慟哭
私が口を開きかけた、まさにその瞬間だった。
バタンッ!!!
病室のドアが、凄まじい勢いで開かれた。
そこに立っていたのは、買い物袋を手にしたまま肩で息をする、あかねさんの姿だった。
彼女の顔から、いつもの太陽のような笑顔は完全に消え失せている。
その瞳に宿っていたのは、ただ一つ。
全てを焼き尽くす、業火のような「怒り」だった。
「…今の話…本当なの…?」
あかねさんのその震える声に、れいかさんの体がびくりと跳ねる。
あかねさんは、床に落ちた買い物袋には目もくれず、一歩、また一歩と、れいかさんへと近づいていく。
そのあまりの気迫に、桜さんが咄嗟に妹を庇うように、その前に立った。
「待って、あかねさん…!」
「どいてください、桜さん!」
あかねさんのその声には、一切の敬意も遠慮もなかった。
ただ、絶対的な拒絶だけがそこにはあった。
彼女は桜さんの肩越しに、床で泣きじゃくるれいかさんを睨みつけ、そして叫んだ。
それは、この数ヶ月、彼女がたった一人で抱え込んできた、全ての痛みの爆発だった。
「…あんただったんだね…」
「私がずっと探してた犯人は…!」
「私、ずっと調べてたんだよ!しおりちゃんが倒れたあの日から、ずっと!一体誰が、しおりちゃんをあんな目に遭わせたのかって!」
「学校中の人に話を聞いて!しおりちゃんの昔の噂を調べて!しおりちゃんのいた小学校にまで行った!…でも、分からなかった!どれだけ頑張っても、真実にたどり着けなかった!」
彼女の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
それは怒りと、そして自らの無力さへの悔し涙だった。
「…そうだよね…。外に目を向けても、分かるはずないよね…!」
「だって犯人は、こんなすぐ近くにいたんだから!しおりちゃんのクラスメイトで!私たちのすぐそばで、何食わぬ顔して笑ってた、あなただったんだから!」
その、まっすぐな怒りの奔流。
れいかさんはもはや泣きじゃくることさえできずに、ただ小さく震えている。
桜さんも言葉を失い、ただ妹を庇うように立ち尽くすだけ。
あかねさんは続けた。その声は、もはや叫びではなかった。
それは、どこまでも静かで、そして冷たい慟哭だった。
「…あなた、知ってる…?」
「葵ちゃんがどうなったか。部長先輩がどんな思いで東京に行ったか。未来さんがたった一人で、何を背負ってきたか」
「…そして、しおりちゃんが。この半年以上、この白い部屋で、どんな地獄を見てきたか…!」
「全部、全部、あなたのそのちっぽけな嫉妬のせいなんだよ…!」
彼女はそこで一度言葉を切り、そして最後の宣告を告げた。
その瞳には、もはや涙はなかった。
ただ、絶対的な光だけが宿っていた。
「私はあんたを赦さない。しおりちゃんが赦したとしても。未来ちゃんが赦したとしても」
「私だけは、絶対にあなたを赦さないから」
その、断罪。
部屋は、完全な静寂に包まれた。
罪を犯した者。
罪を庇う者。
罪を断罪する者。
そして、その全ての中心にいる、私。
四人の少女たちの視線が、交錯する。
この、どうしようもない悲劇の連鎖を断ち切るための言葉を紡ぎ出せるのは、もう、私しかいない。
私は、ゆっくりと息を吸い込んだ。




