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異端の白球使い  作者: R.D
引き継がれる異端 それぞれの過去

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業火の内側

 大丈夫。


 大丈夫。


 しおりちゃんは、少しずつ良くなっている。


 未来さんも、頑張ってる。


 私も、頑張らなくちゃ。


 私は自分にそう言い聞かせながら、しおりちゃんの病室へと向かっていた。


 両手には、彼女の好きそうなフルーツゼリーが入った買い物袋。


 今日の部活の報告と、それから昨日見つけた新しいアンチラバーの話もしてあげよう。


 そんな、少しだけ前向きな気持ちでドアノブに手をかけた、その瞬間だった。


 ドアの隙間から聞こえてきたのは、聞き覚えのある、か細い声だった。


 泣きじゃくりながら、何かを告白している。


 青木れいかさんの声だ。


 そして、その言葉の断片が、私の耳に突き刺さった。


『…私が…やりました…』


『…首を…切りつけ…そして、絞めた…』


 私の、思考が止まる。


 世界から、音が消えた。


 頭の中で、何かがプツリと切れる音がした。


 次の瞬間、私は病室のドアを蹴破るように開けていた。


 バタンッ!!!


 目の前に広がる光景。


 全てが、スローモーションに見えた。


 床に崩れ落ち、泣きじゃくるれいかさん。


 その彼女を庇うように立つ、桜さん。


 そして、ベッドの上で静かにそれを見つめる、しおりちゃん。


 ああ。


 ああ、ああ、ああ、ああ。


 私の視界が、赤く染まっていく。


 頭の中で、何かが爆発した。


(…あんただったのか)


 私がずっと探していた犯人。


 しおりちゃんをこんな目に遭わせた、どこの誰かも分からない悪意の塊。


 私がこの半年、時間を削って、プライドを捨てて、必死にその尻尾を探していた憎むべき亡霊。


 その正体が。


 私たちのすぐそばで、何食わぬ顔して笑っていた、あんただったなんて。


 買い物袋が手から滑り落ちるのも気づかなかった。


 一歩、前に出る。


 桜さんが何かを言っている。


 聞こえない。


 私の世界には、もう、あんたの姿しか映っていない。


 脳裏に、蘇る。


 心を閉ざしてしまった、葵ちゃんの空っぽの瞳。


 一人全てを背負い込み、走り続けていた、部長先輩の孤独な背中。


 部長という重圧の中で、静かに心をすり減らしていた、未来さんの横顔。


 そして、何よりも。


 このベッドの上で、半年以上も闇の中をさまよっていた、しおりちゃんの白い顔。


 その全て。


 私たちの失われた、全ての時間が。


 あんたの、そのちっぽけな嫉妬のせいだったなんて。


(…ふざけるな…!)


 涙が、溢れてくる。


 悔しい。


 情けない。


 こんな簡単な答えにたどり着けなかった自分自身が、腹立たしくてたまらない。


 私の口から、言葉が(ほとばし)る。


 それはもはや、私の声ではなかった。


 私の心の中で燃え盛る、業火そのものだった。


「私は、あんたを赦さない」


「しおりちゃんが赦したとしても。未来ちゃんが赦したとしても」


「私だけは、絶対にあなたを赦さないから」


 その言葉を吐き出した瞬間。


 私の目の前が、真っ暗になった。


 怒りのあまり、自分の意識さえも焼き切ってしまったのかもしれない。

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