統合
私たちのラリーは、まだ続く。
しかし、それはもう、意地と意地の、ぶつかり合いでは、なかった。
光と闇が混じり合い、そして、一つの美しいメロディーを奏でる、デュエットのようだった。
私は、無我夢中で、ボールを追いかけた。
勝敗など、もうどうでもよかった。
長い長い、ラリーの応酬。
そしてついに、その瞬間が、訪れる。
彼女が放った、鋭い一球。
それに対し、私の体が、自然と反応する。
踏み込み、腰を落とし、そして全ての想いを、乗せて、ラケットを振り抜いた。
ボールは閃光となって、彼女のコートの隅を、打ち抜いた。
静寂。
ネットの向こう側で、彼女は、静かに、ラケットを下ろした。
そしてその、氷のようだった瞳に、ほんのわずかに、柔らかな色が宿る。
「……自分に負けるのは、新鮮な気分ですね」
その声は、紛れもなく、私の声だった。
しかしそこには、私が知らない、どこまでも深く、そして優しい響きがあった。
「そろそろ、目覚めの時です」
「あなたが決断した。光と闇、生と死、その、どちらもを背負っていくという、その覚悟」
「楽な道にはならないでしょう。何度も、心が折れそうになるかもしれない。…でも」
彼女はそこで、一度言葉を切り、そして初めて、はっきりと微笑んだ。
「私も、手伝いますから」
「あなたは…」
私が問いかけると、彼女は、自分の胸に、そっと手を当てた。
「私はしおり。あなたが生き延びるために作り上げた、仮面です」
「父の暴力も、母の裏切りも、葵を突き放した、あの痛みも。その全ての傷を、あなたに代わって受け止めてきた、ただの鎧」
その言葉に、私は全てを理解した。
私は、彼女に歩み寄り、そして言ったのだ。
涙で濡れた、声で。
「…ありがとう。ずっと私を、守ってくれて」
「でももういいの。これからは、私も一緒に、その傷を背負うから」
その、私の言葉に、彼女は、満足そうに頷いた。
そして、私に向かって、その手を差し伸べる。
「ええ。一緒に、行きましょう」
私が、その手を取った、瞬間。
彼女の体が、眩い光の粒子となって、崩れていく。
そして、その光は吸い込まれるように、私の、体の中へと、溶け込んでいった。
温かい。
そして、どこまでも静かだ。
失っていた半身が、還ってくるような、完全なる一体感。
私の心の中に、彼女のあの、氷のような冷静さと、そして、私のこの、炎のような感情が、同時に存在する。
もう私は、一人ではない。
その充足感を、最後に感じながら。
宇宙を彷徨っていた、私の意識は、…ふっと、途絶えた。




