表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
引き継がれる異端 それぞれの過去

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

608/694

罪のありか

 部屋には、私とあかねさん、二人だけが残された。


 あかねさんが心配そうに、私の顔を覗き込む。


「…しおりちゃん。…本当に、あれでよかったの…?」


 私は、静かに頷いた。


 そして、窓の外の夕焼け空を見ながら呟いた。


「…分からない。でも、今はこれが最善だったと思う」


「彼女がこれからどんな道を選ぶのか。それは、私たちが決めることでは、ない」


「ただ、信じよう。人間が持つ、最後の良心を」


 その言葉は、れいかさんに向けられたものであると同時に、


 私自身に言い聞かせる、祈りのようでもあった。


 私の、その穏やかな態度。


 それが逆に、あかねさんの心の中で一度は鎮まりかけた怒りの炎を、再び燃え上がらせたのだろう。


 彼女は悔しそうに、唇を噛み締めた。


「…でも!私は、やっぱり赦せないよ!」


「あの子がしたことを考えたら…!葵ちゃんがどれだけ苦しんだか!部長先輩や未来さんが、どれだけ辛い思いをしたか!」


「その全部が、あの子のせいなのに…!」


 その正しく、そしてまっすぐな怒り。


 私はそんな彼女の瞳を静かに見つめ返し、そして一つの問いを投げかけた。


 それは、氷のように冷たく、そしてどこまでも正確な問いだった。


「…あかねさん」


「本当に、そうかな?」


「え…?」


「私がさっき、れいかさんに言った言葉。『あなたが、私の大切な仲間たちに与えた傷』」


「でも、考えてみて」


 私はそこで一度言葉を切り、そして彼女に、残酷なまでの真実を告げた。


「未来さんや部長が苦しんだのは、なぜ?」


「葵の心が壊れてしまったのは、なぜ?」


「それは、私が意識不明になったから」


「彼らが私を大切に想ってくれていた、その優しさのせい」


 あかねさんが、息をのむ。


 私は、続けた。


「れいかさんが犯した直接の罪は、私一人を傷つけたこと、ただそれだけ」


「仲間たちが傷ついたのは、その結果に過ぎない。そして、その結果を生み出したのは、彼らの優しさであり、私の不甲斐なさのせい」


「…ならば、その仲間たちの傷の責任まで、全て彼女一人に負わせるのは、本当に正しいことなのかな?」


 その冷徹で、そしてどこか歪な論理。


 あかねさんは、言葉を失っていた。


「…なに、言ってるの…?しおりちゃんは、悪くないじゃん…!」


「うん。私もあなたも、私が悪いとは思ってない」


「誰も悪くないのかもしれない。あるいは、全員が少しずつ間違っていたのかもしれない」


「…私には、分からない。何が本当の『罪』で、何が本当の『罰』なのか」


 私の、その諦観に満ちた言葉。


 あかねさんの瞳から、怒りの炎が消えていく。


 その代わりにそこに浮かんだのは、深い、深い悲しみの色だった。


 そうだ。


 この物語は、もう単純な善と悪の二元論では割り切れない場所まで、来てしまったのだ。


 私は、涙を堪えるあかねさんの手を、そっと握りしめた。


 その手の温かさだけが、このどうしようもない世界の中での、たった一つの真実のように感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ