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異端の白球使い  作者: R.D
第二期 引き継がれる異端

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556/695

統合

 私たちのラリーは、まだ続く。


 しかし、それはもう、意地と意地の、ぶつかり合いでは、なかった。


 光と闇が混じり合い、そして、一つの美しいメロディーを奏でる、デュエットのようだった。


 私は、無我夢中で、ボールを追いかけた。


 勝敗など、もうどうでもよかった。


 長い長い、ラリーの応酬。


 そしてついに、その瞬間が、訪れる。


 彼女わたしが放った、鋭い一球。


 それに対し、私の体が、自然と反応する。


 踏み込み、腰を落とし、そして全ての想いを、乗せて、ラケットを振り抜いた。


 ボールは閃光となって、彼女わたし)のコートの隅を、打ち抜いた。


 静寂。


 ネットの向こう側で、彼女わたしは、静かに、ラケットを下ろした。


 そしてその、氷のようだった瞳に、ほんのわずかに、柔らかな色が宿る。


「……自分に負けるのは、新鮮な気分ですね」


 その声は、紛れもなく、私の声だった。


 しかしそこには、私が知らない、どこまでも深く、そして優しい響きがあった。


「そろそろ、目覚めの時です」


「あなたが決断した。光と闇、生と死、その、どちらもを背負っていくという、その覚悟」


「楽な道にはならないでしょう。何度も、心が折れそうになるかもしれない。…でも」


 彼女はそこで、一度言葉を切り、そして初めて、はっきりと微笑んだ。


「私も、手伝いますから」


「あなたは…」


 私が問いかけると、彼女は、自分の胸に、そっと手を当てた。


「私はしおり。あなたが生き延びるために作り上げた、仮面です」


「父の暴力も、母の裏切りも、葵を突き放した、あの痛みも。その全ての傷を、あなたに代わって受け止めてきた、ただの鎧」


 その言葉に、私は全てを理解した。


 私は、彼女に歩み寄り、そして言ったのだ。


 涙で濡れた、声で。


「…ありがとう。ずっと私を、守ってくれて」


「でももういいの。これからは、私も一緒に、その傷を背負うから」


 その、私の言葉に、彼女は、満足そうに頷いた。


 そして、私に向かって、その手を差し伸べる。


「ええ。一緒に、行きましょう」


 私が、その手を取った、瞬間。


 彼女の体が、眩い光の粒子となって、崩れていく。


 そして、その光は吸い込まれるように、私の、体の中へと、溶け込んでいった。


 温かい。


 そして、どこまでも静かだ。


 失っていた半身が、還ってくるような、完全なる一体感。


 私の心の中に、彼女のあの、氷のような冷静さと、そして、私のこの、炎のような感情が、同時に存在する。


 もう私は、一人ではない。


 その充足感を、最後に感じながら。


 宇宙を彷徨っていた、私の意識は、…ふっと、途絶えた。

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