欠陥品の修理 (2)
あの日、私が部長と競い合うようにバイクを漕いでから。
私のリハビリは、新しい局面を迎えていた。
それは、もはや私一人の戦いではなかった。
それから毎日。
放課後になると私の病室には仲間たちが集まってきて、私たちは揃ってあのリハビリテーション室へと向かう。
それは、いつしか第五中学卓球部の、新しい「部活動」のようになっていた。
一週間が過ぎ、私の最初の課題は「歩行」だった。
平行棒にしがみつき、一歩、また一歩と足を前に出す。
たったそれだけの動作に、私の全身の筋肉が悲鳴を上げた。
「そうだ、しおり!いいぞ!腕をもっと振れ!」
隣で、部長が熱血コーチのように檄を飛ばす。
「しおりちゃん、呼吸忘れないで!吸って、吐いてー!」
あかねさんが、チアリーダーのように笑顔で応援してくれる。
「…心拍数、上昇率、正常範囲内。フォームのブレ、許容範囲です」
少し離れた場所で、未来さんがストップウォッチを片手に冷静にデータを記録している。
そして、私のすぐ傍らには、いつも葵がいた。
彼女は何も言わない。
ただ、私が倒れそうになったその瞬間にいつでも支えられるように、その両手を広げて私と同じ速度で歩いてくれる。
その無言の優しさが、何よりも私の力になった。
二週間が過ぎた。
私はついに、平行棒なしで壁伝いに部屋を一周歩けるようになった。
その日の夜、葵は病室で子供のように泣いて喜んだ。
私も、つられて泣いた。
それは、久しぶりに流す温かい涙だった。
一ヶ月が過ぎる頃、私のメニューに卓球の素振りが加わった。
愛用のラケットを手に、振る。
しかし、その動きはあまりにもぎこちなく、十数回振るだけで腕が上がらなくなる。
悔しさに、歯を食いしばる私。
そんな時、未来さんが一枚のグラフを私に見せた。
「見てください、しおりさん。一ヶ月前と比べて、あなたの筋力は向上しています。このペースでいけば、半年後には…」
その客観的なデータが、私の焦る心を静めてくれる。
「そうだぞ、しおり!昨日のお前より、今日のお前は確実に強い!」
部長の、その単純でしかし力強い言葉が、私の心を奮い立たせる。
そうだ。
下を向いている暇はない。
私には、目標があるのだから。
毎日、毎日、同じことの繰り返し。
地味で、苦しく、そして終わりの見えないリハビリ。
それは、一人だったらとっくに心が折れていたであろう、地獄の日々。
しかし、私の周りには、いつも彼らがいた。
私を励まし、支え、そして共に戦ってくれる仲間たちが。
かつて、私の太陽は葵一人だった。
しかし、今の私には四つの太陽がいる。
それぞれ違う色で、しかし等しく温かい光を放ちながら、私のこの暗い道を照らし出してくれる。
その光に導かれるように、私は一歩、また一歩と歩き続けた。
失われた過去ではなく、仲間たちと共に作る、新しい「未来」へと向かって。




