二度目のレッスン
私の心は、再び勝負師としての冷たい興奮に満たされ始めていた。
その日のランキング戦は、昨日以上に熾烈を極めた。
私の存在が、そして私への「挑戦権」という名の餌が、この強豪校の猛者たちの闘争本能に火をつけたのだ。
私の魔術を一度でいいから感じたいという、純粋な興味もあるのだろう。
その地獄のような潰し合いの中で、一人だけ格の違う強さを見せつける男がいた。
黒木主将だった。
彼は昨日から二番台に張り付き、そして相手をその圧倒的な技量で粉砕していく。
(…すごい執念だ)
私はその姿に、静かに感心していた。
再び、私への挑戦権を貪欲にもぎ取りにきているのだ。
やがて、その時が来た。
汗だくの黒木さんが二番台の死闘を制し、そして私の待つ一番台へと登ってくる。
その瞳には「もっと、もっとお前の卓球を見せろ」という、飢えたような期待の光が宿っていた。
(…仕方ないですね)
私は静かに構える。
(その期待に、最高の形で応えてあげますよ)
私は、そっと目を閉じた。
そして、自らの意志で、心の奥底に封印していた最も暗い記憶の蓋を、再びこじ開ける。
父に傷つけられた、あの灼けつくような痛み。
水に顔を押さえつけられた時の、あの窒息感。
そして、葵に別れを告げた、あの絶望。
その、どうしようもない闇を呼び起こすことで、私の心は、静まり返っていく。
感情という名のノイズが消え失せ、より深く、深く、氷の下の深淵へと潜り込んでいく。
私が再び目を開いた時。
私の瞳には、もう何の光も宿っていなかった。
ただ、絶対零度の、冷徹な氷のような目だけがそこにあった。
ネットの向こうで、黒木さんが息をのむ気配がした。
そうだ。
これこそが、あなたが見たかったものの正体。
私の、本当の姿。
さあ、始めましょうか。
二度目の、レッスンを。




