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異端の白球使い  作者: R.D
引き継がれる異端 それぞれの過去

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教育者として

 校長が逃げるように部屋を出ていった後。


 病室には、私と、そして呆然と立ち尽くす佐藤先生だけが残された。


 彼は信じられないといった顔で、私を見ている。


 私はそんな彼に、悪戯っぽく笑いかけてみせた。


「…言ったでしょう、先生。もっと確率の高いゲームがある、と」


 その私の言葉に、先生は何も答えなかった。


 彼は挨拶をすると、少しふらつく足取りで、私の病室を後にしていく。




 ________________________________


 一人車に戻った俺は、エンジンをかけることも忘れ、ただハンドルの上でうなだれていた。


(…なんだ、あれは…)


 俺の頭の中は、先ほどの光景でいっぱいだった。


 あの車椅子の少女の、あまりにも冷徹な瞳。


 そして、巨大な権力者である校長を、たった数分の言葉だけで完全に屈服させた、その恐ろしい交渉術。


 あれは、正義ではない。


 しかし、悪でもない。


 あれは、俺が全く知らない、新しい戦い方だった。


 俺の思考は、あの夜へと遡る。


 そう、自らの全てを懸けて戦うことを決意した、あの日に。


 そうだ。


 俺はあの日、確かに覚悟を決めたのだ。


 自らを犠牲にしてでも正義を貫くと。


 しおりに恥ずかしくない大人であろうと。


 しかし。


 今日、俺が目の当たりにした光景は、何だったのか。


 彼女は、犠牲など望んでいなかった。


 彼女は、正義のために誰かが傷つくことなど望んでいなかった。


 彼女が望んだのは、もっとしたたかで、そして確実な「勝利」だ。


 彼女は敵の醜さを利用し、敵の武器で敵を打ち負かした。


 その手は汚れているかもしれない。


 しかし、その結果、彼女は誰一人傷つけることなく、仲間たちの未来を守り抜いたのだ。


 俺が、やろうとしていたことは何だったのか。


 それは、ただの自己満足ではなかったか。


 自らが悲劇のヒーローになることで、自分の罪悪感を清算しようとしていただけではないのか。


 俺は、ゆっくりと顔を上げた。


 その瞳には、もう迷いはなかった。


 自分が本当にすべきことが、ようやく分かったのだ。


 この戦いの司令官は、俺ではない。


 あの車椅子の少女だ。


 そして、俺の役割は、彼女のそのあまりにも危険で、そして気高い戦いを、一番近くで支える一人の「兵士」になること。


 本当の「戦い」は、ここから始まる。


 もはや、孤独な英雄としてではない。


 あの恐ろしく、そして誰よりも信頼できる、小さな「魔女」の、最強の駒として。

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