えた。
「…仕方ないから案内してあげるわ。あなたたちだけじゃ迷子になるでしょうから」
私はそう言って二人を置いてさっさと歩き出した。
背後で猛としおりさんが顔を見合わせて笑っている気配がした。
今はこれでいい。
私の本当の戦いは明日、あのランキング戦のコートの上で始まるのだから。
私たちは賑やかな体育館を後にした。
甘い匂いを想像しながら。




