表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
贖罪の道筋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

640/694

星空の下で

 練習が終わる頃には、窓の外はもうすっかり夜の闇に包まれていた。


 部員たちの挨拶を背中で受けながら、私は一人体育館を後にする。


 そして、職員室の鍵置き場から、誰にも気づかれることなく一つの古い鍵をそっと抜き取った。


 屋上の扉は固く閉ざされている。


 しかし、その錆び付いた鍵穴に鍵を差し込んで回すと、ギィ、と重い音を立てて開いた。


 ひやりとした夜風が、私の火照った頬を撫でる。


 私はフェンスの近くまで歩いていき、そしてコンクリートの上にゆっくりと寝そべった。


 練習で火照った体に、その冷たさが心地よい。


 持ってきたスポーツドリンクを一口飲む。


 そして見上げた空には、満点の星が輝いていた。


 どれくらいの時間が経っただろうか。


 背後で、ゆっくりとドアが開く音がした。


 振り返ることはしない。


 来たのは、れいかさんとあかねさんだった。


 二人はどうしていいか分からないといった様子で、困惑したようにそこに立っている。


 私は寝そべったまま、星空を見上げたまま、静かに問いかけた。


 まず、れいかさんに。


「…贖罪の方法は、見つかりましたか」


 その問いに、れいかさんはびくりと肩を震わせた。


 しかし、彼女は俯きながらも、か細い声で答えた。


「…まだ、自信はないけど。…でも、私にできることを見つけたいと、思う」


 次に、私はあかねさんに問いかけた。


「…部長として、やっていけそうですか」


 その問いに、あかねさんは少しだけ困ったように笑った。


「…全然ダメだよ。桜先輩に支えてもらって、なんとかやってるだけ」


 二人の、その不器用で、しかし誠実な答え。


 私はそれ以上、何も聞かなかった。


 ただ、二人もまたそれぞれの場所で必死に戦っているのだということだけが、分かった。


 それで、十分だった。


 長い沈黙。


 二人は、私の次の言葉を待っている。


 しかし、私の口からこぼれ落ちたのは、全く違う言葉だった。


「…星が、綺麗ですね」


 その、あまりにも唐突な呟き。


 二人が戸惑う気配がした。


 そうだ。


 私たちの悩みも、苦しみも、罪も、罰も。


 この果てしない夜空の前では、なんてちっぽけなのだろう。


 私はただ、その星々の永遠の輝きに、心を委ねていた。


 私たちの、長くて不器いな夜は、まだ始まったばかりだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ