罪
私の体を支える、あかねさんの腕の震えが伝わってくる。
私は彼女に支えられながら、ゆっくりと床に蹲るれいかさんと、その妹を庇うように立つ桜さんの前に立った。
部屋は、静寂に包まれている。
私はまず、泣きじゃくるれいかさんに告げた。
その声には、冷徹さはなかった。
ただ、深い、深い哀しみの色が宿っている。
「…あなたの謝罪を、私が受け入れることはできない」
「あなたが本当に謝るべき相手は、私ではない。それは、あなたがその手で心を壊してしまった者たちに。そして、あなたを信じていた全ての人、一人一人に」
「そして、私はあなたを赦すことはできない」
「私が赦せるのは、私が受けた傷だけ。あなたが私の大切な仲間たちに与えた傷を、私が勝手に赦す資格はない」
「最後に、私はあなたを裁きもしない」
「この国には法というルールがある。本来なら、あなたはそこで裁かれるべきだった。しかし、学校の愚かな大人が、その道を閉ざしてしまった」
赦しも、裁きも、しない。
ただ、冷徹な事実だけを告げる。
れいかさんの顔が絶望に染まり、彼女はもはや泣くことさえできずに、ただ私を見上げていた。
私は、彼女に最後の言葉を告げた。
それは命令ではない。
彼女に委ねられた、あまりにも重く、そしてたった一つの道標だった。
「青木れいかさん」
「あなたが犯した罪の重さは、あなたが一番よく分かっているはず」
「あなたが奪ったものの大きさを、その目で見て、そして感じて、その心で」
「そして」
私はそこで一度言葉を切り、彼女の魂の奥底に語りかけるように言った。
「どう償うかは、あなた自身が決めなさい」
「もし、あなたにまだ人の心が残っているのなら」
「もし、あなたが本当に後悔しているのなら」
「これから何をすべきか。その答えは、あなた自身が見つけ出すべきものだと、私は思う」
私はそれだけを言うと、彼女に背を向けた。
あかねさんに支えられながら、ベッドへと戻る。
もう、これ以上私が言うことは何もない。
部屋には、重い沈黙が落ちる。
やがて、桜さんが震える声で妹に語りかけた。
「…れいか。…行こう」
彼女は妹の腕を引き、そして二人で静かに部屋を出ていった。
れいかさんは、最後まで一度も顔を上げなかった。
部屋には、私とあかねさん、二人だけが残された。
あかねさんが、心配そうに私の顔を覗き込む。
「…しおりちゃん。…本当に、あれでよかったの…?」
私は、静かに頷いた。
そして、窓の外の夕焼け空を見ながら呟いた。
「…分からない。でも、今はこれが最善だったと思う」
「彼女がこれからどんな道を選ぶのか。それは、私たちが決めることではない」
「ただ、信じよう。人間が持つ、最後の良心を」
その言葉は、れいかさんに向けられたものであると同時に、
私自身に言い聞かせる、祈りのようでもあった。
私たちの、長くて、そしてどうしようもない物語は、まだ始まったばかりなのだから。




