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異端の白球使い  作者: R.D
五月雨高校編・銀河を巡る鉄道の栞

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密航者

「『銀河ステーションで、もらったんだ。君は、もらわなかったの?』と」


 先生がそう言ってクラス全体を見渡した、その瞬間。


 私の頭の中で、一つの冷たい違和感が形を結んでいた。


(…おかしい)


 そうだ。物語を読み返せば分かること。


 ジョバンニが銀河鉄道に「乗車」する描写は、どこにもない。


 彼は丘の上で気を失うように眠りに落ち、そして気がつけば汽車の中に「いた」のだ。


 駅もなければ、切符もない。


 しかし、カムパネルラは違う。


 彼は、銀河ステーションで正規の「切符(地図)」を受け取っている。


(…つまり)


 私の思考が、結論を導き出す。


(ジョバンニは、この汽車に乗るはずのなかった乗客)


(彼は、ただの無賃乗車…。あるいは、『密航者』なのではないか…?)


 その違和感の正体にたどり着いた私の背筋を、冷たい何かが走り抜ける。


 その時、先生の穏やかな声が、私の思考を中断させた。


「――さて」と先生は、冊子の次のページを指し示した。「汽車はやがて天の川の岸辺に停車する。『北十字きたじゅうじ』と呼ばれる白鳥座の停車場だ。そして、その向こう岸には『プリオシン海岸』という、荘厳(そうごん)で美しい景色が広がっている」


 先生は、その情景をうっとりとした声で解説し始める。


 くるみの化石や水晶がきらめく、その幻想的な浜辺。


 そこでジョバンニとカムパネルラが体験する、不思議な出来事。


 しかし、私の心はもう、その美しい景色を素直に受け入れることができなかった。


 私の頭の中は、先ほどの問いでいっぱいだった。


(なぜ、密航者であるジョバンニは、ここにいるのだろう?)


(そして、このあまりにも美しく、しかしどこかこの世のものとは思えない景色は、一体何なのだろう?)


(正規の乗客であるカムパネルラは、どこへ向かっている?)


(そして、切符を持たない私は、一体どこでこの汽車から突き落とされるのだろう…?)


 この物語は、ただの美しいファンタジーではない。


 ここには、何か冷徹な「法則」が働いている。


 その、まだ見えない法則の正体を、暴き出さなければならない。


 私の魂は、もはやジョバンニと一体化し、そしてこの銀河の旅の本当の「意味」を探す、孤独な乗客となっていた。


 その先に、どんな残酷な真実が待っているのかも、知らずに。

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