表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
五月雨高校編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

678/694

暖かさ

 …そうじゃ、ねえんだよ、馬鹿野郎…!


  部長が何か言いたそうに天を仰いでいる。


  私はその彼のあまりにも非合理的な行動を、ただ冷静に観測していた。


「…一体どうしたんですか?部長」


 私は純粋な疑問として問いかけた。


  「私のパフォーマンスは完璧だったはずです。何か問題でも?」


「…しおり」


 彼の声のトーンが変わった。


「お前、富永先生に言われてたろ。『自ら氷を纏おうとするな』って『それは危ないことだから、絶対にやめるように』って」


 その言葉。 私の思考が一瞬フリーズする。


 …なぜあなたがそれを…?


  私は冷静に反論した。


「…黒木主将が私の全力の卓球を見たいと話したから、私はただその期待に応えただけです。監督にも招待してくれた恩を返したかった」


 その言葉。


 それは、氷の仮面を纏っているにしてはあまりにも人間くさい「動機」だった。


 その矛盾に、私自身気づかないふりをしていた。


 しかし部長は、その矛盾を見逃さなかった。 彼は深く、そして重いため息をついた。


「…そうか」


 彼はそれ以上、私を問い詰めるのをやめた。


 そして彼は、暖かいココアを自販機から買い、私に渡すと、全く違う提案をしてきた。


 その声はもう怒っていなかった。


「…しおり。この近くに民間の体育館があるんだ。…軽く打たないか?俺と」


「…え?」


  そのあまりにも唐突な誘い。


 私が戸惑っていると、物陰からもう一人、ひょっこりと顔が現れた。


 小笠原さんだった。


 彼女はおそらく追ってきてからずっとそこにいたのだろう。


 私たちの会話を聞いて出るに出られなかったという所だろうか。


 私たちの全てを聞いていたはずなのに、聞こえていなかったという不器用な振りをして、わざと明るい声を上げた。


「――もう!二人ともこんな所にいたの!…はあ、監督が今日はもう、あなたたち二人とも上がっていいって!…私も、ランキング戦は不戦敗よ。猛、あなたのせいでね!」


  彼女は部長をじろりと睨みつけ、そして私に向き直る。


「…それで、どうするの?このまま帰る?…それとも、あの筋肉バカの誘いに乗ってあげるの?」


 その問い。


 私は自分の腕に目を落とした。 氷の仮面の下で古傷が熱く、そしてズキズキと痛んでいる。


 しかしそれよりも強く、 私の心の奥底で何かが燻っていた。


 部長と卓球がしたい、その温かい衝動が。


 私は顔を上げた。


「…仕方ないですね、…行ってあげます」


 その一言に部長は驚いたように目を見開き、そしてすぐに子供のように顔を輝かせた。


 小笠原さんは、やれやれと肩をすくめた。


「…仕方ないわね。私も付き合ってあげるわ。二人が何をしでかすか、そもそも体育館にたどり着けるのか、見てないと心配だから」


 その言葉とは裏腹に、彼女の口元は楽しそうに笑っていた。 私の氷の仮面も、気づけばほんの少しだけ溶け始めているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ