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異端の白球使い  作者: R.D
五月雨高校編

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東京の空

 数日後。私は一人、新幹線のホームに立っていた。


 キャリーケースとラケットケース。そして、一本の杖。


 それが、今の私の全ての荷物だ。


(…そういえば)


 一年前、全国大会に向かった時も、このホームに立っていた。


 でも、あの時は一人ではなかった。


 隣には、私の手を固く握りしめてくれる葵がいた。


 後ろでは、部長とあかねさんが駅弁のことで騒いでいた。


 そして、未来さんと佐藤先生が呆れたように笑っていた。


 あの、どうしようもなくうるさくて、そして温かい喧騒。


 私はプラットホームの自動販売機で、砂糖がたっぷり入ったホットコーヒーを買った。


 あの時と同じもの。


 しかし、その温かいはずの液体は、なぜかひどく冷たく感じられた。


 新幹線に乗り込む。


 窓の外を、景色が猛烈な速度で流れていく。


 その鮮やかなはずの緑も青も、今の私の目にはどこか色褪せて見えた。


 そうか。


 世界の彩りを決めるのは、光ではない。


 その光を、誰と見るかなのだ。


 そんな感傷に浸っているうちに、東京駅へと到着した。


 人の波。圧倒的な情報の洪水。


 私はその流れに逆らうように、待ち合わせの場所へと向かう。


 部長の姿を探す。


 しかし、そこに立っていたのは彼ではなかった。


 腕を組み、どこか不機嫌そうな顔で私を待っていたのは、小笠原凛月さんだった。


「…遅いじゃないの」


「…小笠原さん。なぜ、あなたが?」


「猛から頼まれたのよ。あなたを迎えに行くように、とね。…さあ、行くわよ」


「え、でも、私は部長の家に…」


 私のその言葉を、彼女は一刀両断した。


 その声は、有無を言わせぬ女王のそれだった。


「男女が一つ屋根の下など、絶対にダメよ!」


「いいこと、しおりさん?あの男は、見た目こそゴリラだけど中身は思春期のオス。つまり、男は全員、獣なの!」


 その、あまりにも突拍子もない理論。


(…獣?生物学的な分類の話だろうか…?)


 私の頭脳がエラーを起こしている間に、彼女は私の荷物をひったくるように持つと、さっさと歩き始めてしまった。


「一週間、私の家に泊めてあげるわ。感謝なさい」


「え、あ…」


「猛と一緒の部屋で寝るのと、私と一緒の部屋で寝るの。どちらがいいか、考えるまでもないでしょう?」


(…部長と一緒に寝るのが、なぜ悪いことなのだろうか…?)


 その、私には到底理解できない問いの答えが見つからないまま。


 私は、ただその気高い彼女の後ろを、ついていくしかなかった。


 東京の空は、私が思っていたよりもずっと騒がしくて、そして少しだけ、面白い色をしているようだった。

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