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異端の白球使い  作者: R.D
三年生編

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魔女と魔術師

 私はラケットを握り、コートへと向かう。


 ネットを挟んで向き合った、橘コーチ。


 元・世界ランキング4位。多彩な変化の数々から、ついたあだ名は『台上の魔術師』。


 その伝説の選手を前に、体育館の空気はピンと張り詰める。


 私は、静かに口を開いた。


「ルールは、どうしますか、コーチ」


 彼は少しだけ口元を緩め、そしてこともなげに言った。


「1セットマッチ。それで十分だろう」


「…そして、サーブ権も君にあげよう」


 その言葉。


 後輩たちの目には、絶対的な強者の「余裕」と映っただろう。


 しかし、私の目には、全く違うものが見えていた。


(…思い出した。彼の現役時代の試合データ)


(格下の選手との初対戦。その、第一セットの戦い方)


(彼は常に、相手に最初の一手を委ねる。相手の全力の一撃をその身で受け止め、データを収集し、後半で完璧に解体する。…なるほど。私を分析する気ですか)


 (そして、私もその格下の中の一人……、つまり、完全に油断しているということ)


 私の心の中で、氷のように、静かに囁く。


 私はボールを手に取り、そしてあえて彼の挑発に乗ってみせた。


「いいでしょう。そのハンデ、ありがたく頂戴します」


「…『油断』がいかに命取りになるか。後輩たちに、身をもって示してあげたいと思っていましたから」


 その私の言葉の裏にある、本当の「毒」に、彼はまだ気づいていない。


 彼の瞳の奥に、面白い研究対象を見つけた学者プロフェッサーのような、楽しげな光が宿っている。


(…面白い。あなたは私を観測しているつもりでしょう)


(しかし、本当は逆です。橘コーチ)


 私は、サーブの構えに入る。


(あなたのその戦い方は、もう全て私の頭脳の中にある)


(あなたがこれから何をしようとしているのか。私には、全て見えている)


(…この最初の一球で、あなたのその余裕を、完全に破壊します)


 魔女と、魔術師。


 二人の天才が繰り広げる、究極の頭脳戦。


 その歴史の一ページが、今、静かに幕を開けようとしていた。


 まだ、誰も知らない。


 本当の意味で試されているのが、どちらの側であるのかを。

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