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異端の白球使い  作者: R.D
引き継がれる異端 それぞれの過去

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はじまり

 その眩いばかりの光の中で、私たちはしばらく誰も何も言えなかった。


 ただ呆然と、新しい世界の始まりを告げるその圧倒的な光景を見つめていた。


 私の頬を伝う涙の跡を、新年の冷たい風が優しく撫でていく。


 やがて、私が静かに呟いた。


「…明けたね」


 その言葉に、隣にいた部長が深い感慨を込めて頷いた。


「…ああ」


 もう、十分だった。


 私たちはこの場所で古い一年を見送り、そして新しい光を迎えた。


 私の心は、不思議なほど穏やかで、そして満たされていた。


「…帰ろうか」


 私のその一言に、みんなが頷く。


 その時、あかねさんがはっと思い出したように言った。


「あ、そうだ!おみくじ、引いていかなくちゃ!」


 その言葉に、私は静かに首を横に振った。


 そして、去年撮ったあの不吉な予言の写真が保存されたスマートフォンを、ポケットにしまった。


「…今回は、いいかな」


(もう、必要ないから)


(神様の言葉も、予言も)


(私の道は私が決める。この仲間たちと共に歩くと、決めたのだから)


 私の言葉の真意を察したのだろう。


 部長は何も言わずに私の前にしゃがみ込み、そして背中を向けた。


 あかねさんも手際よく私の車椅子を畳み、そして軽々とその背中に担ぎ上げる。


 その、あまりにも自然な連携。


 私はくすりと笑みを漏らし、そして部長のその広い背中に、そっと体を預けた。


 私たちは、下っていく。


 去年、あれほど果てしなく感じられた、長い長い石段を。


 登る時とは違う、穏やかな気持ちで。


 部長の背中の温かさ。


 隣を歩く、葵の手の感触。


 前を歩く、未来さんとあかねさんの楽しそうな笑い声。


 その全てが、私を包み込む。


 私たちの本当の「リハビリ」は、まだ始まったばかりだ。


 きっと、この石段のように何度も躓き、転びそうになる困難な道だろう。


 でも、もう怖くはない。


 一人ではないと、知ってしまったから。


 眼下に広がる街に、新しい朝の光が降り注いでいる。


 そのどこまでも続く光の道を、私たちは今、確かに、共に歩き始めたのだ。

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