告白
ある日の午後。
病室の窓から差し込む冬の日差しは、穏やかだった。
私はベッドの上で、手癖のように、予備のラケットを手元でくるくると回していた。
肉体はまだ不自由でも、私の手作業は自由だ。
その静かな時間を破ったのは、控えめなノックの音だった。
「…どうぞ」
入ってきた二人の姿に、私は本から顔を上げた。
一人は、常勝学園の高等部の制服を着た青木桜さん。
そして、その後ろに隠れるようにして俯いたままの、妹の青木れいかさん。
部屋の空気が、一瞬で張り詰める。
私は何も言わずに、ただ二人を見つめていた。
この訪問の意味を、私の頭脳は瞬時に理解していたから。
桜さんが深く息を吸い込み、そして決意を固めたように口を開いた。
その声は静かだったが、どこまでも真剣だった。
「…静寂さん。今日は、あなたに謝らなければならないことがあって来ました」
「そして、妹であるこの子から、あなたに話さなければならないことがあります」
彼女は、れいかさんの背中をそっと押し、私のベッドの前へと促す。
れいかさんは顔を上げられないまま、その肩が小刻みに震えているのが分かった。
長い、長い沈黙。
部屋に響くのは、私の心臓モニターの電子音と、彼女のか細い呼吸音だけ。
やがて、彼女はついにその重い口を開いた。
その声はか細く、そして途切れ途切れで、床に吸い込まれていくようだった。
「…私が…」
「私が、やりました…」
彼女は、全てを告白した。
姉である桜さんへの、醜い嫉妬。
私への、根拠のない憎悪。
私が流した、噂。
私が壊した、ラケット。
そして最後に、あの空き教室で。
私があなたの首を切りつけ、そして絞めたこと。
その、あまりにも醜く、そして痛ましい罪の告白。
桜さんは隣で唇を強く噛み締め、涙を堪えている。
私は、ただ黙って聞いていた。
その瞳には、怒りも悲しみもなかった。
ただ、深い、深い憐れみだけがあった。
目の前にいるこの少女もまた、私と同じ。
どうしようもない弱さと未熟さに囚われた、一人の壊れそうな人間に過ぎないのだ、と。
れいかさんは全てを話し終えると、その場にへたり込むように崩れ落ちた。
そして、子供のように声を上げて泣きじゃくり始める。
「…ごめんなさい…!ごめんなさい、静寂さん…!」
その、魂からの謝罪。
私は彼女に何か言葉をかけなければならない、と思った。
赦す、とか、赦さないとか、そういうことではない。
ただ、何か…。
私が口を開きかけた、まさにその瞬間だった。
バタンッ!!!
病室のドアが、凄まじい勢いで開かれた。
そこに立っていたのは、買い物袋を手にしたまま肩で息をする、あかねさんの姿だった。
彼女の顔から、いつもの太陽のような笑顔は完全に消え失せている。
その瞳に宿っていたのは、ただ一つ。
全てを焼き尽くす、業火のような「怒り」だった。




