罪のありか
部屋には、私とあかねさん、二人だけが残された。
あかねさんが心配そうに、私の顔を覗き込む。
「…しおりちゃん。…本当に、あれでよかったの…?」
私は、静かに頷いた。
そして、窓の外の夕焼け空を見ながら呟いた。
「…分からない。でも、今はこれが最善だったと思う」
「彼女がこれからどんな道を選ぶのか。それは、私たちが決めることでは、ない」
「ただ、信じよう。人間が持つ、最後の良心を」
その言葉は、れいかさんに向けられたものであると同時に、
私自身に言い聞かせる、祈りのようでもあった。
私の、その穏やかな態度。
それが逆に、あかねさんの心の中で一度は鎮まりかけた怒りの炎を、再び燃え上がらせたのだろう。
彼女は悔しそうに、唇を噛み締めた。
「…でも!私は、やっぱり赦せないよ!」
「あの子がしたことを考えたら…!葵ちゃんがどれだけ苦しんだか!部長先輩や未来さんが、どれだけ辛い思いをしたか!」
「その全部が、あの子のせいなのに…!」
その正しく、そしてまっすぐな怒り。
私はそんな彼女の瞳を静かに見つめ返し、そして一つの問いを投げかけた。
それは、氷のように冷たく、そしてどこまでも正確な問いだった。
「…あかねさん」
「本当に、そうかな?」
「え…?」
「私がさっき、れいかさんに言った言葉。『あなたが、私の大切な仲間たちに与えた傷』」
「でも、考えてみて」
私はそこで一度言葉を切り、そして彼女に、残酷なまでの真実を告げた。
「未来さんや部長が苦しんだのは、なぜ?」
「葵の心が壊れてしまったのは、なぜ?」
「それは、私が意識不明になったから」
「彼らが私を大切に想ってくれていた、その優しさのせい」
あかねさんが、息をのむ。
私は、続けた。
「れいかさんが犯した直接の罪は、私一人を傷つけたこと、ただそれだけ」
「仲間たちが傷ついたのは、その結果に過ぎない。そして、その結果を生み出したのは、彼らの優しさであり、私の不甲斐なさのせい」
「…ならば、その仲間たちの傷の責任まで、全て彼女一人に負わせるのは、本当に正しいことなのかな?」
その冷徹で、そしてどこか歪な論理。
あかねさんは、言葉を失っていた。
「…なに、言ってるの…?しおりちゃんは、悪くないじゃん…!」
「うん。私もあなたも、私が悪いとは思ってない」
「誰も悪くないのかもしれない。あるいは、全員が少しずつ間違っていたのかもしれない」
「…私には、分からない。何が本当の『罪』で、何が本当の『罰』なのか」
私の、その諦観に満ちた言葉。
あかねさんの瞳から、怒りの炎が消えていく。
その代わりにそこに浮かんだのは、深い、深い悲しみの色だった。
そうだ。
この物語は、もう単純な善と悪の二元論では割り切れない場所まで、来てしまったのだ。
私は、涙を堪えるあかねさんの手を、そっと握りしめた。
その手の温かさだけが、このどうしようもない世界の中での、たった一つの真実のように感じられた。




