ランキング戦
五月雨高校の監督は、面白い生き物を観察するような目で私を見つめた後、にやりと笑った。
「…なかなか面白い選手だ」
そして、彼は体育館中に響き渡る声で、号令をかけた。
「練習中断!全員、集合!今日から一週間、恒例の『ランキング戦』を始める!」
部員たちが、素早く整列していく。
監督は、私にも分かるように、その練習の仕組みを説明し始めた。
「この部での実力は、全てこのランキング戦で決まる。1セットマッチの勝ち上がり・負け下がり方式だ。一番台にいる者が、絶対的な『王』。それだけだ。シンプルだろう?」
その、実力主義なシステム。
私の心に、静かな闘志の炎が灯った。
(…面白い。ならば、最下位からごぼう抜きにして、この部の本当の『王』が誰なのか、教えてあげるのも悪くない)
(ランキング一位で第五中学に帰る、お土産の話としては悪くない)
私がそんなことを考えていた、その時だった。
「――ただし、今日から一週間は特別ルールを適用する」
監督の視線が、まっすぐに私を射抜いた。
「一番台は、静寂しおり、君に固定する。彼女に挑戦したければ、二番台まで死に物狂いで勝ち上がってこい。いいな!」
その予想外の展開に、私は眉をひそめた。
隣に立つ部長に、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で苦言を呈する。
「…少し、やりすぎでは?たかが中学生相手に、神格化しすぎだと思いますが」
その言葉の裏に「私も普通に下から勝ち上がりたかった」という、勝負師としてのかすかな不満が滲むのを、自分でも感じていた。
監督が、続ける。
「今日のスタート位置を発表する!猛!」
「おす!」
「貴様は、先週の順位から一つ下げて、五番台からだ」
「…小笠原!」
「はい!」
「お前も一つ落とし、六番台からだ」
「二人とも、気合いを入れ直せ!挑戦権を獲得し、勝って見せろ!」
その厳しい宣告と激励を受けて、二人の顔に緊張が走る。
私は、そんな二人に向き直った。
まず、凛月さんに、ほんの少しだけ優しい声で。
「…頑張ってください、小笠原さん」
そして次に、部長の顔をじっと見つめ、その瞳の奥に氷の光を宿らせて言った。
その声は、冷徹で、そしてどこまでも挑発的だった。
「…部長も、せいぜい足掻いてください」
「この私への、挑戦権を手に入れるために」
「――玉座で、お待ちしていますから」
その、あまりにも不遜な女王の宣告。
部長の顔が、全開の闘志で引きつるのを、私は満足げに眺めていた。
私の、東京での一週間。
その本当の戦いが、今、確かに幕を開けたのだ。




