心のままに
その、太陽の断罪。
部屋は、完全な静寂に包まれた。
罪を犯した者。
罪を庇う者。
罪を断罪する者。
三人の少女たちの心が、憎しみと悲しみと罪悪感で飽和し、爆発する寸前だった。
私は、その光景をベッドの上からただ静かに観測していた。
(…ダメだ)
(このままでは、あかねさんが壊れてしまう)
(彼女の、あの優しい太陽のような心が、憎しみの業火で焼き尽くされてしまう…!)
止めなければ。
私が。
論理ではない。計算でもない。
ただ、心のままに。
彼女を、この地獄から救い出さなければ。
私は、怒りに震えるあかねさんのその胸に飛び込むように、ベッドから身を躍らせた!
抱きしめようとした。
「大丈夫だよ」と、その体で伝えるために。
しかし。
私のその直情的な魂の叫びに、不完全な肉体は全くついてこられなかった。
ベッドから飛び出した私の体は、完全にバランスを失う。
足に力が入らない。
受け身も取れない。
私の体は重力に引かれるまま、頭から床に叩きつけられた。
ゴンッ!!!
という鈍い音が、静まり返った病室に響き渡る。
一瞬の静寂。
そして、その静寂を切り裂いたのは、あかねさんの絶叫だった。
「――しおりちゃんっ!!」
彼女の顔から、怒りの色は完全に消え失せていた。
そこにあるのは、ただ純粋な「恐怖」と「後悔」。
彼女は床に倒れる私の元へと駆け寄り、その頭を震える手でそっと抱きかかえる。
「ごめん…!ごめんね、しおりちゃん…!私のせいで…!私が、あんなこと言ったから…!」
彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出し、私の頬を濡らす。
桜さんも、れいかさんも、ただ呆然とその光景を立ち尽くして見ているだけ。
頭が、痛い。
視界が、ぐらぐらする。
でも、不思議と私の心は穏やかだった。
届いたのだ。
今は、憎しみに満ちた感情が感じられない。
私のこの不器用な想いが、彼女の心の、一番深い場所に。
私はありったけの力を振り絞り、震える手を上げた。
そして、泣きじゃくるあかねさんのその頬を、そっと撫でる。
彼女が、驚いて私を見る。
私は彼女に向かって、精一杯微笑んでみせた。
そして、たった一言だけ告げた。
それはかつて、彼女が絶望の淵にいたあおにかけたのと、同じ言葉。
「……大丈夫だよ、あかねさん」
その、言葉。
その、全てを赦すような響き。
あかねさんの心の中の憎しみの炎が、その一言でふっと音を立てて消えていくのが分かった。
彼女はもう何も言えずに、ただ私の胸に顔をうずめ、子供のように声を上げて泣き続けた。
本当の意味で帰ってきた。
私の、そして私たちの元へ。
私は、泣きじゃくる彼女の頭をそっと撫でながら、静かに桜さんとれいかさんを見つめた。




