表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の白球使い  作者: R.D
第二期 引き継がれる異端

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

557/694

再開

 …宇宙を彷徨っていた、私の意識は、ふっと、途絶えた。


 無。


 完全な、ゼロ。


 どれくらいの時間が、経ったのだろうか。


 私の意識の地平線に、一つの音が、響き始めた。


 ピッ…ピッ…ピッ…


 規則正しい、電子音。


 それは、私がずっと、一人で生きてきたあの静寂な世界には、存在しなかった音だ。


 次に感じたのは、感覚だった。


 私の右手を優しく、そして力強く包み込む、確かな温もり。


 肌に触れる、少しごわごわとしたシーツの、感触。


 そして、鼻腔をかすめる、消毒液の、ツンとした匂い。


 最後にやってきたのは、声だった。


「……しおり……聞こえる…?しおり…」


 か細く、そして泣き濡れたような、声。


 でも、その響きを、私は知っている。


 私の魂が、決して忘れることのない、たった一つの、声。


 (…あお…?)


 私は、その声の主を確かめたくて、必死に瞼を、こじ開けようとした。


 鉛のように、重い。


 全身の、ありったけの力を、その一点に、集中させる。


 ほんのわずかに開いた、瞼の隙間から、ぼやけた光が、差し込んでくる。


 白い、光。


 天井だ。


 私は、ゆっくりと、その光景に、ピントを合わせていく。


 そして、私は見た。


 私の手を、両手で握りしめ、その顔を、涙でぐしゃぐしゃにしながら、私を、覗き込んでいる、あおの姿を。


 その隣には、息をのんで、私を見つめる、未来さんと、あかねさんの顔もある。


 少し後ろには、高校の制服を着た、部長の姿も。


 (…みんな…いる…)


 夢じゃ、ない。


 これは、現実だ。


 私の、統合された思考が、瞬時に全てを理解する。


 私は、目覚めたのだ。


 よかった。


 また、会えた。


 その安堵と喜びが、私の胸に、溢れ出す。


 私は、彼女たちに、伝えなければならない。


「心配をかけて、ごめんなさい」と。


「そして、ありがとう」と。


 私は口を開き、そして、声を出そうとした。


 しかし。


 私の喉から漏れ出たのは、言葉の形をなさない、かすれた空気の音だけだった。


「…ぁ…ぅ……」


 おかしい。


 声が、出ない。


 体が、動かない。


 指一本、持ち上がらない。


 私の完璧なはずだった思考と、私の肉体が、全く繋がっていない。


 私は、この動かない体という、牢獄に閉じ込められている。


 その、恐ろしい事実に、私の心は、絶望に染まりかける。


 あおが、私の手を、さらに強く、握りしめた。


 そして、彼女は、涙で濡れた顔で、それでも、世界で一番美しい笑顔を、浮かべて言ったのだ。


「…うん。わかってるよ、しおり」


「大丈夫。伝わってる。私たちは、ずっとここに、いるから」


 その、言葉。


 その、温もり。


 私の瞳から、一筋、熱い何かが零れ落ちた。


 それは、絶望の涙では、なかった。


 私の、新しい戦いが、始まる。


 この、動かない体と、失われた言葉を取り戻すための、長く、そして、過酷な戦いが。


 しかし、もう私は、一人ではない。


 (…ただいま、みんな)


 その、声にならない言葉と、共に。


 仲間たちの、温かい気配に、包まれながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ