罪の告白
学校からの帰り道を、とぼとぼと歩いていた。
街は、夕暮れの茜色に、染まっていく。
その色が、あの日、彼女の白いブラウスに広がった、赤色と重なって、私の胸を、締め付ける。
(…静寂さん…)
彼女を意識不明にしてしまった、その罪悪感は、半年が経った今も、少しも消えてはくれない。
むしろ日を追うごとに、その重さは、増していくばかりだ。
私が償えることなら、何でもする。
そう思う。
でも、私が壊してしまった、あの卓球部。
そこに、私が行っても、何になるというのか。
私ではなく、お姉ちゃんこそが適任なのだ。
そう。私には、何もできることはない。
家に着き、私は、制服のままベッドにくるまった。
そして、思い出す。
あの日私がしたことの、全てを。
自分の、器の、小ささ。
嫉妬心から、大勢で囲み、そして、彼女の命まで奪おうとした、その残酷さ。
自分自身に、嫌気がさす。
どれくらい、そうしていただろうか。
ガチャ、と、部屋のドアが、開く音がした。
お姉ちゃんだった。
「れいか、ただいま」
「……おかえり」
「…また、泣いてるの?」
お姉ちゃんが、私のベットの端に腰掛け、そして、私の頭を、優しく撫でた。
その温かい、手の感触。
それが、私の心の、最後の壁を、いとも簡単に壊してしまった。
「…お姉ちゃん」
私の、声は、震えていた。
「私、私は、ひどいこと、しちゃった…」
私は、もう、我慢できなかった。
あの日、私がしたこと、その全てを、彼女に告白したのだ。
しおりさんへの、嫉妬。
私が、流した、噂。
私が、壊した、ラケット。
そして最後に、私が、彼女の命を奪おうとした、ということ。
私のその、あまりにも醜い、罪の告白。
お姉ちゃんは、何も言わずに、ただ黙って、聞いてくれていた。
そして私が、一通り話し終えるのを待って、静かに、そして力強く、私を抱きしめた。
「…そっか。…辛かったね、れいか」
その、優しく包み込むような、声。
私は、彼女の胸の中で、子供のように、声を上げて、泣き続けた。
ごめんなさい、ごめんなさい、と、何度も何度も、繰り返しながら。
「…れいか。私も、あなたと、同じだよ」
不意に、お姉ちゃんが、そう、言った。
「私もね、静寂さんと戦って、負けた時、心のどこかで、嫉妬していたのかもしれない。彼女のあの、自由な卓球に。そして、彼女の周りにいる、温かい仲間たちに」
「でもね、れいか。私たちは選べるんだよ。その嫉妬の炎で、相手を焼き尽くすか。あるいは、その炎を、自分自身を高めるための、力に変えるか」
彼女はそう言って、私の涙を、その指で、優しく拭ってくれた。
「あなたは、間違ってしまった。でも、まだやり直せる。償う、チャンスは、まだ残っているはずだから」
その、言葉。
その、どこまでも温かい光。
私は、その光の中で、ようやく顔を上げることが、できた。
私の罪が、消えることはない。
でも、ここから、始めるんだ。
私の、本当の、「贖罪」が。
その決意を胸に、私は、姉のその、温かい胸の中で、いつまでも泣き続けた。




